彼の転機

青年ルイ

 この話の主人公ルイは少し利口な高校2年生男子であり、別に変人というほどではないが、少し変わり者であった。私は先ほど変わり者と申し上げたが、ルイはそれで生活に何ら支障を出すことはなく普通の青年のように過ごしている。


 もう夏が来るのではなかろうかと季節の湿っぽい香りが漂う朝、彼は町の木々を眺めながら学校に向かっていた。今日は時期にも珍しく非常にすがすがしい晴れで、日光が水たまりを反射している。ルイはふと思う

(今日はよく晴れて日光がとても暖かい、太陽は僕を包み込んでくれる。久しぶりの太陽にはとてもありがたみを感じる。)

ルイは教室につくなり授業の準備をそそくさとして本を開いた。しかし、彼は本を読む前に少し窓の外を見た。

「何を見ているんだ、ルー」(ルイは愛称で級友からルーと呼ばれていた)

「別に何も見ていないよ、ただ..やっぱり今日はこの湿っぽさを消し飛ばすような穏やかな天気だと思ってね」

「やっぱり、ルーは面白いな普通思わないぞそんなこと..周りを見てみろよ、みんなゲームや品のない話をしているぜ」

「フフッ、別に僕だってゲームをするし品のない話に興味がないわけではないけれども、そんなことよりこの暖かい日が美しいと思ってね」

「そうか俺はどうでもよく感じるけどな」

級友たちはルーが非常に不思議でどこか神々しくさえ思えていた。皆、彼の話している内容に差ほど興味はなかったが、何より皆は彼そのものに興味があった。

 ルーは非常に端正な顔立ちで可愛らしささえあるその見た目と、そこそこ裕福な家庭でかつ、とびぬけてはいないが非常にマニアックな博識の持ち主であったことから、変わった人だと常々思いながらもどこか級友たちは魅力を感じていた。

ルーはそんな周りからの対応をうれしく思い、特にそれが感じられる日は機嫌がよかった。

 そんなある日の音楽の時間、クラスでピアノが上手だといわれる男子バチストがルーに突っかかってきた。

「ルイ君、このまえさぁ君がピアノが弾けるって聞いたんだけれど弾いてくれないかなぁ」バチストは、自分がピアノを弾けることをとても鼻にかけていた。周りから見ても、バチストがルイに対して敵意を燃やしていることはわかっていたのだ。それは少し前のことルイがピアノを習っていたということが、クラスの女子の中で話題になったのだ。無論ルイが言い出したわけではなく自然と出てきた話なのだがそこがバチストとの違いで、ルイのイメージを大きく上げることになったのだ。それがバチストは酷く気に入らなかった。女子が「ルー君」とピアノの話を持ち出すたびに、嫉妬心は大きく燃え今回のことに至ったのだ。

 ルイは確かにピアノが弾ける。しかし、弾くには気が引けていた。なぜならバチストほど上手ではないからだ、ルイは弾く気にならなかったが承諾した。バチストは大衆曲を弾くことが多かった、彼はクラスメイトの要望に応えてピアノを弾くからだ。一方ルイはソナタ、エチェードが好きで家ではよく弾いていた。そうしてルイは今回ハイドンのピアノソナタを引いた。

(あぁ、バチストは僕を妬んでいる。彼の弾く曲は美しいのに...)

正直、級友たちはハイドンなど知らないしクラシックに全く興味がなかった。ルイが弾いている曲はいつもバチストが弾く曲より難易度が低かった。だが、バチストはルイが弾いている間、敗北感でいっぱいでうつむいていた。それはバチストもクラシックに興味がないのは例外ではなかったからだ、バチストはあくまで大衆的な曲が弾きたくてピアノをやっており音楽的な感性はそれのみだったゆえに、ルイの美しく上品な旋律はルイの神々しさを一層高め敗北感を抱いたのであった。もとよりルイを馬鹿にする人間など毛頭ない級友たちは感激しルイを称えた。ルイは嬉しかった。

「ありがとうみんな」

「ルーはすごいよ」

「すごくきれいだった、なんて曲なんだい」

バチストは悔しかった

(どうしてあいつは家がボンボンで顔立ちもきれいでおまけにピアノまで...)

ルイはバチストを哀れんだ

(バチスト、僕も皆に称えられるとは思わなかったんだよ...僕を嫉まないでおくれ、僕はあの時弾くべきではなかったのだろうか...)

 ルイは優しい心の持ち主であった多くは得意げになるものだが、彼はバチストの心を汲んだのだ。これはルイという人物を象徴する出来事でありルイの信者を増やす要因となったのだ。

それから1週間がたった、いまだにルイは話の中にいたがルイ自身が話に交じることは少なくなっていた。そんな中、全校集会で校長が新しく入ってきた先生を紹介した女性の先生で名はガブリエル。彼女は長身でスタイルもよく若いなりに非常に大人びていて顔も整っていた服装はカジュアルで若さをよく演出したものだった。ルイは彼女がとても不思議な雰囲気をかもし出しているように思えた。


彼女がこの物語に大きな影響を与えることとなるのはまた次回



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