第42話 最強の帰還。
「戻ってきたぜ。」
右腕をガッチリと掴んだまま、忍は左足を腰の位置まで上げ、目にも留まらぬ速さで、躊躇なく幻魔の腹を突くように蹴る。
忍の攻撃を喰らった幻魔は右腕が掴まれている為、ブチブチという肉が切断する音を立て、修二を離し、岩壁まで激突し埋まり、巨大なクレーターを作った。
忍は解放された倒れる修二を担ぎ、幻魔の右腕を捨てる。
「…に、兄さん!」
輝は驚きを隠せず、本人かどうか確かめるため忍に近づく。
「悪かったな輝。五年間、姿を現さず心配させて…。」
そこで輝は兄弟としての違和感を感じた。その違和感は忍にあった筈の物が薄まり、違う物が濃くなっていた事に。
(なんだろう? …前は復讐心とかで荒々しい感じが、今じゃ穏やかで優しい感じになっている。)
輝にとって今の忍が有り得ない存在で、本当に本人かと疑いたくなっていた。
「…輝、コイツを持っておけ。あの悪魔は、まだヤル気の様だ。」
忍は修二を輝に渡し、岩壁に埋まっている幻魔に向き直る。
コートの右袖は破れ、紫色の血液がダラダラと止まる事なく出血し、息を荒くする幻魔が、力む声を上げながら壁から脱出する。
「や、やる…じゃないか…神崎…忍…。」
耐久力がある幻魔でさえも、忍の一撃を受けてしまうと満身創痍になっていた。
「テメェ等、悪魔はこの程度じゃ死なないのは知っている。立ち上がれよ、今日だけは俺が特別に相手してやる。」
「その余裕が何処まで続くかな?」
幻魔は左手で数匹のゴブリンを次々と掴み、再び食事をする。右腕は完全に再生し、邪魔となったコートを脱ぎ捨てた。
準備が整ったを見て忍は右人差し指でクイクイと曲げて、来いよという挑発をする。
そんな挑発に幻魔は笑い、忍を攻撃するため向かって走り出した。
「知ってるぜ! お前の能力は物理攻撃を“すり抜ける”能力と自由自在の“ワープ”能力だってな! だが、俺には通用しないぜ!」
幻魔は忍の全て熟知しており、自分には通用しないと宣言した。
忍は身構える事もなく余裕な表情で、幻魔の攻撃を待っていた。
「知ってる。だからって俺が馬鹿みたいに『闇の覇気』を使ってまで、お前を倒そうとするか?」
幻魔が眼前まで近づき間合いに入る。と、忍は無防備な腹に姿勢を低くし、素早い一撃のパンチを繰り出す。
苦痛の表情を浮かべ幻魔は痛みに耐えきれず腹を抱え、後退りをしてしまう。
「俺が足以外を使うと思ったのか? 流石に五年も経てば戦闘スタイルも変わる。五年前のデータに頼っては俺を倒せない。」
忍はゆっくりと歩き近づき、幻魔の胸に高速パンチを数発叩き込む。
幻魔は忍の追撃をマトモに受けてしまい、もうボロボロの状態だった。
「…終わりだな。」
流石の悪魔である幻魔さえも、これ以上の攻撃を喰らえば生死に関わる。が、戦闘凶な幻魔にとっては関係ない事だった。
「まだ戦えるぞ! 俺は! かかって来いよ、神崎忍!」
幻魔は口から血をダラダラと吐きながら忍との戦闘を続行する。
「お前を倒すのは俺じゃない、そこにいる品川修二だ。俺はあくまで戻って来た次いでだ。」
忍は修二に指差し、あくまで幻魔と戦った理由が、決闘の約束を守る事と戦うのは序でだった。
「はあ? ふざけんな、ここまでボロボロにしておいてタダで帰すと思ってんのか?」
幻魔は所々から出血した血を拭いながら忍の行為に文句を付け逃走させないようにする。
「帰るさ、ここにいる“人間”全員を連れてな。」
忍の言葉に幻魔は辺りを見渡すと一人一人に『闇の覇気』、『ダークネスホール』が背後にあり、何時でも逃走できる状態だった。
