第14話 謎の男②

講義後、夏帆からの容姿に対する質問責めにあったが上手くはぐらかした。帰り道に質問責めされるかとも思ったが、夏帆は今夜、九条家主催のパーティーが行われる為、先に急いで帰って行った。


今日も何とか大学を乗り切った、と一息つき帰路に着こうとした時「ねぇ」と後ろから声を掛けられた。


誰だろう、と思い後ろを振り返ると、ツヤのある黒髪が印象的な男の人がいた。


顔立ちは整っており、好青年のよう。しかし、何処か軽そうな感じ。


この人…誰だろうか?


こんな端整な顔立ちの人は主人以外知らない。知り合いなら忘れる筈がないのだが。


寧ろ、仕事上記憶力は良い方だと思っていたが、そうでもなかったらしい。


頑張って思い出そうと、お顔が整っている男の人を凝視しながら誰だったか考えていると、「そんなに見つめられると照れるね」と意味の分からない事をほざいて来た。


「…は?」


「…あんた、顔凄いことになってるよ。その言葉遣いはやめた方が良いね」


誰かにも言われた事がある言葉だなーー、直さないといけないなーーと、呑気に考えていると、


「あんた、俺の事覚えてる?」


と聞いて来た。


「…あの?」


「はは、前話しかけた時もそんなだったよね」


「誰ーー」


「ぶつかっただろ?」


「…」


「講義等棟に繋がる廊下でーー」


「あ!」


「そうそう、俺はずっと覚えてたよ」


「…」

あの人か、と腑に落ちた。


と同時に何故話し掛けて来たのか分からず身構えてしまう。


この人の、笑っている様で笑っていない目が怖い。


ーー何か嫌な予感がする。


「そう、身構えないで」


こんな、いかにもモテそうな人が私みたいなのをナンパするわけがない。


「な、何か用ですか…?」


「あんたに話しがあるんだよね」


会ったのは一度のみ。それもぶつかっただけ。話すことがあるはずがない。


「な、ないです…」


「俺があるんだよ」


ましてや、一目惚れをするタイプにも見えないし、告白なわけがない。


「わ、私急いでてーー」


「少しでいいよ」


滅多に他人に話しかけられない私が話しかけられるとしたら、それはーー、


「ご、ごめんなさい」


「ちょっとだけお話しよ?”翡翠”ちゃん?」


"世良家"についてしか考えられない。

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