第18話 毒の薔薇と破滅の風。

 炎に包まれてから数秒間、吹雪と相川は息を飲み心配した表情で修二を待っていた。

 シェリアは構えを崩さずに何時出てきても対応できるように炎を睨む。


「すまない、少し待たせた。」


 中から修二の声が聞こえ炎を手で払いのけ姿を現す。

 両手と両足の四肢がメラメラと燃え上がり、上半身が裸で無事な様子。


(っていうか、なんで裸?)


 三人が奇跡的に思うことが燃え盛る炎から出てきたら急に上半身が裸なのか気になっていた。


「なんだよ。俺の顔に何かついてんのか?」


 周りの空気に察したのか、マヌケな表情で燃え盛る右手で頬を触る。


 だが、その間の隙を狙いシェリアは再び左ナイフを前に突きだし突進した。が、ナイフは修二の腹に当たる寸前に空振りに終わりシェリアは呆然としていた。


 その理由は修二がナイフに当たる前に、シェリアの背後に移動していたからだ。

 修二はシェリアが気づくまで何もせず、じっと見つめ待っていた。


「…今ので倒しておけば面倒事は避けられたのに、何故そうしなかったんですか?」


 背後に修二がいる事に気づいていたシェリアは後ろを向かずに話しかける。


「お前がナイフを捨てるまでだ。」


 修二は冷静に問いに答えるが、その言葉が更にシェリアを怒らせたのか、今度は素早い後ろ蹴りを放つが修二はいなかった。


「もう止めておけ、こんなのは喧嘩じゃねぇんだ。」


 修二は離れた距離で悲しい顔を浮かべシェリアに停戦を要求するが…


「黙れ! 私は! 忍様を救わなければなりません! アナタ達、三人の命があれば忍様は復讐に生きなくて良くなるんです!」




「復讐?」


 事情の何も知らない吹雪はシェリアの言葉に引っ掛かりを覚えた。


「そう言えば吹雪くんに言ってなかったね。先週、神崎忍に会ったんだよ。それも正体を堂々とバラしてね。」


 さらっと相川は思い出したかの様に語りだす。


「え? 俺知らない…。しかもナチュラルに話にハブられてた…。」


 吹雪は驚愕よりも修二と相川に無知の状態で話が進められた事がショックのようで心にダメージが入った。


「多分、知ったら驚くよ。」


 相川は鞄からファッション雑誌を取り出し、吹雪に差し渡す。

 吹雪は受け取り相川は巻頭の表示に指を指す。

 そこに写っていたのは飾りの高級腕時計をはめ、ニッコリと笑みを浮かべている忍の写真。


「え? 川神忍が神崎忍だったのか!?」


「そうだよ。でも品川が嗅覚で神崎忍を言い当てたんだ。犬なのかな?」


「もはや人間技じゃないな…神崎忍は何に復讐するって言ってたんだ?」


 相川は難しい表情を浮かべ答えに困っていた。


「オカルトな話になるけど神崎忍は神に復讐するって言ってた。それに存在を知っているから復讐をするって…。」


「意味分かんねぇな。なんでアイツが存在なんか知ってるんだよ? 神様に会った事があんのかアイツは?」


「そうだね。にわかな話だけど…。」




「『毒針』。」


 そう唱えるとシェリアは口から小さい針、数本を空気で飛ばす。

 それに対応するかの様に修二はメラメラと燃える右手を掌をかざしただけで針は溶け、力なく地面に落ちる。


 攻撃が未遂に終わたの対しシェリアは冷静な判断で次の攻撃を仕掛ける。

 空高くジャンプし修二の頭上に標準が合わせ左ナイフを逆手持ちに変える。そして体を捻らせ竜巻の形で回転し落下する。


「すまないシェリアちゃん…終わりだ。」


 修二は何故か悲しそうにアッパーの構えで顔を俯かせ…シェリアがいる上空に拳を突き上げ、高火力の火炎弾を放った。


 彼女はマトモに火炎弾を直撃し火だるま状態で抵抗なく地面に背中から落ちた。

 すぐさまに修二はシェリアに纏まり付いている炎を払いのけ一瞬にして消火する。

 シェリアの着ていたワンピースは焦げ、所々が破け肌が露出していた。


「…すまない。」


 修二はシェリアに謝罪をし、『M.O.F 』を解除し両手をポケットに突っ込み表情を曇らせ吹雪と相川に近づく。

 だが、倒れているシェリアの指がピクリと動き、起き上がろうとしていた。

 それを察知した修二は立ち止まる。


「ま、まだ…終わって…いない…。」


 苦悶の表情を浮かべながら、刃が溶けた使い物にならなくなったナイフを拾い上げる。


「…戦う気のない奴とこれ以上は俺は戦わない。そこで立ち止まってくれ、これ以上やるとーーー俺はもっと自分を許せなくなる。」


