第45話 中分けの喫煙事情。

 修二は長く感じる宮殿の赤いカーペットが敷かれた廊下を歩き続けていた。


「グレンさん、俺だけで良かったんですか? 忍とかいたら話が進むでしょ?」


 退屈になった修二は後ろから、黙って付いて来るグレンに問いかけた。


「ご心配に及びません。あの神崎忍がいますと話どころか喧嘩が起きますので、敢えて離れさせたのです。」


「…神崎忍とイギリス女王は仲が悪いのですか?」


 修二は純粋な気持ちで忍と女王の仲をグレンに尋ねた。


「まあ、そうですね。意見の不一致で仲違いしてしました。理由は彼が母親を失った日、片手にワイン瓶を持ち、勝手に魔界へ進入し、数万という悪魔を八つ当たりで惨殺したからです。」


「…十五年前。」


 修二には思い当たる節があり思い出していた。それは忍が神に復讐を誓った日だった。


「虚ろな目で彼は言ってました。『この殺した人数は天国へ向かう事を拒否した覚悟だ。止められる者なら止めてみろ、俺は立ち向かって潰してやる。』という事を言ってました。それで女王と大喧嘩となり、この様な手法を取らせて頂きました。」


「なんかアイツらしいな。」


「えっ?」


 思っていた修二の反応にグレンは驚いていた。


「確かに八つ当たりで悪魔を数万殺したのは間違ってるけどよ、アイツにも行き場の無い怒りがあったと思う。だから俺に幻魔と決着をつけさせる為、わざと残したと思う、それにアイツを倒すのは俺って決まってるからよ。誰にも譲らないつもりですよ。」


 真っ直ぐな目でグレンに忍を倒すのは譲らないと断言した修二だった。

 グレンはそんな修二に対して目を見開き驚きが止まらなかった。


(なんという方なんですか。確かに、この人なら神崎忍に勝った事も納得できます。…この人に賭けていいかもしれませんね。)


 グレンは気を取り直し、何時も通りの執事対応に戻す。

 そして数分後には待合室まで辿り着き、グレンから待つように頼まれ、暫くは大人しく椅子に座り待っていた。が、無性に煙草を吸いたくなっていたのだ。

 腕を組み、右足の貧乏ゆすりをしながら落ち着かない様子で待っていた。

 イギリスでは喫煙する際には室内では禁煙と法律で決まっている。と、忍から聞かされていた。


「ガムとか持って来たら良かったな。こんなに待ってると吸いたくなるだろ…。」


 そして無心に修二はバルコニーを見た。修二の考えている事は窓を開けてバルコニーで喫煙、もしくは許可を貰って外まで出て喫煙。

 前者は無難だが、後者はタイミングを考えないといけなくなるので却下された。が、前者も法律のややこしい問題に直面した。

 バルコニーも室内で禁煙の対象になるのかだ。


(滅茶吸いたい! ニコチン中毒と言われようが、何もせずに待つのが苦痛だ。今すぐにでも、吸って心を落ち着かせたい。)


 更に貧乏ゆすりが止まらなくなり、額から少量のダラダラと汗を流し、バルコニーで喫煙したいという欲求で外を眺めていた。


「品川修二様、女王様の準備が整いましたので此方まで…な、何してるのですか!?」


 一人のメイドが入り、日本語対応で女王との面会準備が整った事を修二に伝えてくれた。が、修二の奇怪な行動で動揺していた。

 それは硝子の窓に顔を貼り付かせ、煙草を咥えながら、右手に持っているライターをカチャカチャと着火させない様に操作する物だったからだ。


「バルコニーは…禁煙ですか?」


「ど、どうぞバルコニーでお吸いになってください。私はここにいますので…。」


「ありがとうございます。」


 修二はバルコニーの扉を勢いよく開き、左手で右胸ポケットをまさぐる。携帯灰皿を開け、咥えていた煙草を着火し、落ち着いて喫煙していた。

 セブンスターの匂いに落ち着いた修二は、解放された歓喜の表情を浮かべて深々と肺まで煙を吸い込み、吐き出し空を眺めていた。


「『地獄門』も煙草吸えるかな?」


 そんな未来の事を呑気に考えていた。

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