第38話 まだまだ続く再開。
柏木と洋は森林の中で、難しい顔を浮かべ頭を悩ませていた。
「…少し面倒な事になったな。」
「あぁ、まさか“門”を破壊してまで侵入して来るとは思わなかった。」
「アイツ等は協定を破った上に戦争まで起こそうとしているつもりだ。」
「そんなのがアッチに知れ渡ったら大変な事になるぞ。」
洋の言葉に柏木が珍しく動揺し、緊急を要する事が起きた。洋は地面にしゃがみ、何かを掴み持ち上げた。
「…この島の食人族だな。アクセサリーが多いから村長で間違いないだろ…まあ、不要な者が減っただけでも感謝しなくてはな。」
洋が掴み持ったのはピアスのアクセサリーが大量に付いた老人の生首だった。
「可哀想に…人間だと思って捕獲しようと返り討ちにあったのだな。」
柏木は十字架を胸で描き、天国に行けるように祈った。
「…カニバリズム野郎が行き着く先は終わりのない地獄だ。人間を殺め、人間を食う事で、地獄に葬られると悪鬼に魂が消滅するまで永遠という時間で玩具にされる。」
「だが、彼等はそうする事でしか生きられなかったんだ。」
「俺は認めたくないな…さてと、ここを片付けて向かった先を特定しなければ大勢の人間が死ぬぞ。」
洋と柏木が立っていた場所は、巨大なクレーターの上だった。周りは人間らしき腕や足の肉片が飛び散っていた。
無残にも木で作られていた家や檻は破片となり破壊されていた。
おぞましく吐き気を催す残虐な風景が写し出された。
「…だが、解せないな。こんな下等生物の人間なんか放って目的地を目指せば良いのに、わざわざ体をバラバラにして時間を掛ける必要があるのか?」
「確かに、アイツ等にしては効率も悪くシンプルじゃない。それに滅ぼすなら海道を先に…。」
「報告します。“アレ”が目指した目的地が判明しました!」
一人の司祭平服を身につけた男が柏木達に敬礼をしてファイルを手渡す。
「…目標は――――エジプトだと!」
「狙いは『太陽の覇気』…だが、アイツ等には必要ない…では、その所有者か。」
柏木が“ソレ”が向かった先がエジプトだと分かった瞬間に、洋は“ソレ”の行動を推理し目的が理解した。
「品川くんを狙っているのであれば、こうしてはいられない! 彼を安全な場所に…。」
柏木が焦っていると洋が落ち着かせる様に片手で静止する。
「多分だが、狙いは品川だけじゃないかもしれない…『覇気使い全員』だ。」
「!」
「…目的が分かれば吹雪と相川に品川の護衛を任せる事は出来ない。ならば輝に任せるしかないな…忍の居所はまだか!」
「未だ発見されておりません。」
「忍がいないと厳しいな。“アレ”を倒すのに二人だけじゃ…仕方ない、桐崎を呼び戻す。」
「承諾してくれるか?」
「承諾する前に、もう来てんだよ。」
森林の奥から草木を踏む音が鳴り響き、二人の耳に声が聞こえた。
やがて森林から出現した者を太陽が姿を照らした。やれやれと呆れ気味の桐崎だった。
「…殺人衝動をわざと制御しないサイコパス以上で法で裁けない化物が、こっち側に来たっていう世界が終わった同然の悲報を聞いたんだが?」
「あぁ、この食人族のバラバラ死体を見れば分かるだろ。こうも残虐に人間を解体するのは“奴等”しかいない。」
「“奴等”って言ったか? 何人だ?」
洋が淡々と説明をしていると桐崎は“奴等”という単語に冷や汗を流し、緊迫した様子で聞いた。
「…二人だ。ここから徒歩で海に向かい、エジプトを目指している。」
「…今の品川では『太陽の覇気』を得ても餌食になるだけだぞ。」
「こっちも肝心な忍がいないんだ。俺達が動く手もあるが、“アレ共”が再び門を破壊して進行するかもしれないからな…だから、フリーのお前に任せようとしたのだ。」
「……。」
桐崎はジッと目を閉じ、ポケットに手を突っ込み何かを強く握り、考え始めた。
「…やりたくないなら、この件は忘れる事だな。」
洋は先を急ごうと物事を進めようとすると、桐崎は肩を掴んだ。
「…俺がやろう。」
意を決して、桐崎は“アレ”を倒すのに志願した。
「…良いのか? お前は自由を謳歌する為、教会を抜けた。ここで命を捨てるのは惜しくないのか?」
柏木は自殺に近い任務に対し、桐崎の本心を聞いた。
