第21話 それぞれの決意。

「木元雅の正体を知りたくないか?」


「なんで二回も言ったの?」


 内藤の不可解な言動に、怪訝そうな表情で相川は対応する。


「まあ、お主の素性は知らないが木元雅の正体とは?」


「その前に木元雅っていう人物を知ることだ。」


 竹島が正体について聞いたら、話をすり替える。


「話、変わってない?」


「気にするな。物事の順序を少し間違えただけだ。」


「少しどころか、かなり間違ってるッスよ。」


 的確な二人のツッコミをフル無視して、何食わぬ顔で内藤はスカートの下から封筒を取り出す。


「うわぁ…。」


 流石の戦い慣れている三人も、今、起きている現実がマトモに受け入れる事ができなかった。

 ミニスカを履いた男が、汚い所から情報である封筒を出した事が三人にはドン引きするほどショックだったのだ。

 そして内藤は平然とした顔で、封筒から書類を取り出し、一枚ずつ三人に渡した。


「木元雅が出産した時に記載された物だ。」


「これって…」


「…なるほど、通りで忍様に心酔する訳だ。」


「…うーん、なんて言うか複雑ッスね。」


 順番に相川は驚き、竹島は納得し、仲村は難しそうな表情をそれぞれしていた。


「まあ、この書類を雅人に届けたかったんだが、今日はいない様だな。」


「吹雪くんの知り合いだったんだ。」


 相川にとって正体不明の人物が吹雪の知り合いだと分かると内心安堵した。


「その書類は燃やすかシュレッダーにかけて処分してくれ、それじゃあバイビー。」


 内藤は場を荒らすだけ荒らし、嵐のように三人の目の前から去った。


「なんだったんだろ…。」


「まあ、ネタ的な感じのキャラじゃないんッスかね。あんな女装する変態は、その手の漫画が多いッスから。」


(面白かったな。もう一度、来てくれないかな?)


 内藤の行動に動揺を隠しきれない相川、冷静に感想を述べるだけの仲村、暇だった時間を潰せてオマケに面白い喜劇を見れて満足した竹島だった。

 だが、こんな茶番劇の間でも三人は密かに心から決意していた。

 絶対に、この戦いを終わらせるといつ決意を固めた。




 午後六時、外は夕焼けだが森の周辺は真っ暗で何も見えない状態だった。


「『M.O.F』!」


 そんな暗闇の中から修二の声が響き渡る。

 修二はメラメラと燃える盛る四肢を纏い。布で目隠しをしている柏木に正面から右ストレートの攻撃を仕掛けた。


「…品川くん、正面きって戦うのは構いませんがフェイントを組み合わせるのをオススメします。」


 柏木は見えているかのように修二の顎を掴み、大外刈を決め落ち葉の地面に叩きつける。


「スゲェ、目隠ししているのにな。」


 柏木は微笑み、目隠しを取り助言をする。


「貴方の攻撃は大胆で威力はあります。けれど敵を欺く事も戦いの基本です。」


「へぇ~流石、怪獣神父。」


 修二は柏木の助言に感心し、フェイントを少し使ってみようかと考えた。


「そろそろ帰りましょう。明日の為に体力をつけなくてはなりません。」


「はーい。」


 修二は立ち上がり、体に付着してい葉を払いのけ柏木が一夜で作ったログハウスに帰宅する。

 ログハウスに帰宅すると吹雪がドラム缶の中を雑巾で掃除していた。


「お? 終わった?」


 二人が帰ってくる事に気づき、吹雪はドラム缶から出てくる。


「ご苦労様です。二人は先に食事を済ませてください、ドラム缶の準備は私がしておきます。」


「はーい。」


 修二と吹雪はログハウスに入り、柏木が拾い調理した山菜料理を堪能していた。

 そして食べ終わると二人で食器を洗っていた。


「驚いたな。まさか柏木さん、料亭の板前やってたなんて。」


 雑談しながら吹雪は皿を拭き食器棚に収納していく。


「それに他の国に行って修行してたらしいぜ。」


 修二は皿を洗剤で洗いながら吹雪に渡していく。


「マジかよ。多彩だな、あの人。」


「神父になったのが不思議だな。」


 二人は柏木に関する雑談をしながら、コツコツと作業を進めていく。


「二人共、準備ができました。ジャージを脱いで外に出てください。」


 不意に外から柏木の声が台所まで聞こえ、二人は急いで食器を片付ける。

 そして二人はジャージとパンツを脱ぎ、柏木が事前に用意していた洗濯かごの中に入れる。


「吹雪、その傷はいつ付いたんだ?」


 ふと修二が吹雪の背中にある丸い形の傷が目に入り気になって声をかける。

 それは塞がっていたが、深かったのか成長しても完全に消えるわけではなかった。


「これか? 俺が中学の時に廃車置き場で遊んでて事故で背中に深く廃材が刺さってな。致命傷で助かる見込みも薄かったらしくてよ…そんな時に優秀な医者がいて奇跡的に助かったんだ。そん時かな? 『覇気』が使えたりしたのは、寝てる間に寒気がして起きてみたら右腕が凍ってたから一瞬ホラーを感じたぜ。」


