第39話 存在する『悪意』。

 事務所で輝は携帯電話を使い、険しく緊迫した状態で父親の洋と会話していた。


「輝、“奴等”が境界線を越えて『太陽の塔』に向かった。」


「…狙いは品川?」


「あぁ、多分その場にいる『覇気使い』も含めてな。」


「だったら、いっそのこと中止には出来ないの?」


「“奴等”の狙いが分からない以上は動きを悟られる訳にはいかない。このまま続行する。」


「僕一人じゃ無事ですむかどうか分からないよ。」


「分かっている。だから桐崎を用意した。それに大人数の援護がある。忍がいなくても逃げる時間ぐらいは稼げるだろ…後は品川修二を五体満足で日本に帰還させ、こっちから戦争を仕掛ける。」


「…分かった。僕たちは品川が『太陽の覇気』を手に入れた後は全速力で逃げる。そう言う計画でいいのかな?」


「あぁ。それじゃあ、また連絡する。」


 洋は軽く返事を残し通話を切った。輝はソッと静かに携帯を閉じ、不安そうな表情で手を顎を置き、深く考えていた。


(何故、“奴等”がいきなり現れた? 協定を破ってまで、そんなに『太陽の覇気』を取得させたくないのか? それとも品川に問題があるのか?)


 考えても収まりそうにないので輝は考えるのを止めて、窓から外の綺麗な風景を眺めていた。


「兄さんなら、こんな時どうするんだろう…。」


 輝は今、海道にいない忍を思い浮かべて今後の未来に不安を抱いた。



 一方、馬鹿の如く呑気に喧嘩をしていた。いい大人たちは…


「はい、住所と連絡先は?」


「大阪府海道市なんやかんやです。」


 修二は応援に駆け付けた警察官に被害状況と質問をされていた。


「喧嘩の原因は?」


「カツアゲされそうになって近くにあった電話ボックスに穴を開けて脅し、更に正当防衛でボコボコにしました。」


 修二は流石にやり過ぎたのか意気消沈し、声を暗くして質問に答えていた。


「…その話を聞いてると後半から君が悪くなってるよね?」


「まあ、そうですね。」


「…まあ、お互いに慰謝料で話し合う事で済ませる事できない?」


「そこは頑張ってみます。」


「それじゃあ明日、海道警察署に来て反省文を書いて少し話して終わろうか。」


「はい。ご迷惑おかけしました。」


 警察官は修二の事情聴取を終え、今回の主犯たちを捕まえ警察署まで連行した。


「まさか大人になって怒られるとは思わなかった。」


「いや、あんな事してたら怒られるよ。」


「人の前で喧嘩してる俺たちが言うなよ。」


 修二と相川は第二次喧嘩大戦をしそうになるが、なんとか大人になって踏ん張る。


「昔は俺と品川が対立してたのに、今では相川と対立するとはな…。」


「別に遊びの喧嘩だから対立してる程じゃないと思っている。」


 二人は同時に吹雪の考察を否定した。あくまで友達としての遊びで喧嘩している事だった。


「コイツ等……。」


 吹雪は右拳で殴ろうと考えるが、ここは堪えて怒りを抑えた。五年で大人へと進歩した吹雪だった。

 三人は引き続き、楽しくデパートを回る。



 そこの周りは植物も湖もない砂漠に、姿を視認させない黒い霧を纏い、六十度も超える熱い炎天下にも関わらず、普通に歩く人形が二人いた。


「……。」


「なあ? 人間界でいう世間話をしないか?」


 一人の“ソレ”が陽気に話をしないかと提案をした。


「構いませんよ。どうせエジプトに着くまで、何も起きませんし。」


 一人の“ソレ”も冷静な態度で提案に乗り、話をする。


「『覇気使い』っていうのは何処まで強いんだ?」


「我々に抵抗できるぐらいは強いと思います。」


「それは強いな。人間界で神崎忍と神崎輝の兄弟が強いって前に聞いたな?」


「今は神崎忍が品川修二に負けて『覇気使い最強』になったらしいですよ。」


「あの神崎忍に勝ったのか。そこそこは楽しめるな、その品川修二っていう奴は。」


「まだですよ。彼が『太陽の覇気』を手に入れるまでが条件ですから。」


「分かってるって、『覇王の候補』なら殺す。『魔王様の脅威』なら潰す。それに選ばれたのが俺達だろ?」


「その通りです…おっと、話している最中に囲まれていたらしいですね。」


 “ソレ等”を囲んでいたのはターバンを巻き、布で口元を覆い隠し、民族衣装を着た。アサルトライフルを両手で構えた。数十人のテロリスト達だった。

 興奮状態のテロリスト達は英語を叫びながら“ソレ等”に銃で脅し何かを伝える。


「コイツ等は何を言ってるんだ?」


「…降伏しろ、さもなければ撃つぞ。と、どうやら私達を脅しているそうです。その人間が作った火力武器で。」


「へぇ~殺意はあるって訳か。」