 目がリーゼントの影に隠れて修二は顔だけを振り向かせ停戦を伝える。


「わ、私は! 忍様を守らなくてはなりません…あの人が鬼になって取り返しのつかない事になったら…あの人は壊れてしまいます。」


 苦痛な表情を歪め修二に続行を求める。


「…シェリアちゃん、俺は『覇気使い最強の座』が欲しくて海道まで帰って来て、神崎忍の名前を聞いたんだ。俺があくまで戦う理由は神崎がふんぞり返っている椅子が欲しいからなんだ。『覇気使い最強の座』っていう椅子がな、俺は生半可な気持ちでアイツと戦いたくねぇけど戦う気のねぇ奴と俺はやり合うつもりもねぇ…。」


「アナタ達は忍様の命を狙っているのではないのですか?」


 怪訝そうな表情をしているシェリアの言葉に修二はありもしない話で困惑していた。


「どういう事だ? 俺たちの目的は神崎を倒す事だ。命まで狙う必要ないだろ…。」


 嘘偽りのない言葉にシェリアは何かを察し悟った表情を浮かべてナイフを捨てる。


「…私はアナタ達に賭けようと思います。いきなりの無粋なお願いではございますが、どうか忍様を助けて…くだ…さい…!」


 シェリアは突然と意識を失い、力が抜けるように倒れる。

 修二はシェリアが倒れる寸前に必死な顔で走り、受け止めようとする。が、指先がシェリアの体に触れる前に人影が修二より遮るように先に現れシェリアを奪い消える。


「……。」


 修二は呆然とはせずに鋭い目付きでシェリアを奪い去った人物を目で追い見つける。

 修二が見つけた先にはシェリアをお姫様抱っこで抱えている人物がいた。


「…少々、お喋りが過ぎるようですねシェリアお嬢様。敵にベラベラと情報を与えてはなりませんよ。」


 そこにいたのは仲村一之と同じく白いタンクトップシャツの上から黒いレザージャケットを羽織り、髑髏が特徴のバックル、黒いレザーパンツ、レザーブーツを身につけた。

 ポニーテールの結び目に手裏剣の髪飾りをした美男が修二と対峙するように立っていた。


「テメェ……。」


 修二は苦虫を噛み潰した表情で思い出していた。

 それはシェリアが倒れる前、彼女が話している最中首筋に小さな矢が突き刺さり、その数秒後からシェリアの意識は朦朧とし現在に至る訳になったのだ。


「貴様には見えないと思っていたんだがな? まあいい。シェリア様との勝負は貴様等の勝ちにしておいてやる。ありがたく思え…。」


 彼が脚に力を込めてジャンプしようとする。

 だが、左右から左ストレートと左ハイキックが襲い動きを封じたのだ。

 それは入口付近に立っていた吹雪と相川がいつの間にか走って駆け寄っていたのだ。


「テメェ、人の喧嘩に横槍入れてんじゃねぇぞ?」


「流石に今のは僕でも怒るよ。」


 彼がした行為が気に食わない二人は睨み、額に青筋を浮かべていた。


「…これだからは困る。」


 無機質に放った言葉から状況が一変した。

 彼はシェリアを上空に投げ、動いた所を吹雪と相川は容赦なく同時攻撃をした。


 だが、彼は攻撃を受け流し両袖からクナイを出して相川の右太股を力一杯で深く突き刺す。


「うわぁぁぁぁぁッ!」


 相川は痛みに耐えきれずに苦痛な声を上げ苦悶の表情を浮かべ地面に倒れる。


「テメェ!」


 そんな傷ついた相川を見た吹雪はダイヤモンドダストを展開させる。

 殺意を剥き出して『氷の覇気』の冷気を放った。が、正面に彼はおらず吹雪の背後を取っていた。


 吹雪が気づく時頃には彼はクナイで顔を目掛けて突き刺そうとしていたが、修二が素早い移動で彼に追い付き右ストレートを放つが空振りに終わり、上空にいるシェリアを抱えて離れた場所に着地していた。


「…弱いな。その程度の力で忍様に勝とうとしていたのか? 貴様等に『覇気』など使うのが勿体ないくらいだ。今、この場で……!」


 彼がいる所に轟音を発する稲妻が落ちたが、彼は難なく避け入口を睨む。


「流石、最後の三銃士。簡単には当たってくれないようだ…だが、次は当たる。天才な俺の予想では次の稲妻で当たる。」


 吹雪は信じられない様な表情で振り向き目を見開いた。

 そこにいたのは、右手に稲妻を覆わせ、得意気な表情で立っていた…南雲暖人だった。


「…キモロンゲ。」


 修二が疲れた表情で呟き…


「クソリーゼント、久し振りだな。」


 南雲は修二の呟きに返す。

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