「好魔! 『否定』できねぇのか!」
「やってますよ…けど私の範囲内を超えてます。」
幻魔は頼みの綱、好魔に能力で何とかできないかと提案した。が、好魔でさえも忍の力には及ばず『魔導』が使えなかった。
「…そんなに俺と戦いたいか?」
忍は幻魔に質問を問いかけ、悪戯っぽく笑った。
「…何か企んでんだろ? 言ってみろよ、それでテメェと戦えるなら飲んでやる。」
幻魔は忍の企んだ表情を見て、ここは従った方が良いと考え提案を聞き入れる。
忍は獲物が網に掛かったという得意気な表情を浮かべて条件を申し立てる。
「お前等、悪魔と契約してやる。それも…『魔王契約書』でな。」
忍の『魔王契約書』という単語に、修二以外の人物と悪魔の幻魔達は驚愕を浮かべた表情で脂汗を流していた。
「兄さん本気!」
輝は忍のやろうとしている事が理解できず、反論する。
「マジだ。主導権はコッチが握っている。このまま人間界で居座られて快楽殺人なんて起こされてみろ、かなり鬱陶しくなる。」
「契約期間が守れなかったら無条件で魂と肉体を悪魔に捧げる事になるんだよ!? 考え直そうよ、今からでも悪魔を倒せば!」
「輝、俺はコイツ等を倒す気はない。倒すのはあくまで品川修二だ。」
「テメェ、ふさげてんのか! そんな理由で『契約書』を使わせてたまるか! 何故、そこまでして品川修二に肩入れする!」
幻魔の質問に、忍は何だそんな事かという呆れた表情で質問を返す。
「“馬鹿”で“最高”の男だからに決まってんだろ? それ以上でも、それ以下でもねぇからだ…そんなに信じられねぇか? なら計画を聞いて行け、コイツに――――『地獄門』を突破させる。」
更に忍の発言により、周りは何を言っているんだという雰囲気となり、幻魔に至っては額から青筋を浮かべて怒りが最高潮に達していた。
「また下らねぇ事を!」
「下らないって決めるのはテメェじゃねぇよ。俺が決めるんだ。」
「調子に乗りやがって! そんな奴が『地獄門』を突破できる保証は何処にある!」
「さっきまで、お前に一撃を与えた男だ。お前だって強い奴と戦って死にたいって言ってただろ?」
「くっ! …やっぱり、ここで!」
「待ちなさい。幻魔、彼等の条件を聞いてみましょう。」
幻魔が忍に殺気を放つと、好魔が何かに取り付かれた様に白目を向いて、静止の言葉を投げる。
「『魔導使い』っていうのは何人いるんだ?」
忍は次々と現れる『魔導使い』に呆れていた。
「失礼しました。
鞍魔という悪魔は好魔の体を使い、物腰が柔らかい口調で話し、忍達に謝罪する。
「…猫被りやがって、まあいい。こっちは『魔王契約書』さえ出してくれたら幾らでも条件を文句言わずに飲んでやる。」
鞍魔は怪しく笑い、右掌から黒くドロドロとした汚い契約書を取り出し、忍達に見せる。
「貴方の条件を伺いましょう。」
「三ヶ月以内で品川修二が『地獄門』を突破できなければ、この世にいる『覇気使い』全員の魂と肉体を悪魔達に捧げる。」
忍の勝手な行為により、見ず知らずの『覇気使い』達が危機に晒されていた。
「…良いでしょう。コチラの条件は、三ヶ月以上を過ぎたら神崎忍様の魂と肉体は魔王様の所有物となります。これで契約成立ですね。」
一方的に有利な条件が揃っている為、文句一つ言わなかった鞍魔が忍に握手を求める。
求める握手を見て、忍は少し嫌そうな表情を浮かべて答えるように握手を返す。
握手をすると忍の右掌から皮膚が焼ける音がして蒸気が出て来た。忍は痛みに耐えて鞍魔との握手を続ける。
「契約成立。」
「だったら離せ。毎回する時、痛いんだよ。」
