第22話 元客襲来①

どうにかこうにか、吉良京からの申し込みを断りながらの大学生活を送っている。


あの人は、ある意味凄いと思う。


あの自信、あのメンタル、この仕事の為に生まれてきたと言っても過言では無いと思う。


今日もどうにか吉良京に会わずに講義をこなす事が出来ている。


この調子でいけばこのまま帰ることが出来るのではないか、と思っていた矢先「ねぇ」と後ろから話しかけられた。


驚きのあまり「ひぃっ!」と変な声が出たと同時に、嗚呼、今日も難儀だな、と思った。そのまま無視する事も出来たが、うんざり感を顔前面に押し出し振り返る。


「だから、できないってーーえ?」


振り返って驚いた。


「あ…、ごめんね。驚かせた?」


そこに居たのは、元客だった。


「あ…」


「久しぶり、僕の事覚えている?」


「は、い…」


そこに居たのは、一ノ瀬様と契約する前まで何度か関係を持ったことのあるお客様、某有名会社の息子さんがいた。


「ここの大学だったんだね、知らなかった」


「…はい」


「その、見た目?も随分変わってたから」


「そ、うですね…」


「あ、のさ」


嗚呼、言わないで。


「いきなりだけど、」


私の経験上元客が再度関わって来た場合、


「また、関係を持ちたいんだけどーー」


碌な事が起きたことがない。


そうだよな、と思いながらどのようにお断りをしようか考える。


元客だった事もある為、ぞんざいに扱う訳にもいかないし優しく断るとしつこく付きまとわれる可能性もある。


落ち着いて、真っ直ぐ相手を見つめ、


「申し訳ございません。今は契約しているお客様が他にいる為、出来ません」


はっきりと、誠意を込めてお断りをする。


そして、


「また、機会がありましたら宜しくお願い致します」


"次"に繋げる為、もしかしたら今度出来るかもしれないという希望を持たせておく。


最後に、ちょっと困った様な笑顔を見せて完成である。


そう、"マニュアル"上ではーー…


踵を返し、その場を後にしようとするが、


「…待って、」


「…」


「ごめん、諦められない…」


そう上手くはいかないもので。


「あのーー」


「頭では分かっているんだけど、受け入れられない!」


「…えっと」


「僕、君との思い出が忘れられないんだ!」


「…は?」


思い出も何も、SEXが忘れられないんだろ?とは言える筈もなく。


「1度でいいから、また思い出を作らないかい?」


何を言っているのか分からないが、取り敢えず面倒臭くなる前に再度お断りをしなければ。


「あのーー」


「僕は諦めないよ!君を!」


「いや、だからーー」


「また、聞きにくるから!それまで考えといて!」


「いや、話しをーー」


「僕は!君を!諦めないからね!」


「…」


彼は、大声で諦められない宣言をしながら走り去って行った。


私はこの時、気が付いた。


私の周りには人の話を聞かない人が多いのだと。

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