第1章 (5)愛のテスト飛行 Part①

 一週間後の休日、ジーンとミカリーナは初めてのデートを約束した。ジーンは、新型宇宙船のテスト飛行にミカリーナを招待した。


 二人は、サンライズ・スペースポート (Sunrise Space Port)にやって来た。宇宙港は昨年新設されたばかりで、政府の宇宙開発の中心となる施設として期待されている。惑星で最も温暖なホットアイランド(Hot Island)のすぐそばで、周りを海に囲まれた小さな半島の最先端に造られた。首都ニュールウトから南東50kmに位置し、交通の利便性りべんせいでも最適な場所だ。


 新型宇宙船はすでにドックから出され、二人がの当たりにしたものは、まばゆい銀白色に輝く見たこともないフォルムの真新しい宇宙船。まるで生き物のようで、まさに怪物『宇宙ファルコン』であった。

 そのフォルムを生物にたとえるならば、空飛ぶ翼竜よくりゅうや鳥と言うより、クジラやイルカのような海洋生物を想わせる。

 その名は、宇宙船『シルバーファルコム号』(Silverfalcom)。


 宇宙船の搭乗ゲートには、2mにも届く長身でせ細った男が立っていた。

「待っていたよ、ジーニアウス。……ようこそ、王女様」

 宇宙船の開発者本人がしっかり出迎えていた。


「やあ! 先輩。スゴイもん作っちゃたね? Good Job !」

 ジーンは、サームに駆け寄ると、両手で包むように握手をした。


「まあ、満足の出来栄えさ。予定より、時間が、少し掛かってしまったが」

 サームは、あごを右手でさすりながらあっさりと答えた。


「さすがわ、天才技師。ありがとう! 最高の宇宙船を」

 ジーンは、日頃から口数が少ない硬派な男に、多くの説明は求めなかった。


「セットアップは完璧だ。安心して初飛行を楽しんでくれ。……じゃー、後はよろしく!」

 サームは、短い言葉を残してクールに立ち去った。


「ありがとうございます。サーム先輩」

 ミカリーナは、挨拶代わりに、サームの背中にお礼の言葉を掛けた。


 サームは、背を向けたまま軽く手を振ると、管制塔ビルに入って行った。時代遅れの職人気質しょくにんかたぎとでもいうのか、硬派な男は相変わらず無愛想ぶあいそうだ。


 シルバーファルコム号は、反重力エンジンを初めて搭載し、航空宇宙工学技師のサームが、丹精込たんせいこめて開発した銀河で一番速い乗り物である。


 エクステリアは超軽量のウルトラ・カーボンファイバー・セラミックス製で、船体の耐熱温度は太陽表面温度にも迫る約5000℃。硬度はダイヤモンドよりも硬く、カーボンモノコックによるボディ剛性と相まって最強の耐久性を誇る。

 まさにスーパーボディに包まれた美しいプロポーションの宇宙船。高性能は美しさを内包ないほうすると言われるが、真にその見本だ。大気中は勿論のこと、水中でも潜水艇のように航行できる究極の流線形をつくる。


 軽量かつ透明なチタン・アルミ特殊合金を随所ずいしょに用い、クリスタルなインテリアで、船内は三層構造になっている。

 最下層には、貨物室をはじめ様々な科学実験が可能な『サイエンス・ルーム』(SCIルーム)を完備する。その隣には医療設備が整った『メディカル・ルーム』(MEDルーム)がある。MEDルームはまるで移動する小さな病院だ。


 中段の層には、宇宙船の中枢となる設備が配置される。司令塔兼操縦室となる『オペレーション・ルーム』(OPEルーム)が船体の最先端に備わる。その後方がリビングを兼ねた『ミーティング・ルーム』(MEETルーム)と『ダイニング・ルーム』(DINルーム)で、簡単な仕切りでつなぎ目なく続く。

 MEETルームには最新鋭の視聴覚設備がある。特に立体映像リアルホログラムは、マルチチャンネルのサラウンド音響と相まって、最高の臨場感が味わえる。


 最上層は、外から見るとゆるやかなこぶのように飛び出し展望室になっている。展望ドームの壁面は特殊合金の透明金属製で、最大の強度と耐熱性を誇る。強力な磁気シールドも兼備けんびされ、太陽風などの有害な宇宙放射線をも防御する。

 宇宙空間に出ると、そこは星空が眼前に広がる究極の天文台となり、360度のクリアービューが広がる。


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