第46話 中分け弁護士とイギリス女王との会談。
喫煙をし終わった修二は宮殿へと戻り、メイドに客室まで案内された。修二は神崎邸へ輝と共に何度も行き来してたので豪華で光る部屋には耐性があり、あまり驚かなくなっていた。
「もう暫くお待ちください。」
メイドからそう告げられ、再び暇になった修二は辺りを見渡していた。
「…これ神崎忍か? ガキの頃から仏頂面なのは変わってねぇな。」
修二は、すぐ近くあった豪華なテーブルの上に置いてある。
シンプルな写真立てに目を付け、修二は手に取りマジマジと見ていた。写っていたのはカメラをマトモに見ず、外へそっぽを向いているサングラスを掛けた忍らしき少年と、少年の両肩に優しく添えるよう手を置いて、カメラに微笑み掛けている綺麗な女性の物だった。
「この人は…。」
「神崎冴子。あの神崎忍の母親だよ。」
背後から声が響き、修二は咄嗟に振り向いた。
「品川修二さんだね。まあ堅苦しい挨拶は抜きにして座りな。」
落ち着いた白いドレスを着た。年老いたご婦人が金の杖を持ちながら立っており、修二に座らせる事を勧めた。
修二は写真立てを机に戻し、ゆったりと着席し、老婆と向き合う形になる。
「貴方がイギリス女王ですか?」
「そうだよ。品川の坊っちゃん、この私以外にイギリス女王がいると思うかい?」
「側近とか可能性がありましたので。一応、確認という形です。」
「失礼な坊っちゃんだね。だが、その体から溢れるオーラは本物だね。」
オーラと聞いて修二は腕を見たり、腋を匂い確認をした。が、女王は修二の行動が面白可笑しかったのか笑っていた。
「面白いね坊っちゃん。とても神崎忍に勝てたとは思えない性格だ。」
「…まあ、勝ったというより手加減されて勝たせて貰ったっていう感じです。」
修二は気恥ずかしそうに頬を右人差し指で、軽く掻いていた。
「勝利には変わりないよ。胸を張りな、それに神崎忍が負けたって認めたんだろ? それじゃあ坊っちゃんの勝利なのは確実なんだ。誰もケチは付けないさ。」
「けど…。」
修二は真剣な表情で、女王の言葉に強く反論するよう声を出した。
「けど?」
修二の失礼な態度に、女王は嫌な顔を出す事もなく耳を傾けた。
「……あの時の俺はアイツを確実にぶっ倒す所まで実力がなかった。精々、力を無くすまで互角に持ち込めただけの半端者です。輝さんに鍛えて貰ったって言っても『魔導使い』に勝てなかったし、圧倒なんてしてません。」
「……。」
「正直、世界は広いんだなって思わされました。あの時からまだ成長してなかったんですよ。幻魔にも言われました。“明確な殺意”を持ってないって…アイツ等、殺すのが少し躊躇ったんですよ。悪魔なのは頭の中では知ってたんですが、どうにも自分の心の中では整理してなかったみたいで…けど踏ん切りは着きました。」
「悪魔を殺すのかい?」
女王は修二を真意を試すように尋ねた。
「違います。悪魔を――――ぶっ飛ばす事に決めました。やられた分をキッチリ返す為に、それが俺のやり方です。神崎忍に何言われようが、輝さんや雅に言われようが…俺は俺なりの喧嘩の返し方をします。」
「甘い坊っちゃんだ。これは命の取り合い、それは分かっているかね? 坊っちゃんが五年前にやってた喧嘩ごっことは違うんだよ?」
「俺、喧嘩しかやって来なかったんで命の取り合いとか難しいのは分かりません。」
「…それが坊っちゃんの本気かい?」
「本気です。」
修二は真っ直ぐな目と言葉で女王に訴えかけた。
「…グレン、この坊っちゃんに『地獄門』への招待状を用意してやりな。」
「かしこまりました。」
女王は修二の事が気に入ったのか、その場にいたグレンに命令を下し『地獄門』への招待状を書いてくれる事になったのだ。
「ありがとうございます! …でも、良いんですか? こんな簡単に許可を出して。」
「坊っちゃん、私が決めた事だ。それ以上それ以下でもないよ。野暮な事は聞かず、今から出るスコーンと紅茶でも飲んで、気を引き締めて行きな。」
「は、はい! …日本語お上手ですね。今更なんですけど…。」
女王の勢いに呑まれた修二は緊張し、たじろぎ、下手な質問をしてしまう。
「そう緊張しなさんな。ほら、スコーンでも食べて準備しなさい。」
「はい!」
グレンはトレーカーでスコーンと紅茶を用意し、修二の目前にスコーンと紅茶を置いた。
「頂きます。」
修二はスコーンの食べ方は分からず、適当に食べて頬張る。そして右手で紅茶を掴み、傾け、ゆっくりと少量飲む。
「『地獄門』については何処まで知ってるんだい?」
「…なんかヤバイ場所っていうのは分かります。」
修二は『地獄門』を感覚だけでヤバイ場所と想像し、女王の質問を返した。
「…それなら『地獄門』へ潜った時、『大地獄』に落ちない事だね。あそこには神崎忍でも戦うのは嫌と言った奴がいるからね。」
「神崎忍が嫌がった相手?」
修二は忍が嫌悪を示す程の相手が気になった。
「行ったら分かる。“アレ”だけは魔王ウロボロスでも『魔導使い』も冗談半分で喧嘩しに行きたくないだろうね。神でさえもね。」
「ソイツの話をしても俺が阻止する。アイツは自ら『大地獄』に行ったんだ。アイツに関わってやるな。」
空虚な所から忍の声が響き渡った。が、姿だけは現そうとしなかった。
「組長から、ちゃんと許可は取ったのかい?」
だが、女王は難なく忍と会話を続ける。
「あぁ。結構、渋られたがアイツに関与しなければ問題ないらしい。」
「そうかい……それじゃあ品川修二さん、ここらでお別れです。ご武運を祈っております。」
女王は最後に修二を丁重な別れを告げた。グレンは手紙を修二に手渡し、修二は受け取り、椅子から起立し、女王に向かって綺麗なお辞儀で退室した。
「グレン、あの坊っちゃんは面白いね。」
「はい。噂通りの彼でした。」
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