0. ある月の夜、城の書庫にて

「お前……文章までカチカチかよ」

「……頭も固いと?」

「自覚あんのか」

「黙れ」


 夜の書庫に、ろうそくの光が揺らめく。月明かりが差し込み、青年二人の姿を映し出す。


「なぁ、ラルフ」


 傷んだ赤毛の青年が、黒髪の青年に語りかける。


「……攫ってやろうか?」

「流石は盗賊と言ったところか」

「ただの盗賊じゃねぇよ」

「詐欺師も兼業しているな」

「まあ、確かに?」


 ケラケラと笑う赤毛の青年の服装はみすぼらしい。ラルフと呼ばれた方は整えられた身なりだが、その顔色は悪く、溜まりに溜まった疲労が隠しきれていない。


「俺も書いてやるよ。お前とシモンだけじゃ物足りねぇ」

「お前、字が書けるのか?」

「俺は何でもできるぜ?面白いことならな」


 金色の瞳を輝かせ、「賢者」はペンを手にする。


「そういや、お前俺の名前覚えてる?」

「……ミシェル、は偽名だろうな。どうせ」

「……あー、お、俺のび、美貌?に……ぴったり、だと……思わねぇ?」

「無理をするな、どう考えても似合わん」


 少しの間目を閉じ、ラルフは呟いた。


「……もう、『レヴィ』でいいんじゃないか」

「マジか。……ま、俺がモデルだしいいよな」


 ペンを滑らせる音が響く。失明した右目を撫で、ラルフは再び口を開いた。


「……いつか、ルディは連れて行ってやってくれ」

「……ん?」

「さっきの答えだ」

「……俺よ、仲間内では預言者ヨハネの再来とも言われんだ」

「……いや、再来とか生まれ変わりとかはお前の常套句だろう」

「まあ聞けよ。そんな預言者様の言葉だ」


「俺はお前だけにゃ嘘は吐かねぇ。何度でも味方になってやる。何度でも助けに行ってやる。……忘れんな」




『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』

 フランス語版は、1800年代後半に出版されたものが初版だと思われる。

 作者名の表記は、

 著者がRudi MichalkeとCiel、そしてLevi

 編者がLevi ChristとKirk

 欧州各地の争乱の最中、忽然と姿を現した書物である。

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