Q.8どうして勉強なんてしないといけないのかな

 雨の後の屋上は濡れている。


 服が濡れるのにも関わらず、少年少女は地面に背をつけ、空を眺めていた。


「ねえ、どうして勉強しなきゃいけないのかな」

「俺が知るかよ」

「あい、あむ、れいく。はうあーゆー?」

「どこからつっこめばいいのかわからんが、疑問詞ついたあとの語尾は上がらない」

「ゆーあーしゃー!」

「…真面目に勉強してるのか」

「だって、この参考書に書いてるんだもん」


 少年は少女の持っている参考書を見る。


「竹内緋色でもわかる、高校あたりっぽい英語風味」


 少年はなにも言えなかった。


「夢の中でいるはーとに追いかけられた時の言葉だって」

「これは、竹内緋色にしかわからない英語だろ」

「ずーずーしーぜおーい?」

「は?」

「オチに持っていく言葉だって」


 空には薄い鰯雲が浮かんでいた。


「勉強しなくっちゃいけないのかしなくていいのかなんてわからない。でもな、勉強ってのはただ教室でノートを取るだけじゃねーだろ。勉強ってのは、なにかから何かを学びとることだ」

「とらんざむ!!」

「………」

「えっとね、これは――」

「今日はするのか?」

「ぺろぽねそっすす?」


 少年は少女の参考書を無理矢理奪う。


 そして、屋上から参考書を投げ捨てた。


「わたしの参考書~!」

「あんなのがどうして売られているのかわからん」


 少年は広がる町を眺める。


「みな同じ事を学ぶ必要なんてない。だが、それぞれ独自の進化を遂げた時、それは世界に対する力を得ると同時に、世界の敵になりうる」

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