第20話 特訓開始! リーゼントとパーマ。
七月二十日、殆んどの学校は夏休みに入り、勉強というストレスと憂鬱から解放される最高の学校行事。
けれど一部の人間を覗けば別だが…
「お、おい…ま、マジ…かよ。」
豊かな木々に囲まれた森の中で、二人の人物がいた。
一人は青色のジャージを着た。荷物がどっさり入ってそうなリュックサックを背負い。登山して息が上がり汗だくでダウンの吹雪。
もう一人は赤いジャージを着て、重そうな丸太を背負い軽々と登山をしていく修二だった。
「品川くん、後、二往復したら一時間休憩に入ってくれ。」
黒いタンクトップと白いハーフパンツを着た。柏木の指示を聞いた修二はサムズアップをして下山していく。
「疲れてねぇのかよ…アイツ…。」
「多分、慣れでしょうね。彼は恵まれた肉体に強靭な精神力でコツコツと経験を積み上げ成長していくタイプです。貴方は直感で動き、戦闘の中でアイデアを閃き活用していく応用タイプですから、得意不得意が別れます。だから、基礎体力の底上げと戦闘応用の修行がメインとなります。」
吹雪は柏木の肉体強化解説に納得し事細かいスケジュール作りに感心した。
「さて、吹雪くん。見物と休憩はこれくらいにして…そろそろ貴方に戦闘スタイルを教えましょう。貴方に教えるのはサバットです。」
「サバット?」
吹雪は聞きなれない言葉に戸惑いを隠せずオウム返しをする。
「フランスの護身術です。蹴りが主体となり、色んな対応ができます。忍様も最初はサバットから学び始めました。」
「じゃあさ、あの目に見えない蹴りはサバットなのか?」
吹雪は忍とヘイムーンから何度も喰らった蹴り技は一緒なのかと聞いてみた。
「違います。あれはサバットではなく神崎流の相手を戦闘不能にさせる蹴り技です。」
「サバットじゃねぇのかよ。」
「吹雪くんに神崎流を教えてもいいですが、三ヶ月じゃ覚えれません。神崎流は個人差がありますが五年で全て完成する蹴り技です。三ヶ月で出来るのは木をへし折るぐらいしか出来ません。」
「いや、三ヶ月で木をへし折るぐらいで十分だよっていうか、それ人にやったら死ぬよね?」
淡々と解説する柏木に吹雪は少し恐怖を交えた冷静なツッコミが炸裂する。
「まあ、とにかくサバットの練習をしましょう。」
吹雪のツッコミを無視した柏木はサバットの準備を始める。
その頃、雅から右太股を刺され一ヶ月入院している相川は暇そうに病室の天井を眺めていた。
「暇そうじゃないッスか。」
そこに見舞品を持ってきた仲村が入室してきた。
「仲村くん?」
あんまり親しくない人物が来たので相川は少し恐くした。
「あれ? 相川も入院してたんッスか?」
どうやら仲村は相川を駆け付けて見舞いに来たのではなく…
「同じ病室とは…驚いたな。」
聞き覚えのある声で相川が隣を見る。そこにいたのはミイラ状態でベッドに寝転がっている竹島だった。
「え? どうしたのそれ?」
吹雪から竹島の話は聞いており、以前にもヤンキー集団との抗争で助かった記憶があり、なんとなく覚えている感じの相川。
それとなく竹島の身に一体何が起こったのか聞いてみた。
「…木元雅にやられた。」
少し間が開き、竹島の溜め息が混じった声で犯人を言った。
「君も?」
「ーーーという事は相川も?」
「まあ、竹島くんみたいに酷くはないけど右太股を深く刺されて夏休みは入院生活。」
「先週に俺等は兄貴に国際電話で呼ばれて暫く日本を離れるって聞いて後から飯にして…」
そして何かあったのか仲村が、竹島の許可を取らずに勝手に説明を悠々自適に始めた。
先週の七月十三日、雨が降る神崎邸の蝋燭のみ少し暗い食堂で仲村と竹島は仲良く優雅に食事をしていた。
何故、暗いのかは雷が屋敷に直撃し停電の状態になった為、あった物で補っていた。
「なあ、ゴン兄?」
「む?」
「俺さ、最後の三銃士を見たことないんだよな。ゴン兄は知ってる?」
「…すまない、まだ私も面識がないんだ。」
仲村の質問に答えれない、悔しい気持ちで面目ない顔で謝罪する。
「いや、ゴン兄が知らなかったら別にいいッスよ。だけど兄貴は最後まで残しておいてたぐらいッスから、どんだけ強いんッスかね?」
「確かに気になるな、忍様の側近と言うぐらいだ。より強い『覇気』なんだろうな…。」
竹島は気持ちを切り替えて仲村と淡々と話していくが、突如とテーブルにあったフォークを扉に向かい投げる。
そんな竹島の行動に仲村は呆然としていた。
「へぇ~俺の存在を知ってたんだ。」
「当たり前だ。そんな殺意を向けられたら嫌でも気づく…お主が木元雅か?」
ドアの影から現れたのは不適な笑みを浮かべてフォークを人差し指と中指の間で回し二人に近づく雅だった。
「ご名答。でも、負けた奴に名前を覚えられるのは好きじゃないな。」
雅は挑発的な態度でフォークを顔に目掛けて竹島に投げ返した。
竹島はガッチリとフォークを掴み、テーブルにそっと置き雅を睨む。
「負けた言葉が気にいらない?」
「あの勝負は真剣勝負だった。負けて悔いは無いが、お主に罵詈雑言をぶつけられるのは筋が違うのでは?」