「あぁ、だが結局は自由を得るため、俺は何かを犠牲にしてきた。一人目には愛想を尽かされ裏切られた。二人目は馬鹿で最後まで俺を信じた。ならばアイツの自由を取り返してやるのが俺の最後の責務だからな。」
桐崎は二人の弟子を思い出し、悲壮感に浸りながら語りだした。
「…その言葉が生涯で最後にならなければ良いんだがな。」
洋は桐崎に不吉な発言をし、地面に置いてあった。銀色に輝く小さいアルミのアタッシュケースを目前に持ち上げて開く。
中には銀色の光りを放って輝くデザートイーグル、二丁が収納されていた。
「“化物”を殺すには“怪物”を使う。まあ、気休め程度にしかならんが効果は保証されてる。」
桐崎は黙々とデザートイーグルを手に取り、マジマジと見ていた。
「…気休めっていう言葉知ってる? まあ、無いより良いか。」
桐崎はデザートイーグルを丁寧にアタッシュケースに戻し、取ってを掴み受け取る。
「総員通達。A班は武装し俺とレンに付いて来い、B班は引き続き被害調査、C班は品川修二の援護に回れ! 良いか! これまで平和の均衡を守ってきた俺達だが、“奴等”は掟を破り、こっち側に侵略してきた! もう“奴等”の好きにはさせない。お前等、遠慮はするな! 命令する――――殺せ! 二度と人間界に行きたくないと思わせるまで皆殺しにしろ!」
洋は懐から無線機を取り、周りにいる班に指示を出した。各班員に“ソレ”を見つけ次第、容赦なく抹殺しろと森林が響く様なドスを効かせた大声で命令した。
「それじゃあ、俺は先にエジプトに向かうとしよう…このデザートイーグルは壊れても弁償しなくてもいいよな?」
「あぁ。どうせ経費で落ちる。銃弾も好きなだけ使えっていうか破産するまで使ってやれ。」
「じゃあ、このバズーカも好きなだけ使っていいって事だな?」
桐崎は近くに置いてあった武器輸送ケースを指差し、洋に何でも使っていいと言ったので要求したのだ。
「いいよ。ついでだから戦闘機とアパッチヘリも使っていけ、どうせ壊れても経費で落ちる。」
洋は経費で落ちるからと言い、軽々しい返答で国家予算を越える物を桐崎に与える。
もはや戦争で世界を破壊する気かと一般人なら思うが、周りの誰も常識はずれの事には突っ込まなかった。
そして修二たちは何をしているのかと…
「これって前にも同じ事が起きてなかった? それも五年前の学生時代の時に。」
「あーあんまし覚えてねぇや。吹雪は?」
「逆恨みで襲われた話なら嫌っていうほど覚えてるぜ。それも情報を聞き出そうとして度が過ぎて相川に怒られたしな。」
「アレか! でも、どうする? 俺達、成人だから正当防衛で済むのか?」
先程、吹雪たちと待ち合わせしてした間に修二をカツアゲしようとした不良の二人がボコボコにされた後、逆恨みをし、仲間を引き連れイライラの鬱憤を晴らそうとしていたのだ。
だが、数十人に囲まれていながらも修二たちは呑気に思出話をしていた。
「あのさ? 僕と彼は弁護士と検事だからボコボコにしても法律的には僕たちが勝ってるよ?」
相川は喧嘩を止めようと必死に説得しようとする。が、俺たちが強いから引き下がれと煽られたのかと思い不良たちは…
「うるせぇ! 偉そうに説教垂れやがって! だったらなんだよ!? 俺達みたいはゴミは社会にとって邪魔でしかないんだよ!」
「こ、このお兄さんだって昔は古臭い髪型で毎日登校してたよ? それも目付き悪いから周りの生徒から避けられてたよ。」
なんとか慰めようと相川は隣にいた修二を指差し、過去の話を持ち出した。
「え? 避けられての俺!?」
今、五年経って明かされた衝撃の真実に修二は驚きを隠せなかった。
「そうだよ。品川に冷たい視線を感じろって言っても分からないから敢えて黙ってた。」
「……実は俺も相川のオタク趣味を馬鹿にしてた。あんな高額でクッソ不味い料理で満足してる相川を見てコイツ、将来大丈夫かって密かに思ってた。けど、敢えて言わなかった。」
仕返しと言わんばかりに不機嫌になった修二はガキの様な煽りを始めた。
そして五年前では有り得なかった相川と修二の睨み合いが始まった。
「…じゃあ俺は外から見てただけだから、関係ないから帰ってもいいよな?」
