第19話 最後の三銃士。

「…キモロンゲ。」


「クソリーゼント、久し振りだな。」


 久しく罵倒の挨拶を交わし、炎と雷が美男を放っておく事態になる。


「南雲!」


 吹雪が怒りを顕にした状態で名前を叫ぶ。


「なんだ三流もいたのかーーーまあいい。これから天才の俺が、最後の三銃士。木元雅を倒す所を見ておくんだな?」


 南雲は自信満々に雅を倒すと二人の前で発言したのだ。


「貴様、ルールを知らないのか? 私を倒しても忍様とは戦えないんだぞ? 忍様が出した条件は三銃士全員を倒した時に会うのが今回のルールだが?」


 再確認された雅のルール説明に南雲は怪しい笑みを浮かべ笑い…


「あー? そんなもん神崎忍の正体が分かれば意味ねぇだろ? それに三銃士を倒さなくても、お前を人質にすれば飼い主は助けにくるだろ?」


 なんと南雲はルールを無視して更に雅を人質に取り、忍を誘きだそうという魂胆に出たのだ。


「南雲! テメェ、どこまで腐ってんだ!」


「黙れ三流。勝負の世界に汚いも臭いもないだろ? 要は誰が先にゴールするかだ。それが結果だ。」


「この!」


 吹雪が怒り任せに動こうとすると修二が冷静な表情で肩に手を置き静止させる。


「吹雪、悔しいが奴の言う通りだ。元々この戦いは一般人を巻き込まないと言うルールだけしか存在していない。それに三銃士全員を倒して神崎に会う個人的な約束をしたのも俺だけだ。キモロンゲは最初はなっから相手にされていない、それは神崎忍は雑魚には用はねぇって事だ。」


 辛辣に修二は南雲の状況と雅をどちらを相手にするのか吹雪に教えていた。


「雑魚? 死にたいのかクソリーゼント?」


 修二の雑魚発言に額に青筋を浮かべ不機嫌な様子で問いかける。


「うるせぇキモロンゲ。ルールも守らねぇ奴はな友達ができねぇぞ!」


 修二は子供が言いそうな理屈で反論する。


「俺に友は不要だ!」


 南雲は稲妻を空に向かって放つ。空は黒くなり黄色の雷が修二たちに落ちる。

 修二たちは雷に身構えていた。だが、修二たちの目の前にボロいフードを深く被った人が現れ手をかざし、雷を打ち消した。


「…なんだと?」


 南雲には今起きた出来事が理解できなかった。


「ここは逃げるよ。多分、体力を消費している君たちじゃ分が悪い。」


「その声は…ヘイムーン!」


 吹雪は助けてくれた人物の声だけを頼りに記憶を探り答えを導きだした。


「やあ、久し振り。」


 そう言った後にヘイムーンは体を発光させ光の速度で修二と吹雪と負傷した相川の三人を連れ去る。

 その隙に雅もシェリアを連れ、ビルの壁面を走り上がりビルの屋上を次から次へと飛び越え戦線を離脱する。


「ーーーふざけんな、計画通りにいかねぇじゃねぇか!」


 南雲は全員が逃げ出した事と自分の計画が上手く進まなかった事の怒りが爆発し、稲妻を四方八方に八つ当たりで放つ。


「クソ三流共が! 次、会った時は有無を言わさずにぶち殺してやる!」


 大きな声で近くにあったドラム缶を倒し怨念の如く呟き、何度も何度も強く蹴る。




「暫くは大丈夫だね。」


 修二たちはヘイムーンの光速移動のお陰で一瞬で海道病院に着き、相川の怪我を医者に見せて待合室で待機していた。


「…アイツが最後の三銃士。」


 修二が不意に呟くと吹雪が反応する。


「木元雅か。神崎忍の側近…だが神崎の正体が分かったからには戦わなくても良いんじゃないのか? 何時でも戦いは仕掛けられる状態だしよ?」


「それはあまり良い考えとは言えないね。」


 ヘイムーンが吹雪の考えを否定する。


「なんでだよ?」


「神崎っていう組織はね、海道という島が造られる前から存在していて権力も地位が違うんだ。その神崎の子供を約束破って襲撃なんてしたら大惨事、僕たちは一瞬にして魚の餌になる。」


