オイテケ・モッテケ

nobuotto

第1話

 昔、昔、ほんの少しのお金持ちと沢山の貧しい村人が暮らしている村がありました。

   

 ある夜、お金持ちが夜道を歩いていると後ろから声が聞こえてました。

「オイテケ」

「オイテケ」

 振り向いても誰もいません。また歩いていくと

「オイテケ」

「オイテケ」

 という声がどこからともなく聞こえてきて、そしてその声がずっと後ろをついて来るです。怖くなったお金持ちがお財布を道端に置くとその声はスーッと消えました。

 お金持ちの中には、これは風の音を聞き間違えたに違いないと、財布をまた拾い上げるものもいました。すると

「オイテケ」

「オイテケ」

 と森の中から今度はもっと大きな声が聞こえて来るのです。お金持ちは怖くなって財布をおいて逃げました。

 お金持ち達は、このお化けを「オイテケお化け」と恐れていました。


 ところが、その村には「仏様」もでるようになったのです。

 村人が夜道を歩いていると

「モッテケ」

「モッテケ」

という声が聞こえてきます。振り向くとそこにはお金がおいてあります。

 お金を手にすると

「モッテケ」

「モッテケ」

 の声はスーッと消えていきます。

 貧しい村の貧しい人たちは優しい心を持っていました。

 だから、お金を拾った人は誰もが、村人みんなにお金を分けてあげるのでした。

 この神様を村人たちは「モッテケ様」と感謝していました。


 朝から晩まで、お金持ち達は「とんでもない世の中になったもんだ」と「モッテケお化け」を怖がり、村人たち「なんて良い世の中になったんだろう」と「オイテケ様」を感謝していましたが、誰もその正体は分かりませんでした。


 けれど、村外れの森のそばで、お母さんと二人っきりで住んでいる太郎は知っていました。

 少し前の月夜の晩のことです。お母さんに頼まれて太郎が村まで草履を売りに行った帰り、森のなかで大怪我をしている狐を見つけました。狐の横で子狐がブルブル慄えていました。お金持ちが仕掛けた罠に母狐がかかってしまったのです。

 太郎は可哀想になって自分の半分くらいもある大きな母狐を抱きかかえて家に帰りました。

 太郎のお母さんも心優しい人でした。三日三晩一生懸命に母狐の看病をしました。

 だけど、母狐は死んでしまいました。

 「ごめんね。助けてあげられなくて」

 二人で母狐の小さな墓をつくってあげました。墓ができあがるのを見ると、子狐は悲しそうに森に帰っていきました。


 その次の日の夜です。家の外から声が聞こえてきました。

「モッテケ」

「モッテケ」

 二人が家から出ると、墓の前にお金がおいてありました。森から子狐が顔を出してこちらを見ています。子狐がお礼にもってきたのです。 

 太郎のお母さんは森のなかから顔を出している子狐に言いました。

「ありがとうね。けどこんなにはいらないの。うちは貧しいかもしれないけど、お金はね、必要な人が必要なだけあればいいのよ。もっと困っている人にあげてくださいね」

 お母さんは母狐のために使った薬の分だけ貰いました。

 それから「オイテケお化け」と「モッテケ様」が村に出るようになりました。


 子狐はよく母狐の墓にやってきました。

「お化けも仏様も本当はお前だよね。母さんの話を聞いて村の貧しい人にも恩返しをしているんだよね」

 太郎が子狐に話しかけても、子狐はすぐに森の中に逃げていってしまうだけでした。


 木枯らしが吹き始める頃、秋の畑仕事の疲れと季節の悪い病気にかかり、太郎のお母さんは倒れてしまいました。

 お母さんに日に日に弱っていきます。けれど、村のお医者さんに診てもうことができません。お医者さんに診てもらうだけのお金が太郎の家にはなかったのです。


 いつものように森の中から顔を出している子狐に太郎が言いました。

「お前がもしもモッテケ様なら助けてくれないかい。このままじゃ、お母さんが死んでしまう」


 森に帰ってから、子狐はどうしようか考えました。すぐにでも太郎にお金を持っていってあげたい。けれどもお金持ちが夜道をいつも歩いているわけではありません。それに、「オイテケお化け」が出るという噂が立ってから夜道を歩くお金持ちもいなくなっていたのです。

 明るいうちなら、お金持ちも道を歩いています。

 しかし、これは危険でした。夜道と違ってお天道さまが出ているうちに「オイテケお化け」をやると正体がばれてしまうかもしれないからです。

 それでも「オイテケお化け」をやることに子狐は決めました。

 太郎のお母さんを助けるためには悩んでいる時間なんてありません。


 お天道さまが空高く上がっています。森の木々が並んでいる少し薄暗い道で子狐は「オイテケお化け」をやりました。

 真っ昼間に「オイテケお化け」がでたのでお金持ちは驚きました。明るい時でもやっぱり怖いので、お金持ちはお財布をおいて逃げ出しました。


 お金持ちは逃げても、お供は違っていました。お供は明るいので怖くなかったのです。

 お財布をくわえて走り去ろうとした時に子狐は見つかってしまいました。お供が鉄砲で子狐を撃ちました。子狐はお財布をくわえて一生懸命逃げました。


 その夜のことです。

「モッテケ」

「モッテケ」

 とてもとても小さな声が聞こえました。太郎が家の外に出ると子狐が死んでいました。そして、子狐の横にはお金がありました。

 子狐のおかげでお母さんも元気になりました。

 それから「オイテケお化け」も「モッテケ様」も村に出ることはありませんでした。


 太郎とお母さんは村人たちに子狐の話をしました。

 その話しを聞いた村の人たちは誰もが子狐に感謝しました。

 そして今度は自分たちが恩返しをしよう言って少しづつお金を出し合って、母狐の横に大層立派な子狐のお墓をつくってあげました。

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