Q.17 どうして料理する必要があるのかな

 人の遥か頭上にそびえる空はどこまでも遠くて広い。手が届きそうで届かない場所、学校の屋上に少年と少女は寝そべっている。

 手を伸ばし掴みとるわけでもなく、それでいて目を逸らそうともしない。


「ねえ。どうして料理なんてする必要があるのかな」


 少女の問いに少年は浅くため息を吐いた。


「そりゃ、消化しやすくしたり、殺菌したり、味付けで食べやすくーー」

「バカにしないでよ」

「え」


 少年は思わず声を漏らす。


「あなたのせいよ」

「いや、折角俺がまともに話してるのになんだよ、そのつまらないギャグは」

「そうじゃないでしょ。あなたは真面目に答えちゃ面白くない」


 別に面白いことを言おうとしているんじゃねえよ、と少年は小さく呟いた。


「料理することには、それ自体にはなんの意味もねえよ。特に今なら宇宙食みたいなもんで栄養が採れるんだろ。でも、作られた料理はなにかが違う、気がする」

「そうなんだ...」


 いつもの通り、理解しているのかどうか判然としない言葉を少女は返す。

 少年に分かるのは、もうすでに少女の悩みは悩みでは無くなってしまっているということだった。


「もし私がなにか作ってきたら食べてくれる?」

「俺は自分で育てたものしか食わない。アマゾンになる前からそうだった」

「意地悪」


 少女は舌を出し、少年に別れを告げる。

 屋上に独り残された少年は湿った夏の空気をゆっくり味わう。


「俺のためにお前が作ったものを食う権利が俺にはないんだよ」


 少年の弱々しい声は湿った空気に混じって溶けた。

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