六文銭の十本刀/8
根津は愛用の古びた
今、彼は相棒と二人、
「……なあ」
由利に呼びかける。
「なんで、
「知るか」
二人をここへ呼び出したのは、暁だ。
しかしなぜ、暁は自分たちを呼び出したのか。
考えられる可能性は――。
「副頭領に頼まれたのかね?」
「だったら、オレたちに直接声をかければいいだろ」
「たしかに」
根津は腰にあるものに視線を落とした。
「しっかし、なんで皇弟さんは武器を携帯しておけって言ったんだろうな」
暁に「絶対に必要になるから、武器は携帯しておいてね」と言われたが、絶対に必要になるとはどういうことだろうか? おまけに厩にやってくる前、根津は化粧師としての腕も振るう羽目になった。わけがわからない。
そう考えていた矢先、二人の顔に緊張が走った。
近くの茂みがひとりでに音を鳴らしたからだ。
侵入者か?
根津は煙管の
由利も後ろへと手を回し、鎖鎌の柄に手をかけた。
がさがさ、がさがさ……。
茂みの音が増し、緊張感が最高潮に達した時、それは現れた。
「ぷはっ!」
その声に二人は一気に脱力する。
「ゆ、幸村さま!?」
立ち上がった幸村は、体じゅうにくっついた葉やらほこりなどを払い落とす。
「昔はすんなり通れたのにな」
二人は幸村の登場にも驚いたが、格好にも驚いた。
「根津、由利。馬を用意しろ」
(……あー、なるほど)
根津は察した。一方、相棒はわけがわからない様子で目を白黒させている。
幸村は一頭の馬――特に可愛がっている
「すこし辛い思いをさせるが、我慢してくれ」
答えるかのように
「あの……幸村さま」
「なんだ、由利」
「わかるように説明を……」
「くわしいことは道中で話す。まずは馬を用意してくれ。――直に
「――ゆん、俺たちも馬の用意をしようぜ」
そうするしかなかった。
根津は青毛の馬、由利は
北虎口では、黄金の瞳を持つ黒い狼がすでに到着していた。
馬を走らせているさなか、幸村はかいつまんで事情を説明した。佐助を助けられる方法が見つかったが、それにはあまり時間が残されていないこと。その方法を行うには才蔵と幸村が必要だが、才蔵はすでに佐助を探しに行き、ここにはいないこと。
そこまで聞いて、根津が叫んだ。
「ちょっと待ってください! 幸村さまに危険は?」
「あるかも、と言っていた」
「いや、かもってところがもうだめでしょ!」
「つべこべ言わず、黙ってついてこい!」
根津と由利は
『話は終わったかい?』
三人の頭上に淡い橙色の光が現れる。
暁だ。人の姿であったが、その背には橙色の美しい翼を広げている。しかし、体が透けていた。今は
「ああ」
『じゃあ、根津と由利を借りてもいいね?』
「皇弟さん。どういうことだい?」
根津がすぐさま聞き返した。自分と相棒の役目は、てっきり幸村の護衛だと思っていたからだ。
『寄生心霊がどういうものか知っているきみなら、わかるはずだよ』
根津はしばらく考えた後、
「……なるほどな」
納得した。
「なんだ?」
根津は相棒に説明する。
「寄生心霊は
「ああ」
「今、やつは頭領と同化しつつある」
「うん」
「放っておけば、やがては頭領自身から負の気が発せられるという事態になっちまう」
負の気は自分の中にいる鬼が好むものだ。放置していれば、いずれ鬼化し、さらにはアヤカシとモノノケを呼び寄せてしまいかねない。
ふと、由利は思い立つ。
「それなら、副頭領も危ないんじゃないのか?」
「あん?」
今度は根津が首をかしげた。
「あの人は、負の気を正の気に変換することができる
浄化能力を持つ人間は
もし、正の塊である才蔵と負の塊となった佐助がぶつかり合ったら――!
「副頭領のほうが危ねえ!」
一刻もはやく、才蔵を見つけ出さなければならない。
暁がふと、空を見上げた。
『……どうやら、才蔵のほうでの決着が着いたようだ。ちょうどいい。――弁丸。きみは、そのまま虚狼の後を追ってくれ。彼は負の気が追えるから、いずれ佐助に辿り着くはずだ』
「わかった」
『根津、由利。きみたちは私についてきてくれ。才蔵のところに行くよ』
暁は方向転換をする。
「幸村さま、お気をつけて」
「ご武運を」
「ああ。二人も気をつけろよ。――才蔵を頼む」
根津と由利はうなずき、暁を追った。
幸村はひたすら虚狼の後を追う。
(待っていろ、佐助!)
決意を胸に秘め、幸村は愛馬を走らせ続けた。
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