 ヘイムーンは忍を襲う事はあまりオススメしないと吹雪と修二に忠告する。


「マジかよ…それじゃ、あっちのワンサイドゲームじゃねぇかよ。」


「まあでも、約束を取り付けただけでも成果はあると思うよ。神崎忍ってあんまり余程じゃない限り約束とかしないからね。」


「どうして?」


 修二と吹雪は忍の事情に詳しいヘイムーンに怪訝そうな表情で聞く。


「彼はね一度約束をしたら最後まで守る。義理固い不器用な天才なんだよね。だから忍は簡単に約束なんてしないよ。」


 ヘイムーンの詳しい解説に納得した二人だが、吹雪は疑問に思っていた事があった。


「なあ? 今更だけどアンタと神崎忍の間に何があったんだ? アンタは神崎に詳しいのに、何故、神崎の敵側になったんだ?」


「…まあね。ちょっといざこざになって…聞きたい?」


 フードの奥で頬を掻く仕草をし、困った様子で二人に問いかけるヘイムーン。


「できれば。」


「う~ん、彼はね忘れてたんだよ。復讐を…けどシェリアさんに三銃士代理をお願いする時、思い出してしまったんだ。今回の『覇気使い戦争』と“亡くした者”への復讐をね。ここ数年平和だったんだけど誰かが火種を作って戦争を起こし、更に復讐を思い出させた馬鹿二人の所為せいでね。一人は君の師匠だよ?」


 ヘイムーンが修二に気だるそうに指を差す。修二は顔が青ざめて嫌な顔をしていた。


「え~あのオッサン、海道に来てんの?」


 この場に本人がいたら、どんな酷い目に合うのかは想像したくないが修二は本気で嫌がっていた。


「いつも思うんだけどよ? そんなに師匠が嫌いなのか?」


 吹雪は不思議そうに聞くと…


「嫌いだな。」


「嫌いだね。」


 修二とヘイムーンは同時に桐崎の事を嫌いと発言していた。


「ヘイムーンが嫌いって余程の事なんだな。」


「あの人は出会った時から性格は変わらず、口は悪いし、約束の時間にはちゃんと来ないし、機嫌が悪くなると人に嫌がらせするしで最悪。」


「それに女にモテないのを俺の所為にして、トレーニングメニューをキツくする餓鬼みたいな性格だしよ、全くだぜ。」


 何故か、初対面なのに修二とヘイムーンは桐崎の悪口で意気投合する。端から見ていた吹雪は、「本人に聞かれていたらどうするんだろう?」と心の中で思った。


「…話は変わるけど、今回の件で事態は大きく急変したよ。もうすぐしたら『覇気使い戦争』が終幕を迎えるよ…それは君たちが木元雅を倒せば神崎忍に近づき野望を止められる事だね。」


 ヘイムーンの言葉に修二は忍と戦えるのが、あまり嬉しそうではなかった。


「どうしたんだよ? そんな落ち込んで…。」


 気になった吹雪は修二に問う。


「今の俺じゃ神崎に勝てない…こんな実力じゃ『M.O.F』を使っても簡単に返り討ちにあってしまう。鍛える時間が足りねぇ…。」


 修二は右拳と左掌を合わせ頭を抱えていた。

 だが、そんな修二が可笑しかったのかヘイムーンはクスリと笑っていた。


「笑ってすまない。けど、鍛える時間は四ヶ月もある。」


 ヘイムーンの驚愕的な発言に修二は真顔になる。


「どういう事だ?」


 代わりに吹雪がリアクションをする。


「神崎忍は木元雅を引き連れ、四ヶ月はフランスに滞在する。これで南雲暖人に邪魔をされず、密かに特訓はできる。オマケに…君の『M.O.F 』の弱点を克服するチャンスだ。これを逃せばーーー永遠に見えない先の道を進む事になる。決めるのは君だ…。」


 ヘイムーンが喋り終わり、少しの間が空いた。

 その空いた間は長く感じられて息が詰まるほどに緊迫した瞬間だった。


「……吹雪よ。俺は、いつも思ってた。頂上から見た景色はどんな風に写るんだろうなって…それは最後まで登ってみないと分からねぇのが分かった。だから俺の考えは…とりあえず登ってから考える事に決めた。」


 吹雪は修二の平常運転に呆れたりはしたが微笑んだ。


「じゃあヘイムーン、そう言う事だから鍛えてくれよ。次いでに俺も…。」


 ヘイムーンは手をかざし静止のサインをする。


「今回は僕じゃない…特別な先生を用意したよ。」


 そう言うとヘイムーンの背後から大柄な男が現れた。


「今回の生徒は二人ですね。初めまして神崎教会で神父をしております柏木レンと申します。」


 初めて柏木を見た二人の目では怪獣だった。


「…よろしく怪獣神父。」


 修二は不意討ち顔面右ストレートの挨拶をする。


「か、怪獣…神父…。」


 柏木はいきなりの事でたじろいでいた。


「それじゃあ任せたよ。柏木さん。」


 ヘイムーンは全ての事を柏木に任せ、病院を後にした。

 そして、これから始まる特訓は辛く厳しい試練が待っていた事に誰も知らなかった。

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