呼ばれた男 1話「会談」

「危険な旅路の中、お集まりいただき誠に光栄であります」

一人の男が頭を下げた。

薄暗い室内は、壁の隙間からわずかに光が差し込んでいる。

「・・・とまあ、面倒な挨拶は嫌いでね。この辺で許してくれ。俺は日本革命軍中将カガミだ。よろしく頼む」

「ああ、早く話をしよう。我々は忙しい。とても忙しい」

「ほう、あんた黒いのに倭語がうまいなあ」

「失礼だぞ、カガミ中将」


会談に集まったのは、現在日本各地にある軍閥や共同体の幹部達であった。

日本アルプス周辺から幾内に雪崩込んで勢力を広げている日本革命軍カガミ中将

四国脊梁山地の四国連合外務大臣リエモン・オズノ

九州で対米軍ゲリラ戦を展開しているジャパン・ブラックパンサー党情報相イブンX

阿蘇耐核要塞の日本防衛軍参謀次長ジゲン・ナワテバル

瀬戸内海の瀬戸内連邦マルクス・レーニン主義海賊共和国、軍事委員会副主席テツジン・トウドウ

中国山地で移動生活をしている陰陽山人会サンカのフケル

中華民国亡命政府書記長バンミン


「私、気にならない。それより話を進めてください。早く。時間もったいないです」

「まずは現状の情報確認をすべきだと思いますが。この時世ですから、あまり口外できないこともありますでしょうが、我々の悲願成就のためには・・・ね」

「では呼びかけ人である我ら革命軍からお話しよう。我々は自称日本帝国軍軍閥政権を革命で転覆し、今や日本国旧領回復のために大陸軍の幾内不法占拠地域へ進行中である」

「お噂はかねがね、で一つはっきりしてもらいてえんじゃがね。あんたらは革命軍と名乗っているようじゃが、イデオロギーちゅうもんはどうなっとるんじゃろうか?」

「イデオロギー?そんなもんはねえよ。それで腹は膨れないし、敵は殺せない。俺たちにあるのは不当な扱いを受ける日本民族の救済、そして勝手に居座る外国人を追っ払うことだ。わかりやすいだろう?」

「外国人ね」

「ああ、まあ最近は純粋な日本人なんていないだろうがな。まあお互い様だろう」

「ふん、功利主義的だな」

「小難しいことは良いんだよ。革命軍ってのもまああれだ、あんたらと同じさ。戦に勝てるなら、天皇にでもマンクスにでもキリストにでも、何だってすがるさ」

「マルクスだ」

「まあまあ、しかし日本革命軍の昨今の隆盛、誠に頼もしい限り。大陸の正規軍すら歯が立たないというのですから、いずれ我が四国から兵站が繋がれば、すぐさま駆けつけますよ」

「では次は我々四国連合といきましょうか。我々は阿蘇さんと同じ旧日本国時代末期の防衛軍四国支部が源流にあります。四国は核攻撃にも遭いませんでしたし、混乱期には臨時政府もありましたので、それなりの勢力はあったのです。

 しかしその後、まあ皆様もご経験でしょうが、くだらぬ権力争いで身内同士貴重な戦力や資源を失いましてね。その空きを大陸軍に打たれまして、幾内と山陽を失地いたしました。

 その反省から生まれたのが四国連合です。四国に散らばった勢力を纏め上げ、連合体として大陸軍と向き合う覚悟を決めたのです。そのために多くの日本人の血が流れましたが、今は四国脊梁山脈に要塞を築き、旧領の回復と民族の主権を勝ち取るために戦っております」

「戦っておると言うが、あんたら要塞に閉じこもってるだけじゃないのかい?それに貴重な旧軍の兵器や科学技術をくだらん内乱で失った責任は重い」

「いえ、ですからその反省を・・・」

「儂らはマルクス・レーニン主義海賊共和国と称し、瀬戸内の島や沿岸部の流民を海賊という主体的なプロレタリアートとし、帝国主義者である大陸軍や米国軍を襲い、物資を略奪し、それを平等に分け与えている。

海賊とは誇り高き戦士であり労働者である。帝国主義者の物資は、人民より搾取されたものだ。儂らは敵の兵站を破壊し、人民の理想郷を手にするまで、瀬戸内の海で奴らと戦い続けるであろう」

「私はブラックパンサー党。見ての通り、黒人。皆も知っている思う。大戦末期、私の先祖、ナガサキにある空母に乗っていた。ステーツの島から死ぬ思いでたどり着いた。日本、同盟国。しかし、日本無い。チャイニーズ、コミュニスト、あと日本の愚かな人、それにより日本無い。

 空母、ステーツの正規兵、とても強い、強い武器ある。ナガサキに入る。サガ目指した。サガ、食べ物、野菜たくさんあった。

 はじめ、私達と日本人友達だった。私の祖父、母親は日本人。だが、ステーツのジェネラル、将軍悪い事始める。日本人奴隷にする。私達、黒人、いじめる。

 私の祖父、戦う。黒人と共に戦う。でも負けて逃げた。でも今も戦っている。日本人仲間、奴隷日本人助ける。九州の山で暮らしている。

 私達、日本人邪魔しない。ステーツ取り戻したい。空母、あれが私達のステーツ」

「アメ公同士で殺し合い、面白いね。儂はあんたたち好きだよ」

「今、米軍は大陸南方の皇帝軍との戦争で忙しいはずだ。本国の連中いよいよきついようで、流民に変装させた兵士に筏で日本海渡らせているくらいだ。今はここ数十年で一番の勝機」

「まさしく、我々は阿蘇の耐核要塞を拠点に、大戦末期より米軍と対峙している。九州北部、しかも日本国に唯一残された肥沃な農業地域であるサガを失ったのは我らの責任だ。知っての通り、あそこは大戦中攻撃もなく、さらに極秘に地下農業プラントが建設されていた。皆も飽きたであろうがあのオートマイ(食料量産機)の大規模なものと思ってもらえれば良い」

「もうあれは食いたかねえな」

「ああ、私もだ。だがサガに行けば、あの施設さえ手に入れれば、もはや戦時の食糧問題は解決だろう。しかも農業地域には、米軍が日本人奴隷を働かせて食料を大増産している。それが大陸へ輸出され、内戦を長引かせている。奴らの手段は、大陸の内戦に介入し、武器や食料を与えて勢力均衡を計り、絶えず大陸に血を流させることだ。現在は北ベトナム経由で重慶のキリスト教共産主義太平天国を支援し、沿岸部の皇帝や軍閥と戦争させている」

「中華民国亡命政府である我々もその問題には注目している。大陸に安定政権が成れば、日本へ逃げ込んでいる大陸軍は支援を失い破滅するだろう。

今や日本にいる大陸軍は、大陸の様子を見て寝返りを繰り返している。大陸側も日本からの物資や奴隷を失いたくないために、在日本大陸軍の機嫌取りに終始している。我々の情報では、在日本大陸軍が近頃統一され、もはやここ日本を根拠地とする話も出ている。

もし在日本大陸軍が統一され、大陸側の軍閥と同盟を結び後顧の憂いを断てば、彼らは間違いなく日本統一に向けて動き出すだろう。

そうなる前に、大陸に安定した政権を作らせ、さらに在日本大陸軍を閉め出さねば、日本は『倭州』となってしまうだろう。

我々は故郷台湾を失ってしまったが、中華民国の理念をここ日本で生きながらえさせていただき、大陸反攻作戦の嚆矢として働くつもりでいる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る