Q.5どうして人は一人では生きていけないのかな

 空の青には大きな入道雲が浮かんでいた。


 屋上に寝そべる少年少女は入道雲を見つめるでもなく、空の青を眺めるでもなく、何かを瞳に写しながら、その実、何も見てはいなかった。


「ねえ、どうして人は一人では生きていけないのかな」

「俺が知るかよ」

「意地悪」


 少年はゆっくりと進む入道雲に目の焦点を合わせた。


「人は、生きている限り、ずっと独りだ。ゆりかごから墓場まで、な」

「そうなんだ…」


 少年は少女の声が落ち込んだことに気がついていた。


「でも、誰かがいないと自分が自分であることを忘れちまう。自分が誰であるのかさえ分からないだろう」


 遠くにある黒い入道雲の下には雨が降っているのだろうか、と少年は考えた。


「今日はするのか?」

「ううん。今日しない」


 少女は去っていく。

 その印象はどこか希薄だった。


「生きている限り、人は一人には決してなれない。ずっとずっと独りなのにな」


 少年の言葉は空の青に溶けていった。

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