呼ばれた男 2話「教団」

「それでは挨拶も終わったことだし、本題に入りましょうかね」

「在日本大陸軍の様子がどうもわからない」

「それに米軍の動きも鈍い」

「我々の動きが感づかれているのではないか?」

「今回はね、情報通を呼んでいるんで、皆さんまあ聞いてやってください」

カガミ中将がそう言うと、一人の男が扉を開けて入ってきた。


「カガミ中将、なんですかこの男は」

「待て、今回は秘密会議のはずだ。儂らも危険を承知で少数の部下だけ連れてきたんじゃど」

青い服を着た長身細身の男は笑みを浮かべている。

「しかも異人ではないか!」

「まあまあ、いけ好かない野郎ですがね、情報だけはしっかり握ってやがるんでね」

「ご紹介預かりました、いけ好かない野郎です。私がここにいることは、あなた達にとっても非常に利益のあることですよ。今はわからないかもしれないがね」

「米軍?違う、名前、所属言う」

イブンXは短銃を抜き出した。銃身はまっすぐ男の眉間を狙っている。

「OK、OK、私はアルフレト、パンゲア教団の師道者の一人です。軍人の階級で言ったら、そうだなあ、少将くらいかな」

「パンゲア教団?あの大陸で国を作っているという、あれか?」

「国?そんな黴臭いものじゃないですよ。国家は死んだ。私達が行っているのは、教化です。人類を救うには、無辜の民に我らの教えを説き、新時代の理想郷を共に建設しようという、まあそんなところです」

「邪教徒め、ろくな噂は聞かんぞ。儂らはベトナムの方まで行くがな、あそこで何をしてやがる?言ってみろ!」

「ベトナムはもはや我らの理想郷の一部になっていますよ。まあ少々手こずりましたがね」

「テメエらのやってることは、餓えた人間をかき集めて、生身の弾にしてるだけじゃねえか」

「あなたたちと戦の常道が違うだけですよ。もはや倫理や哲学が根底から違う。この時代、もはや人類の築いたあらゆる原理原則など通用しない。私達はそれを謂わば更新しているんですよ。アップデートってやつです。それに・・・」

カガミ中将が机を叩いた。

「おいおい、お前が来るといつもこうだ。ちったあ黙れよ。それに他の奴らも冷静になれ」

「元はといえばあなたが成約を破ってこの男を連れ込んだのが悪いのだろう。この会談のためにどれほどの時間と血と金が流れたか知っているだろう」

「まあ聞いてくれや。こいつはな、日本の現状と大陸周辺の情報を知っている。図々しい野郎だから、俺たちじゃあ手が出せねえ領域にもズカズカ入っていけるからよ。しかもボウズのくせにあざとい野郎だからよ、情報と引き換えにこの会談に呼べって算段よ」

「儂らには内密にしてか!」

「あんたらそれ言っちゃあ集まらないだろう!今は日本人同士の意地の張り合いしている場合じゃねえ」

「まあまあ、日本人はカッとなると手がつけられないね。そのうちハラキリしろとも言われかねない」

アルフレトが指輪を押さえると、青い光が出て机の上に立体の地図が浮かび上がった。

「な、なんだこれは?」

「地図だ。大戦期の道具か?」

「我々はもはやオーパーツと化した大戦期の技術を復活させようと努力している。これもその端くれだよ。こんなので驚いてくれるなんて、かわいいじゃないのさ」

「どうりでボウズにしては戦がうまいんだな」

「現在の日本列島の地図だ。私達が収集した情報を解析して、現在の勢力図を作ってみた。99%正確だろう。北から順に説明するから、まあ静かに聞いておいてくれ。一度しか言わないからね」



北海道

「ロシアは数十カ国が入り乱れて泥沼の内戦をしていたが、やっと落ち着いてきたところだ。なんせロマノフ王朝の末裔を名乗る皇帝が3人、レーニンやスターリンやプーチンの末裔がゴロゴロいたからね。まあ大陸に比べればかわいいものだけど。

で、欧州よりのロシア、かつての首都周辺は当たり前だが核の冬により人外の地となっているから、かつてのウクライナ、そしてシベリアに別れて大きな勢力があった。特に肥沃な農業地域のウクライナ周辺は欧州からの流民や、イスラム教徒の侵略、それに旧ロシア軍の正規兵なんかによる血みどろの奪い合いで見事に荒廃してね。もったいない話だが、これも世界中でありふれた話さ。日本のサガと同じだね。

 それで、大戦前は永久凍土により人の住まなかったシベリアが、核や気候変動の影響で、少しは農業もできる土地になった。そんな噂を聞いて、流民が押し寄せたんだ。ありえない話なのにね。シベリア・ロマノフ王朝と称するマフィアの国があったんだが、第8インターナショナルやロシア正教十字軍なんかが押し寄せてパニックになった。

 そこで戦争に疲弊したロシア人難民が、樺太から北海道に流れ着いた。大挙してね。北海道は日本でも大戦で焼かれなかった数少ない地域、日本防衛軍の北海道戦車部隊が牛耳っていたんだが、流行病があってね。満州のマオイストによる細菌兵器だとも言われているが、おかげで人口が半分以下になってしまった。

 今は要所に日本防衛軍が要塞を構築して何とか主要農業地域や水源、鉱物資源を守っているが、あとはロシアや大陸流民が占拠して無法地帯になっている」


東北

「まず大戦末期臨時首都になったセンダイは、大戦期でも最強クラスの核ミサイルを食らってすり鉢状の荒野が広がっている。

 日本防衛軍の東北方面軍もこの攻撃で壊滅、各地に小規模の部隊が取り残されていたが、気候変動による冷害と、センダイやトウキョウ、それに大陸北部の核内戦による放射性物質が降り注いだせいでほとんどの人間が死に絶えた。

