第40話 復活する『覇気』。
修二達の喧嘩から一ヶ月が経った。修二と南雲は電話で依頼相談を対応し、輝は次の裁判に必要な証拠を用意していた。
小春はパソコンを使い、資料請求書の作成をしていた。
皆、忙しい中で突然と訪問者はやってくる。
「輝様はいられるか?」
それは五年前、『覇気使い戦争』で修二を極限までに追い詰めた木元雅だった。
「やあ、雅さん。品川の件かな?」
着々と証拠を準備しながらも輝は忙しい顔を一つせず、雅と向き合った。
「はい。そこにいる奴の件です。」
だが、あの戦いから五年も経っているのに、未だに険悪な雰囲気で修二を対応する。
「上昇気流で竜巻を消された奴がよ。何、輝さんに舐めた態度取ってんだ?」
そんな雅の態度が気に入らなかったのか、南雲が受話器を降ろし突っ掛かる。
「貴様こそ、親友にボコボコにされメソメソと忍様に頭を剃られたマヌケが。」
南雲と雅が喧嘩し始め、仲裁に入ろうと小春があたふたしていた。
「大丈夫だ。あの喧嘩はすぐ終わる。」
修二が小春の肩に触れ安心しろと安堵させた。
「でも、君達って同日にやられてたよね?」
輝の一言で喧嘩していた二人が図星を突かれたように固まった。
「……。」
「……。」
「それも……。」
「あ、あの輝さん…。」
「私達が悪かったので…その辺で…勘弁してくれませんか?」
輝が何かを言い掛けた瞬間、二人は頬を引き攣らせ、先の話を聞きたくなかった様子だった。
「…じゃあ、お互いに仲良くね。」
輝のニコニコとした表情から、有り得ない程の圧力が二人を襲った。その圧倒的なオーラで二人は青筋を浮かべながらも和解の証、握手をした。
「す、凄い。あれだけ仲が悪かったのに和解させた。」
(和解させたっていうより、コイツ等がマジ喧嘩しちまうと周りに被害が及ぶから、言葉で抑えつけたっていうのが正しいんだけどな。)
修二は輝と五年の付き合いで分かった事は、ちょっとだけサディスティックの傾向があり、鬱憤が溜まり、発散させようと地味な嫌がらせをするのが経験で理解した。
小春は輝の性格を知らなく目を輝かせ、尊敬の眼差しで見ていた。が、修二だけは性格を知っているので微妙な気持ちだった。
「じゃあ、話を戻して計画を聞かせてもらおうかな?」
気を取り直し、輝は雅に計画を聞いた。雅は背負っていたアジャスターケースを降ろし、中から設計図を取り出す。
そして物が置かれていない机に設計図を広げる。
「今回は目的地であるサハラ砂漠をハーキュリーズで向かいます。これなら個人なので民間人を巻き込む事はありませんし、洋様が“どうせ経費で落ちるから使っちゃえ”と言ってましたので…。」
雅は経費の部分だけを物真似で解説した。修二と小春はハーキュリーズに無知なので無反応だった。が、南雲は頭を抱えていた。
(なんで教会の経費でアメリカ空軍輸送機を簡単に使えんだよ。馬鹿じゃねぇのか!? コイツ等、人を送るだけで戦争でもする気か?)