 染々と過去の話を懐かしく語る吹雪。気を取り直し、二人は腰にタオルを巻き、ログハウスから出る。


「火傷に気をつけてくださいね。いくらタオルを掛けてるとは言え他の所を触れば熱いですから。」


 二人に気づいた柏木はドラム缶風呂についての注意をする。理解した二人は脚立に上がり、右足から湯に浸かりドラム缶の底にあるすのこまで足を付け、完全に入る。

 真剣な表情で柏木は軍手をはめた手でまきを下にあるブロックの囲いに入れていく。

 二人が火傷しないように丁度いい火力と湯加減で調整していく。


「なんつーか、ドラム缶風呂なんて初めてなんで…感想は単調なんですけど気持ちいい。」


 あまり難しい言葉が見つからないため、吹雪は簡単な簡単を述べた。


「修行時代を思い出すな。師匠が五右衛門風呂をしてくれたな~。」


「もしかして品川くんの師匠は桐崎流星なのでは?」


 何故か、柏木は修二の師が桐崎だと当てた。


「あれ? なんで分かったの?」


「それに浴槽なんかを村から盗んでたでしょう?」


「……それもあってる。」


 修二は思い出すかのように考えると答えが導きだされたようだ。


「彼と私は昔からの知り合いで、よく実家の浴槽を盗んでは五右衛門風呂をしてました。」


 サラッと柏木は過去に起こった盗難事件を愚痴っていた。


「なあ? お前の師匠って犯罪者?」


「犯罪者っていうより、変人?」


「それからシスターにはちょっかい出しますし、店の手伝いをさせれば客と喧嘩したり、私のお気に入りの包丁を全て駄目にする問題児でした。」


(それ問題児っていうレベル越えてるぞ。)


 そんな桐崎の罪状を聞いてた吹雪は、半目で内心でツッコミ、桐崎はおっかない人という認識になった。


「だけど、心は曲げないでしたけどね。今回の戦いでも本人は現れませんが、品川くんの成長を期待しているのでしょう。だから、忍様と品川くんを二人共を応援はできませんが…頑張ってください。」


 柏木は微笑んだ顔で修二を激励した。


「……怪獣神父。」


「はい?」


 何か様子がおかしい、修二に怪訝そうな表情で柏木は応答する。


「……めっちゃ熱い!」


 修二は茹で蛸のように体が真っ赤になっていて、気絶寸前だった。

 柏木と吹雪は火元を見ると話している間に薪を入れすぎて火が燃え上がっていた。吹雪は急いで氷を生成し、火元に放り投げる。

 火はみるみるに鎮火して、柏木は修二を救出しベッドでログハウスに入れチェアに寝かせる。


「あーやべ、三途の川が一瞬だけ見えた。」


 修二は参ったという表情で目を腕で隠しながらうなだれていた。


「もっと氷いるか?」


 寝間着に着替えてきた吹雪が心配しながら氷枕を持ってきた。


「あぁ、頼む。」


 吹雪は氷枕を修二の額に置き。人差し指を向けて扇風機レベルの冷気で熱を冷ますように修二の体に放つ。


「…便利だな。『氷の覇気』って、熱い夏の日なんかクーラーとかいらねぇよな。」


「まあな。やろうと思えば自分の家だけ氷を覆って電気代なんか浮かせる。」


「…電気会社は損だな。」


「だろうな…なあ?」


「?」


 修二は腕を少し退かし吹雪を覗き見る。


「この戦争を終わらせたくないか?」


 深刻な表情で吹雪は、忍が起こした戦争を止めたくないかとダウン状態の修二に聞いた。


「…正直言うと終わらせたくねぇんだ。こんなにも強い奴等がゴロゴロいるなんて海道出るまでは知らなかった…けどよ、美鈴ちゃんの悲しい顔を見て戦争なんか終わらせねぇと思った。まあ、俺は吹雪みたいな友達がいるだけで満足だ。俺の勝手だけどよ。」


 修二は完全に腕を退かし、天井を眺めるように語る。


「なんだよ…青臭い事、言ってんじゃねぇよ。」


 修二の大胆な発言に、吹雪は恥ずかしくなり口を尖らせていた。


「大丈夫ですか、品川くん?」


「あ、怪獣神父。もう大丈夫だ! それより明日もお願いします!」


 修二は起き上がり、柏木にお辞儀をして修行の続行を頼みこむ。


「はい。ですから体を休めないと、明日は『M.O.F』の弱点を克服しますから。」


 二人は元気よく返事し、この時の修行は無事に終わりを迎えた。


 そして時は経ち、運命の十月二十日となった。

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