 強い風や降雪のある谷や山間部に小さな集落が点在しているらしいが、それ以上の情報はない」


関東

「ご存知の通り、あそこはもう生物の住む場所ではない」


中部・北信越

「フジや日本アルプス周辺部は旧首都周辺部の流民が押し寄せた。大戦初期に突貫工事で作ったシェルターがいくつもあったが、あれだけの人間を賄えるわけもなく、苛烈な争奪と殺戮が繰り広げられた。農業・工業地帯は壊滅的に破壊され、文明のない時代に戻った。もともと食糧生産を見捨てた国だ。誰もが予想し得た結末だろう。

 北信越も東北同様、放射性物質により平野部は壊滅的被害を受けた。原子力発電所への攻撃もあったようだ。

 北信越は山脈に対空ミサイル迎撃用の基地が多数あった。そこに防衛軍の残党や、旧政府高官が集まり要塞化した。その際、オートマイなどの食料生産機や大戦で残された機器類を全部持ち去った。これに激怒した現地住民、その噂を聞き寄せた関東の流民が大挙して押し寄せ、現在も無益な戦いを続けている。

 そしてそこにつけ込んだのが、カガミ中将の日本革命軍の前身、日本帝国軍だ。彼らは山陰方面防衛軍の残党や大陸兵なども入り混じった愚連隊であったが、天皇の近衛兵を自称し、日本アルプスのソーラー・地熱発電所とレーダー基地を奪取し、近隣住民を契約奴隷とすることで確固たる地位を築いた。

 だがクーデターより、カガミ中将たちの手に落ちたというわけだ」


近畿

「かつて第二の都市であったオオサカ周辺は核兵器により湾と沼になった。今や東西の交通はシガとキョウトの山間部を通るか、船での移動となった。もちろん、その区間は大陸軍や大陸流民の武装村、日本人奴隷の農業プランテーションとなっている。目下、カガミ中将たちにより解放されているが。

 私達にも把握できていないのが、紀伊山地だ。

 奥深い山々により、大戦前の環境がそのまま残された唯一の場所と言っても良い。南部に行けば放射性物質の影響も少ないはずだ。しかしここに入り込んだ人間は、二度と帰ってこない。我々の偵察隊も帰ってこなかった。それなりの規模の、それも中央集権的な軍事集団がいるものと思われる」


中国地方

「山陽道、オカヤマからヒメジにかけて比較的安定した環境であり、現在日本で大規模人口集約可能な土地のひとつになっている。山間部も近く、農業や軍事展開も行いやすい。

 そして残念ながら、ここは大陸軍に占領されている。大戦直後の大陸内戦により、祖国を追われた有象無象の大陸正規兵が雪崩込み、そして根を張ったのがここだ。広い山陰の海岸、そして大陸-北陸航路から武装正規兵が雪崩込むのだから、まあ無理もない。山陰山陽の防衛軍は壊滅した。防衛軍や地方政府の高官が寝返り、大陸軍を呼び寄せたのも原因だろう。

 この大陸兵は、大陸反攻を表明しているが、すでに日本を根拠地として拡大している。

初めは南北分裂後の南共産党で権力闘争に破れた人民解放軍の一部とそれに付いてきた流民であったが、その後内部抗争や大陸の謀略などにより、現在はどの大陸本軍とも適度な関係を構築している。要するに倭州軍になったのさ。

 一応、現在は後呉の皇帝軍と連携しているようだが、何とも言えないね。ここ数年で倭州軍の権力闘争が急速に落ち着きを見せている。何でも大陸より切れ者がやってきたらしい。名前はレフ・リャン、ロシアやベトナム、遠く西アジアの血が入っているらしい。

 倭州軍の情報はまたあとで話そう」


四国

「瀬戸内はここにいる海賊さんのおかげで大陸軍も抑え込まれている。まあ四国に侵攻するほど、大陸軍も暇じゃない。ただし海賊さんは大陸軍と共闘しているという噂もある。僕から言わせれば、これを経済合理性としてなんといわんやであるが。

 四国はここにいる四国連合が守っている。先程言われていたように、貝のように押し黙っているが。しかし大陸軍との戦争では、四国連合が重要になってくるので、ぜひそこでは活躍していただきたい」


九州

「まずサガは米軍の支配地域だ。ナガサキで停泊している原子力空母カーツはかつて太平洋艦隊の機動部隊の一隻であった。米国本土は言うまでもなく殺戮の大地と化したが、この自給自衛可能な国家ともいえる原子力空母は太平洋を漂い、安住の地としてサガを選んだ。

 サガは大戦前の日本国が食料自給率を向上させるために作った一大科学穀倉地帯で、地熱発電所や化学プラントを併設する日本の心臓ともいえる地域だ。

 九州は大戦直後混乱の中、日本でも唯一地方政府が防衛軍と協力したまともな政府機関があった。なぜならすぐにでも大陸からの侵攻が予想されていたからだ。

 しかし九州方面軍だけでは押し寄せる大陸からの軍と流民に対処できなかった。ツシマ、キタキュウシュウ、ヤマグチを失陥した時、突如米軍機動艦隊が現れた。

 そして大陸軍を駆逐し、中国地方へ追いやった。初め、九州の政府や住人はこの勇敢な同盟軍を万歳しながら迎え入れた。そしてそのまま支配されたのだ。九州政府高官は、すぐさま大陸軍スパイとして処刑され、九州方面軍は解体された。

 その時に阿蘇まで撤退したのが、そこのナワテバルさんたちというわけ」


まあざっと日本の国情はこんな感じかな

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る