輝達の事情を知らない南雲は驚愕を隠しきれず、軍隊レベルの護送に納得できなかった。
「あの品川先輩は出張するのですか?」
『覇気使い』を知らない小春は、修二が外国で仕事すると思っているらしく…
「そ、そうだよ。品川はエジプトで…企業訴訟をするため僕と一緒に行くんだよ。」
「あ、そうなんですね。気をつけて行ってくださいね。」
輝はなんとか適当な内容で誤魔化し、小春を納得させた。
「出発は明日…それから南雲くん、留守番は任せたよ。もし僕の身に何かあったら…僕の事は忘れて品川と頑張って弁護士してね。」
輝は南雲に事務所を任せる。が、最後に輝は神妙な面持ちで耳打ちをしながら語り掛ける。
南雲はその意味が理解できなかった。『最強の覇気使い』の弟である輝が自身に保険を掛けるなんて前代未聞だったからだ。
(どういう意味なんだ? …ただ品川の『覇気』を復活させるだけなのに…。)
南雲に腑に落ちない疑問を残したまま、運命の翌日はやってきた。
修二は手ぶらでスーツのまま誰もいない、神崎が所有しているプライベート航空で、強風が吹く滑走路に待機していた。
そこにサングラスを身に付けた輝が前から現れ修二に近づく。
「…品川、一つ言っておく事があるんだ。もし、僕が満身創痍なったりしたら僕に構わず逃げてほしいんだ。」
「何、縁起でも無いこと言ってるんですか? 輝さんに限って、そんな事ないでしょ?」
「そうだね。僕も信じたいけど約束してほしい、絶対に逃げるって。分かった?」
輝に何度も念押しされ修二は渋々と承諾した。
そしてハーキュリーズの離陸準備ができた為、二人は乗り込む。
ハーキュリーズの中にいたのは、クナイを真剣な面持ちで手入れをしている雅。飛行機を運転するパイロットだった。
「なんで木元がここにいるんだ?」
普段から修二を嫌っている雅がいた事に疑問を持ち、尋ねた。
「…輝様の護衛だ。もうこれ以上、神崎の主を失う訳にはいかないからな。分かったら座れ、品川修二。」
未だに雅は五年前に失踪した忍の事を引き摺っていた。
雅の理由になっとくした修二は座席に座り、シートベルトを着用する。
輝も隣に座り、シートベルトを着用しコミック雑誌を開き読む。
「あれ? 普段は読まないのに。」
輝の意外な行動が気になったのか修二は素朴に聞いてみた。
「まあね。一度は読んでみたかったから何事にもチャレンジだよ。」
飛行機に乗り込む前とは打って変わって微笑んだ表情で対応する輝。
そんな輝を深く聞く事もなく納得し、サハラ砂漠に着くまで、ゆっくりと目を閉じ就寝する。
数時間後にはサハラ砂漠から近い、リビアに降り立ち、修二と輝と雅の三人で行動する事になった。
雅は三人分の荷物を抱え、輝はラクダを借りる為に現地住民と交渉、修二は店で地図を書い広げ見ていた。
「全然読めねぇ。」
だが、全てアラビア語の文字なので修二は読めなかった。
「さて、行こうか。サハラ砂漠の中心に『太陽の塔』があるんだ。そこで『太陽の覇気』を手に入れる。分かった?」
「はい!」
早速、三人は計画を実行に移した。雅は周囲を警戒しながらラクダに乗り出発した。
だが、ゴツゴツとした高い岩場で“ソレ”は見物していた。
「あの赤髪が品川修二か。見た目はとても神崎忍を倒したとは思えないな。」
“ソレ”はパンを頬張りながら、初めて見た修二に興味を持つ。
「一応、彼は神崎忍が認めた男です。舐めて掛からない方が良いですよ。」
「そうかい。じゃあ、もうコイツ等はいらねぇな? もう準備は整ったしよ。」
“ソレ等”の背後には黒い頭巾を被った集団が、神を崇めるみたいに拝んでいたのだ。
「えぇ、所詮は暇潰しの余興でしたから『破壊』しても構わないでしょう。」
「じゃあ、そう言う事だ。ばいばーい。」
“ソレ”が黒い頭巾の集団を必要ないと判断し、手を胸の位置まで上げ、何かを『破壊』するように握り潰す。
すると集団は一瞬にして肉の塊と化し、そこには血だまりと不気味な肉のオブジェが出来ていた。
潰した事を確認すると“ソレ等”は修二に向き直す。
「さて、ここを地獄にするぞ。」
“ソレ”が物騒な一言を放つと、背後から無数の赤い光を帯びた闇が現れた。
雅は何かに気付き、ラクダを少し早く歩かせ輝に小声で話かける。
「輝様、“奴等”は近いです。だが、襲われる危険はまだありません。品川修二が『太陽の覇気』を持つまで来ないと思います。」
