Q.16どうして会話なんてする必要があるのかな

 空の青は少し白み、水色を帯びていた。

 弱い陽の光の中、少年と少女はずっと空を仰ぎ見ている。


「ねえ、どうして会話なんてする必要があるのかな」

「俺が知るかよ」

「意地悪」


 その会話にはなにもない。

 空虚を道連れにした音が響くだけだった。


「そんなの、しなくてもいいだろうが」

「でも、なにも伝わらないよ」


 少年は頭をかきむしる。

 お互いに空虚であることに耐えられなかったのだ。


「それはお前が何かを伝える必要があるからだろ。必要があるのに伝えないのはお前が悪い」


 言ってしまってから少年は後悔する。

 少女を否定した。


「そっか…」


 少女の唇は震えていた。


「あなたには伝えたいことってあるの?」

「ないな。伝えたいことと伝える必要があることは違う。俺には伝える必要があることなんて何もない。でも、お前は違うだろう?」

「私には伝えたいことがあるのかな」

「それこそ俺が知るかよ」


 再び白い空白が生まれる。

 風が少し吹いたタイミングで少年は口にした。


「今日はするのか?」

「今日しない」


 少女は屋上を後にする。

 空の青には少年だけが取り残された。


「お前には伝える必要があることなんてなくて、伝えたいことだらけなんだろうが。じゃあ、俺はどうなんだろうな」


 少年の声は空の青に溶けて消えていった。

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