第21話 契約の裏側

「世良ちゃん」


「…」


あの日、喫茶店で話しをして以来、吉良京は私の事を"世良ちゃん"と呼んで来る。


その名前で呼ばれる度、私が世良家の人間である事を嫌でも思い知らされる。


しかし、源氏名で呼ばない辺り配慮はしてくれているのかもしれない。


「いつ出来るか分かった?」


「…出来ません。同業者の貴方なら分かるでしょーー」


「うん、"だから"だよ。空いてる日いつ?」


「だから、今契約している人がいるのでーー」


「契約ってさ、形だけだよね?」


「…」


「俺らの世界では、契約違反なんて当たり前だと思ってたけど?同業者なら分かると思うけど」


「…」


「それも、世良家って吉良家より規約破りが凄いって聞いたけど、」


「…」


「違うの?」


「…」


「無言は肯定と受け取って良いの?」


なにも言葉が出ないのは、彼の言っている事が全て事実の為。


私達の業界では、形上の決まりはあっても、他にも金になりそうなものがあれば、決まりなんて無い様なものになる。


事実、私の周りにも契約しているが、主人に隠れて他の客と行為をしてお金を稼いでいる人は沢山いる。


これらは個人で行なっているのでは無く、暗黙の了解として"家"が認めているのである。


「世良ちゃんは珍しいね。他の人は売上の為に進んで主人に隠れてお金を稼ぐけど」


「…」


「世良ちゃんはあまり興味無さそうだね?」


「…」


「余裕があるのか、」


「…」


「はたまた興味が無いのか、」


「…」


「どっちかな?」


「あ、の」


「うん?」


「私は、ヤるつもりないので」


「なんで?」


「…契約もあるし、ヤりたくないので」


「え、そうなの?俺とヤりたくない女性っていんの?」


「…は?」


「だって俺ってさ、自分で言うのも何だけど、SEX上手いよ?」


「…」


「それに、顔も格好いいときた」


「…」


「こんな良い男とヤりたくない女性っていんの?」


「…」


「世良ちゃんて結構顔に出るよね、その引いた顔、堪らないなあ」



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