 陽気な“ソレ”はアサルトライフルの銃口を額に押し付ける。

 テロリストの一員は自殺みたいな行動に躊躇し戸惑った。


「ほら、バンって撃てよ。折角、当たる距離まで近づけてんだ。外すことねぇだろ? 撃てよ、早くぅ~。」


 “ソレ”は煽ってる訳ではなく本気で額を撃たせる気だった。

 だが、それが挑発されていると感じたのかテロリストはライフルの引きがねを引いた。

 それは誰もが正体不明の“ソレ”が死ぬと思っていた。額を撃ち抜かれたら倒れるのは当たり前だ。

 だが、“ソレ”は倒れず。気が狂ったように高笑いをしだしたのだ。


「どうした? もっと撃てよ! 脅威の化物が目の前にいるんだぞ? 殺し合おうぜ! ヒャハハハハハっ!」


 そこに存在する『悪意』が、テロリストの戦意を奮い立たせる。テロリスト達は“ソレ”を一心不乱に集中放火する。

 だが、“ソレ”は銃弾を何発も喰らいながらも手を広げ、歓喜するように大声で笑っていた。


「これこそが! 戦いだ! この周りにある“殺意”こそが、俺のいるべき場所だ! そうだろぅ?」


 “ソレ”は近くで発砲していたテロリストに顔を接近させて尋ねた。テロリスト達は近代兵器が効かない事に恐怖で呆然とし、いつも間にか攻撃を終了していた。


「…おい、まだ終わってねぇだろ? まだ弾はあるだろ? もっと! もっと! 俺を楽しませてくれよ!」


 “ソレ”が狂い笑っていた事はテロリスト達には伝わっていた。だが、こんな狂っている存在に攻撃をしなくなると、“ソレ”はショックを受けた様子で呆れていた。


「……お前等も、あの食人集団と同じか――――もういい、お前等は一人を残して殺す。」


 “ソレ”は口元を大きく開け、近くにいたテロリストの一人を頭からパックリと喰らった。頭がなくなり首から噴水の如く出血した。頭がなくなった体は糸が切れたように倒れた。

 そんな吐き気を催す光景にテロリスト達は逃げようとする。が、逃げられなかった。恐怖で足がすくんだ訳でも腰を抜かした訳でもないのに逃げられない。


「逃げる事はできませんよ。私が『否定』しているから。」


 もう一人の“ソレ”が意味不明な事を口走っていた。

 そんな間にテロリストの仲間は、“ソレ”から体を人形の部品解体するようにバラバラにされ、死体が山積みされていた。

 ならばテロリスト達は逃げる事が、出来ないのなら自爆覚悟で体に巻き付けてあった手榴弾の安全ピンを抜き、次々と虐殺していく“ソレ”に向かって行く。

 次々とテロリスト達は“ソレ”に抱き付き、動きを停止させていた。


「おい! 一人は生きてるよな!?」


 動きを拘束されても“ソレ”が仲間の“ソレ”に大声で、一人は残っているかと確認した。


「えぇ、ちゃんと彼だけはピンを抜かせず、自爆しないように『否定』したので。」


 “ソレ”の近くに一人のテロリストが俯せで倒れ、何かに拘束されている感じで行動を起こせなかった。


「ならいい。」


 その言葉と同時に手榴弾が爆発した。手榴弾の数が多かったのか、それは耳をつんざく音の大爆発だった。

 煙と砂が舞い上がり、視界は良好ではない。が、そこに黒い人影が現れて姿を見せる。何事もなかった様に現れた無傷の“ソレ”だった。


「お疲れ様です。どうします? この下等生物は?」


 戦闘を見物だけをしていた“ソレ”は、労をねぎらい、生き残ったテロリストの対応を求めた。


「ここにいるって事は、近くに家族と仲間がいる筈だ。そこまで案内させて全員を殺す。子供だけは殺さない、女は苗床にしてしまえ。」


「いっそのこと子供も処理すれば二度手間じゃなくなるのでは?」


「その成長した子供がよ、仲間の復讐の為、俺に立ち向かう…楽しみじゃねぇか。これで、もっと良い戦いが出来るって思うとよ――――今すぐにでも『覇気使い』共をぶち殺したくなるぜ! ヒャハハハハっ!」


 “ソレ”の趣味は悪く復讐心を成長させ、人生を潰す計画を企てていた。


「まあ、品川修二が『太陽の覇気』を手に入れるまでの暇潰しには丁度良いですから賛成です。さて、どうやって仲間の所まで案内させます?」


「簡単だ。人間には帰巣本能があるだろ? それを恐怖で利用する。」


 呆然状態のテロリストに“ソレ”が近づき、躊躇なく手を右目に思い切り突っ込み、眼球をゆっくりと痛みを与える様に引き摺り出した。

 テロリストは痛みで悶絶し、暴れようにも何かに拘束されているので動く事が出来なかった。

 そんな残虐な光景を“ソレ等”は見て――高らかに笑っていた。


「さて、次は麻酔なしの歯抜きだぜ。」


 テロリストの悲痛な絶叫が砂漠に虚しく響いた。

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