忍は鞍魔の手を払いのけ、激痛がする掌をマジマジと見る。
そこにあったのは悪魔が描かれた焼き印の痕だった。
「それでは私達はこれで失礼いたします。幻魔帰りますよ。門を壊してください。」
鞍魔の命令に幻魔は気に入らないのか今だに忍を見ていた。
「…幻魔、彼等には『地獄門』を突破するのは無理です。こんな賭けは負けるような物と同じです。」
「それが気に入らねぇ、それじゃあ神崎忍と戦えねぇじゃねぇか。」
「神崎忍が戦う気がないから仕方ないですよ。それに貴方の意見は魔王様が聞くなと仰っていましたので、私は貴方を更にボコボコにしても連れて帰りますよ。」
幻魔は鞍魔の圧迫する言葉に、両拳を握りしめ、歯を強く食い縛り、眉間に皺を寄せ、睨んでいた。
「どうしました? 帰りましょう我々の故郷の魔界に。」
鞍魔の見下した目を見た幻魔は、怒りの叫びを上げながら八つ当たりする様に空間を殴る。
空間に亀裂が入り、硝子が砕ける音と一緒に空間の扉が開かれた。空間の先には、暗い空と魑魅魍魎達が殺し合う禍々しい光景が映し出されていた。
「さあ、ゴブリン達も早く行きましょう。」
鞍魔の指示により、ゴブリンは素直に従い魔界へと帰った。鞍魔は魔界に足を踏み入れ幻魔が来るのを待機していた。
「今度会った時に、ソイツが強くなってなかったら本気で殺す。」
幻魔は虚ろな瞳の修二に指を差し、強くなってなかったら問答無用で忍を殺すと発言した。
「その時はその時だ。俺も手加減はしない、『もう一つの覇気』で戦ってやる。」
今の幻魔に用がなくなると忍は片手で胸ポケットからサングラスを取り出し、身に付け、輝達の許へ向かった。
幻魔も怒りを抑え鞍魔達の元へ歩き、魔界に入る。と、空間はみるみると修復されていき元の状態に戻った。
「…これからどうするの兄さん?」
「どうもこうもない。約束を果たさなければ『覇気使い』全員が死に人間界は終わりだ。だから品川修二を鍛える。」
不安な表情を浮かべた輝の質問に、忍は淡白な様子で質問に答えた。
「忍様!」
すると余程、五年振りの再開が嬉しかったのか雅が忍に抱きつき、子供みたいに涙を流し泣きじゃくっていた。
「おいおい、たかが五年だろ? …まあ何も言わず、何処かへ言った俺も悪かった。」
「じゅみばぜん! ばたしがいながらじゅうだいをざらじてじまって!」
「泣いて喋るな聞き取れねぇ。」
泣きながら雅は話すので何を言っているのか分からない状態なので忍は頭を撫でながら優しく励ます。
「…忍帰って来たのか。一体、何処にいたんだ?」
桐崎は岩山が降りて来て、五年振りの忍に近づき質問をする。
「少し面倒な事に巻き込まれた。だが、もう心配ない。ちゃんと片付けて帰って来た。それとコイツとの約束もあるからな。」
忍は意識が朦朧としている修二に目を向けて無事に帰還した事を伝える。
「…なんだか変わったな、お前。」
「そうか? アイツ等にも言われたが、俺の何処らへんが変わったんだ?」
「…いや、気のせいだった。さて日本に帰るか。」
桐崎は変わった事を自覚してない忍に、呆気には取られてたが、何故かソレが微笑ましく思った。
気を取り直し、桐崎は修二を担ぎ上げ帰国しようと提案する。
「おい、俺の何処が変わったんだよ…。」
最後の質問に誰も答えず、三人はラクダに乗りハーキュリーズが停泊している所まで向かった。
ポツンと塔の近くで忍だけ自分の何処が変化したのか深く考えていた。
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