第15話 謎の男③
大学の近くのカフェに、私と彼は居る。
世良家の名前を出された途端、動揺してしまった私。
“翡翠(ひすい)”とは、世良家での私の源氏名である。
プライバシーの観点から、仕事をする際は源氏名を使用している。
基本的に本名を仕事相手に知られることはないが、私の主人は何故か知っており、小さい頃に遊んだことがあるから知っているのだと踏んでいる。
この大学で私の事を知っているのは、主人の彼と、同じ大学に通っている元客ぐらいである。もちろん皆顔を知っている為、全然知らない目の前の男から世良家の名前が出てきた時は激しく動揺した。
もしかしたら、世良家自体については知らずたまたま私の源氏名だけを言ってきたーーーなんて事は無く。「翡翠ちゃん、身体売ってるよね?」とまで言われた。その為、話しをしない訳にはいかなくなり、今近場のカフェに居るという状態である。
「ねぇ、何か食べる?」
「わ、私はいいです…」
「そう?」
連れてきた本人は特に高圧的な訳でもなく、本当にただ友達と喫茶店に来た感じでいるのが逆に怖い。
2人共飲み物を注文し、直ぐに本題に入ると思いきや、なにやら携帯を操作している彼。
まだ、少しの時間しか共にしていないが、私の歩幅に合わせてくれたり、道路側を歩いてくれたり、ドアを開けてくれたりと、何かと女慣れした印象を受ける。
飲み物が届くまでの間、沈黙が続く。
今まではこんなにじっくりと彼の顔を見ることが無かったため気がつかなかったが、彼のニコニコしている様で笑っていない目が怖いと感じた。
この手の人間は苦手である。
何を考えているのかわからないから。いや、それとも私の周りに多いタイプの為か。
飲み物が到着したと同時に携帯を仕舞う彼。「あのさ、」とニコニコしながら話し始める。
「あんた、”世良家の翡翠”だよね?」
「…はい」
「はは、そんなに警戒しないでよ」
「…」
「って言っても無理か」
なんなんだこの人は、と思った。
何がしたいのか全然分からない。
「あの…」
「うん?」
「…要件は?」
「うん、そうだよね」
「…」
「単刀直入に言うと、」
「…」
「SEXさせて欲しいんだよね」
ニコニコしながら吐き出された彼の言葉に、私は猛烈に帰りたいと思った。
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