「お前みたいな奴が三銃士の一員だと思うと悲しくなるよ。忍様に勝利を届けられない、ゴミに負ける雑魚以下と一緒に、俺と同一視されるのは虫酸が走るんだよ。」
雅は竹島の顔に至近距離まで顔を近づけ、負けた事を何度も攻め続ける。
そんな暴言を吐かれた竹島は軽く笑い、次に大きく笑い、そして…雅の顔を目掛けて右ストレートを放った。
「おっと! お前は空手の達人だったね。忘れてたよ…っていうか、覚える必要もなかったかな?」
だが、雅に簡単に避けられ距離を取られた。
「お主は私の誇りに傷を付け、更には真剣勝負した吹雪雅人まで侮辱した。お主だけは許さん! お主は、私が倒す!」
椅子から立ち上がった竹島は右腕に岩を覆わせ走り出す。
その巨大な岩の腕を雅の全体に目掛けてパンチを放つ、そのパンチの衝撃はドアとカーペットをいとも簡単に粉砕した。
「おぉ、怖い怖い。そんな攻撃を喰らえば骨が粉々になるね…けど、俺には通用しなかったな?」
天井から声が聞こえ、竹島と仲村は上を向くと…なんと雅は天井にトカゲのように張り付いていた。
「器用ッスね。」
仲村が呆然と感心していると竹島は冷静に次の行動をする。
右腕に覆われた岩を分解し、そして大きめサイズの岩を雅に目掛けて力一杯、蹴り飛ばす。
雅はスラスラと天井を這い回り、竹島の岩攻撃を躱していく。
「天井に穴を開けるとは…弁償できるのかな?」
「説明すれば許してくれる…多分。」
雅の挑発に竹島は問題ないと言ったが、最後には小声で自信なさげに呟く…が、岩を何度も繰り返し蹴り飛ばす。
そして暫くすると天井は岩に囲まれ、雅は逃げ場を失っていた。
「これで最後だ!」
竹島は巨大な岩を生成し、蹴り飛ばす。
その岩は回転し、摩擦熱を覆い雅に向かって押し潰した。
「……。」
仲村と竹島は何かアクションが起きないか様子を見ていたが、これと言った目新しい動きがなく二人は安堵していた。
だが、その現実はすぐに裏切られた。
「少し焦ったけど、大したことは無い。逃げ道さえ見つかれば岩に囲まれても…油断した敵の背後に立てるんだよ?」
何処からか雅の声が響いた。竹島は目で追いかけたが、もう既に雅は背中合わせになるようにいた。
仲村が気づき、竹島の名前を叫んだ。
「ゴン兄!」
竹島は背後を振り向き、雅を見た。そんな時に竹島の視界はグラッと揺さぶり、全身から噴水のように勢いよく血液が噴射し、膝から地面に倒れる。
「終わりだ!」
雅は服の右袖から取り出したクナイを逆手に持ち、竹島の後頭部を突き刺そうとする。
だが、その雅の行為は一人の男に素早い動きで阻止された。
「ねえ? 君は一体何をやってるのかな? 仲間を殺そうとするなんてーーー柏木さんは、そんな事を君に教えたかな?」
右腕をガッチリと掴み、怒気を孕ませた声で、今にも雅の右腕をへし折りそうな力具合の輝がいたのだ。
「離してください。輝様には関係ない事です…。」
「何、その態度? 僕は別に何も言われても気にしないけど、今の状況は仲間を殺そうとして平然とした態度じゃないよね? あんまり調子に乗ってると…兄さんと会えなくさせるよ? 君には、それが何よりの苦痛と絶望なのかは知ってるよね?」
冷静な口調で放った殺意の言葉に、雅は輝の本気を知り、恐怖でダラダラと冷や汗を流す。
数秒後にはクナイを袖口に素早く収納し、その行為を確認した輝は雅の腕を放し、倒れた竹島に駆け寄る。
「…早く行きなよ。兄さんの忘れ物を取りに…それから、分かってると思うけど再び、こんな事をしたら柏木さんを裏切ることになるから肝に免じておいてね? 仲村くん、行こう。」
「は、はいッス!」
輝が竹島の右肩を担ぎ、我に返った仲村は反対の左肩を担ぎ、食堂から退室する。
「……何故ですか。何故、弱い者が生き残る世の中なんですか…こんな世界!」
すると周りの高級食器や机や椅子が、勢いよく無残に飛び散る。
「許せない…俺は認めない! こんな事があってたまるか!」
雅のやるせない怒りの叫びが、森の奥まで響いた。
「っていう事ッス。」
話は現実に戻り、仲村はリンゴの皮を果物ナイフで剥きながら相川に説明していた。
因みに、なぜ仲村がリンゴの皮を剥いているのは竹島に許可なく話始めたので、説明するなら見舞品を用意しろと竹島が要求したからだ。
「そうだったんだ。その輝さんっていう人は?」
納得した相川だが、輝の名前を出されると仲村と竹島は困った表情になった。
「あの人は…どう言ったら…。」
「…難しい。」
お互いに、ちぐはぐな答えと歯切れも悪く言葉を詰まらせていた。
「それなら俺が説明してやる。」
そこに三人のいる病室から現れたのは、おふざけなミニスカナース服で登場した内藤だった。
「誰? それに不審者だ。」
三人の満場一致な答えがハモった。
「木元雅の正体を知りたくないか?」
「それより、そっちの格好の説明ッスよ。」
これが頭がおかしい内藤と敵関係だった三人の初めての出会いだった。
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