Q.15英雄ってなんなのかな

 空の青を塗り潰すように白い太陽が目を焼く光を放っている。


 そんな灼熱の中、少年と少女は相変わらず屋上のアスファルトに背を向け空の青を睨んでいた。


「ねえ、英雄ってなんなのかな」

「俺が知るかよ」

「…意地悪」


 少女の汗に濡れてワイシャツは肌色に透けている。


「大切な人を犠牲にする人なのかな」

「どこの東條悟だ。仮面ライダータイガだ」


 少年の湿ったため息は陽の光によって乾いたものに変えられる。


「英雄ってのが具体的にはわからない。でも、英雄になろうとして英雄になったわけじゃないと思う。結果的に英雄になっただけだけど、本人は悪いことをしてるつもりだったってこともある。生きてた頃は罪人扱いだったのに死んでから英雄に祭り上げられるのはよくあることだろ」

「ふーん。そうなんだ」


 熱にさらされて少女の肌は紅潮している。


「あなたは英雄になりたい?」

「なりたくはねーよ。英雄になるには俺の手には手放したくないものばかり乗っている」


 少女は何も言わなかった。


「今日はするのか?」

「今日しない」


 少女はフラフラと屋上を去っていく。


「英雄なんて誰にでもなれるんだ。必要なのは守るものと手に持っているものを投げ捨てる勇気だ。俺はそのどれもを持ってはいない」

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