「駄目に決まってんだろ!」
この状況に吹雪は呆れて一足先帰ろうとした。が、二人に強く止められた。
「何、ふざけてやがる! 皆、やっちまえ!」
不良たちが鉄パイプを片手にジリジリと修二たちに寄って行く。
「はい、待つッス。全員、今すぐ鉄パイプを捨てないと酷い目にあわせるッスよ。」
そこに懐かしく聞き覚えのある語尾を放ち、大声で一人の警察官が不良に近づいて来た。
「うるせぇポリ公! おい、コイツもついでにやっちまえ!」
「あのさ、そいつだけに喧嘩売るのは長生きしたきゃ止めとけよ。」
吹雪は不良たちに警察官を攻撃するのを注意を促す。が、聞く耳を持たない不良たちは一斉に警察官を襲いかかった。
「はあ~また始末書物ッスね。『水鉄砲』!」
警察官は右手と左手を指鉄砲の形で不良たちに“撃つ”仕草を見せた。
すると襲いかかった不良たちは勢いよく大きく吹っ飛ばされ、各店にある店の硝子を突き破り、痛みで蹲り戦意を損失していた。
不良たちは、そんな奇想天外な光景を見てたじろいでいた。
「はーい、これからチャンスをあげるッス。今すぐ自首すれば何もしないッスけど、三秒以内に鉄パイプを捨て降伏しないなら――――ガチ物で撃つッスよ?」
警察官から脅迫とも呼べる発言に不良たちは怯え鉄パイプを捨て、降伏の証、“手を挙げる”行為を始めた。
「…良し、じゃあ応援を呼ぶから大人しくしてろよ。」
その不良たちの降伏を確認した警察官は肩にある無線機を使い、人数が多いので応援を呼ぶ。
だが、一人の不良が警察官の目を盗み、密かにポケットナイフを取り出し、修二に向かって走り出した。
「あ! ちょっと…救急車呼ぶの嫌なんッスよ!」
警察官は不良の行動に呆れ、何もする気を無くした。
「死ね! このクソ弁護士!」
不良が修二の腹を勢いだけで力強く深く突き刺した。
「あのさ、そんな短いナイフじゃなく――――シェリアちゃんみたいな、ゴッツイナイフを使えよ。」
だが、腹がナイフに突き刺さったと吹雪と相川と警察官以外の誰もが思った。が、修二は右人差し指と右中指の間でナイフをガッチリと指の力で掴んでいたからだ。
「あ~あ、僕知らない。」
「残念だが、俺も知らない。」
吹雪と相川が、この後起きる不良の未来をすっとぼけて見ないようにした。
修二の顔が黒く影に覆われ、気味の悪い笑顔で目を赤く発光させ、左手で不良の胸ぐらを掴み、ポケットナイフを力づくで強奪し、掌で包み込む。
「さて、問題です。今から小便をチビらし、恐怖で泣くのはどっちでしょ?」
修二はポケットナイフをゴリゴリと握力だけで欠片だけにし、掌を開き、不良に見せる。
不良は恐怖に顔を歪め、股は暖かい液体が流れ、鼻水を垂らし泣いていた。
「出所したら、また会おうぜ。」
修二は右腕を奥まで引っ張り、渾身の右ストレートが不良の顔を殴り、拳が鼻の奥までめり込み、大きく吹き飛んだ。
綺麗な放物線を描き、背中から着地した。不良は前歯二本折れ、体をピクピクと震えて気絶した。
「…俺、上司になんて言われるんだろ? 加害者は半殺しの状態で、どう言い訳しようかッス。」
「まあ、ゴリラが来た殴ったって言っとけば解決するだろ。」
警察官のボヤキに反応した吹雪は適当なアドバイスで答えた。
「ゴリラって…と言うより、アイツ『覇気』を失っても五年前より強くなってねぇッスか?」
「まあな。何せ輝さんが師匠に変わってから五年前の神崎忍と同等ぐらい強くなってるぜ。」
「…五年前の兄貴と同じって、もう何でもありじゃないッスか。」
「そんな事より、早く逮捕しろよ。仲村一之巡査。」
「分かってるッスよ。」
仲村は帽子を脱ぎ、坊主だった髪型は五年の時を経て、短髪のウルフカットになっていた。
「久し振りッスね。相変わらず馬鹿やってるんッスか?」
「まあ、アイツぐらいだ。」
吹雪と仲村はガッチリと友達としての握手を交わしていた。
「あ、仲村いたんだ。」
そこに今更、仲村に気づいた修二が近づいた。自分の影の薄さを指摘されズッコケるしかなかった。
隣で吹雪は顔を引きつらせ苦笑いしていた。
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