第44話 地獄への準備。

「…五年間、何してたんだよ。」


 修二はイギリスの町で、歩き煙草をしながら忍に失踪した五年間の事をなんとなく尋ねた。


「世界を守ったり、なんだかんだしてた。」


 忍は答える気がないのか適当に修二へ返答する。


「アンタが真面目に答えるのも珍しいか。」


「真面目に答えたって信用されないのがオチだ。そんな話す体力があるならイギリス女王蜂への返答を考えておけ。」


「今、この場で決着つけてもいいんだぜ? 俺もアンタが帰ってくるまで何もしてなかった訳じゃないぜ、輝さんに五年間は鍛えてもらったからな。」


「その割りには幻魔に手こずっていたな? 口だけなら何度でも言える。お前が『魔導使い』をズタボロにするほど強くならなければ――――世界と俺達は滅びる。」


 冗談抜きの真剣な言葉に修二は固唾を飲み、幻魔との戦いを思い出し負けた事が悔しいのか拳を握りしめる。


「その屈辱は死をもって償わせる。その意気がなければ『地獄門』も『魔導使い』を突破する事はできない。今からでも、これからでもな…。」


 忍はそう告げると我先にへと足を進める。修二は立ち止まり未来を想像した。

 今から戦う敵、これから戦う敵、どんな力を持った敵と戦う事を深く考えていた。


「…だが。」


 思い出したかのように忍は立ち止まり振り返り真剣な面持ちで修二と向き合う。


「お前は俺が認めた敵だ。お前には期待しているから、俺が面倒事を引き受けてここにいる。それだけは確かだ。」


 そう告げると忍は前へ振り返り歩き出した。


「…偉そうに言ってんじゃねぇよ。絶対、お前に本気出させて勝ってやるからな!」


「それはお前次第だな。」


 修二は立ち止まった足を歩かせて忍の隣まで進む。忍はそれはどうかなという修二の甘い考えを疑うように軽口を叩き合っていた。


「着いたぞ。」


 暫く進み、修二達は城とも言える白く雄大なコンクリートで設立された宮殿前のフェンス越しに立ち止まり呆けて見ていた。


「…あのさ俺の知ってる神崎邸よりデカくない?」


「当たり前だ。あんなのは安く見積もって作ったんだ。コレと比べるのがおかしい。」


「そうなんだ。っていうかアレで小さいとか…。」 


「ここはイギリス女王の家だぞ? それに海道で馬鹿デカイ屋敷なんて作ったら進入されるわ、襲撃されるわで手入れが大変な事になる。」


「…どうやって入るんだ?」


 まだ呆然としている修二は忍に訪問する手段を尋ねた。


「こうする…おい、コラ! ババア、早く出てこいや。早く出てこねぇとテメェの屋敷、完全に修復できねぇレベルまで壊して入るぞ!」


 忍は深呼吸し、非常識のチンピラよろしくな恐喝と恫喝で訪問しようとしていた。


「…お前、そんなキャラだっけ?」


 修二は忍の予想外な行動と合ってない性格に顔を引き吊らせながら疑問に思い質問をした。


「まあ、遊びの範疇だから気にするな。」


「遊びって…イギリス女王とアンタってどんな関係なんだよ?」


「神崎の関係だ。まあ、それ以上説明しようにも詳しく聞かされていないからな。」


「それで見ず知らずの人間に対して暴言とか吐けるよな?」


「知り合い…なのは確かだ。」


 忍は顎に手を当て少しだけ間を開き、修二に心配するなと安心させた。が、どうにも今の行動で信用できなくなった修二だった。


「お前さては疑ってるな! 俺は二度もお前を倒してるんだぞ? そんな俺を信用できねぇのか?」


「ソレとコレとは関係ねぇよ! 今の行動で疑われるのは当たり前だろうが! それに一回は勝ってるからな!」


 修二と忍は子供の喧嘩みたいに睨み合い、過去の戦歴を比べていた。


「はあ? 一回だけだろ? それに俺は本気出してないし、幻魔にも敗北してませんから実質、お前には三回勝ってますぅ~。」


「幻魔の分を増やしてんじゃねぇよ! 二回は二回だし、一回は一回だろうが! テメェ今からでも決着つけるかぁ?」


「…神崎の長男あろうものが、そんな下品な言葉で育ちの悪さが窺えますよ?」


 忍と修二が喧嘩をしている最中に誰かが仲裁に入り、喧嘩を止めた。


「お前こそ遅い。何分待たせたと思っている?」


 理不尽な事に、忍は仲裁に入った人物を身勝手な理由で罵倒した。

 フェンス越しに立っていたのは、清潔間が漂う執事服、金髪を全て後ろに束ね、高身長、忍だけを蒼い瞳の蔑んだ目で見ている。若い男が立っていた。


「品川修二様、ようこそイギリスへ。お迎えが遅れてしまって申し訳ありません…それからクソ忍。テメェ、パスポートはちゃんと持って来たんだろうな?」


 修二に対して律儀に対応していた。が、急に彼は忍と話す時だけ豹変し、言葉が汚くなっていた。


「はあ? 持って来てる訳ねぇだろっていうか指図すんな! このデコ広金髪。」


「そんなに死にたいのか? だったら…ここで始末してやるよ。」


 彼は忍の態度に我慢ならなかったのか、両方の袖から拳銃を出し向けていた。

 修二はまさか拳銃を向けてくるとは思わなかったので両手をピーンと伸ばし、無抵抗の意思表示を必死に見せていた。

 忍は両手を伸ばすどころか、ポケットに手を突っ込んだまま彼を見ているだけだった。


「――――神崎忍。貴様、変わったな?」


 どうやら彼は忍が五年で何かが変わった事に気づき、拳銃を袖に戻した。


「…さあな。俺は何が変わったのか知らないがーーー早くイギリス女王に会わせてくれ時間がない…グレン・リヴァイン」


 忍がフルネームで彼の名前を明かした。グレンは暫く忍を睨み顎に手を当て考えた。


「品川修二様だけ会わせてやる。貴様の答えでは女王は納得しないだろうだからな。」


「…仕方ねぇな。おい、お前だけ行って来いって話になった。」


「あ、あぁ…ちゃんと待っとけよ。」


 安心した修二は手をゆっくりと降ろし、忍に伝言だけを伝えて宮殿の中へと入った。

 それを確認したグレンは扉を閉めようとした。が、忍に肩を捕まれ静止させられた。


「アイツにちょっかいを出すのは良いが、後悔だけはするなよ?」


 狙いを知っている忍はグレンを嘲笑うかのように修二の取り扱いを警告していた。


「…お前を一度だけ倒した男だ。手荒な扱いはせず、客人として迎える。」


 真っ直ぐな目でグレンは忍に伝えた。忍はフッと安心した笑みを浮かべ、グレンの肩から手を離し『ダークネスホール』を使い、何処かへと消えた。

 グレンは何もない事を確認すると扉をゆっくりと閉めた。

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