「あぁ、僕も感じたよ。かなりの人間を殺した気配だ。退路は作っておいた方が良いね。」
輝は真剣な表情で修二が逃げれるよう雅に退路の準備をさせる。
「分かりました。護衛班と合流次第、退路の確保と“奴等”との殲滅戦を行います。」
「うん。じゃあ品川を頼んだよ。」
「はい。」
雅は了承すると輝から後ろへと離れる。
「品川そろそろ着くよ。」
目的地が近づいている事が分かると輝は修二に通達する。
「…輝さん、まさかあの馬鹿デカイ塔ですか?」
先頭を歩いていた修二は顔を引き攣らせ、砂漠の中心に空までそびえ立つ、岩で作られた塔に指で差し示す。
「あぁ、あれが『太陽の塔』。大阪万博にある太陽の塔じゃないからね?」
修二たち一向は『太陽の塔』付近にラクダを停め、荷物を置き、徹夜を見越して準備を進めていた。
「じゃあ、ここからは僕達は行けないから品川だけで。」
どうやら輝達は最後まで付いて行かず、ここで待機するという事になった。
修二は文句一つ言う事なく承諾し、塔の入口前に立つ。
(なんだろう? この圧倒される感じ…まるで、そこに忍が近くにいる感じだ。だが、忍みたいに復讐心とか邪悪な感覚じゃなく…なんか安心できる場所だと感じる。)
修二は塔から圧倒的な謎の力を感じ、忍に例える。が、忍とは違う安堵感があり、修二は門を開き進む。
修二の眼前に階段があり、上を見ると螺旋状になっており先が見えなかった。
「良し行くか!」
気合いを入れた修二は階段に一歩を踏み出し、勢いよく駆け上がった。
一方その頃、外で待機している輝と雅は辺りを警戒していた。
「雅の暗殺部隊では何匹倒してると思うけど、今回は下級種じゃなく上級種が二匹だから油断しないでね。」
「はい。桐崎の命令で上空にアパッチヘリを五台、ラプターを三台、ハリアーを五台、B-2ステルス機を二台を待機させてます。地上では装甲戦車を十台、更に兵隊の装備はM4カービン、対戦車ライフル、RPG7が揃っています。」
雅はスラスラとここまで集めた種類の武器を輝に伝えた。
もはや第三次世界対戦でも始めるのかと思う武力差だった。
「…どうだろう、初めて僕も上級種と戦うから五体満足で生き残られるか、どうか分からないや。」
輝でさえ未知の体験に戸惑いを隠せない様子だった。
「私は…もう二度と家族を失いたくはありません。だから輝様が最後まで残って戦うならば…忍様の所に行けるよう戦って死にます。」
雅から決死の覚悟が伝わり、輝は思わず頬が緩んでしまった。
「その時が来ないよう頑張ろう。」
輝にとって、これが最後になるかもしれない戦いを雅に微笑みかけ約束を誓う。
そして数時間も階段を走り続けて汗だくの修二は、まだ塔の半分に到達していなかった。
(クソッ! 結構、長い階段だ。先が見えねぇ上に静寂だ。足が重たい、まるで鉛を付けてるようだ。それに上がり続けるだけで気温が熱くなる。)
修二は暑さに堪えきれなかったのかスーツを脱ぎ捨て、屈強な肉体の上半身だけを露出し階段を上がり続ける。
数時間も上がり続ける事で辺りは夜になる。が、塔の中は不思議な力があり明るかった。
修二は一心不乱に息を吐きながらマラソンの如く階段を上がり続けた。
もう修二は発汗すれば早く渇き、体からは水分が抜けきり肉が細くなり、疲労で少し老ける。が、そんな事はお構い無しで最上階まで上がり続ける。
そして明朝になり修二は息を荒くしながらも最上階に到着したのだ。目の前には岩で造られた祭壇があり、山吹色の球体が浮いていた。
「あれが…太陽…の覇気…。」
疲労困憊の中で修二は祭壇にフラフラな足で一歩近づく。
それに反応してか球体は激しく発光し、修二は自然と右手を翳す。と、球体は自ら右手の中に入って行った。
修二は仰向けに倒れ、発光する右手を抑え、燃える様な痛みでのたうち回る。歯を食い縛り、目が血走り、痛みを我慢する。
「…俺は…約束を…忍との…約束を……果たすんだ!」
忍との約束を守る為、猛烈な痛みを耐え抜き、暫くすると光は収束し、完全に消える。
修二は右手に何か異常はないかと右腕を上げて確認する。
そこにあったのはカラス彫りされていた太陽の刻印だった。
「…認めたって事でいいのか?」
その場で修二は疲労と痛みで意識を失った。
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