クアッド平野防衛線
「報告します! 反乱軍が林道を抜けクアッド平野を進軍中。会敵まで凡そ十分!」
「ついに来やがった」
小高い丘の頂から、トバックは敵が進軍してくる方角に視線を向ける。
今はまだ姿は見えない。しかし確実に迫ってきている脅威に心臓が縮み上がる。
「ぶ、部隊の展開は出来たか」
「既に全部隊がこの丘下にて待機しています。急造の
「ジック、レイサン。お前等もそろそろ前線に戻れ」
「なぁ隊長。ホントにこの戦い勝てますかねぇ」
「正直生きた心地がしねぇ。五回目のダブルアップを延々とやってる気分だ」
「今更泣き言なんかやめろ。軍人の端くれなら士気の大切さは分かるだろ」
「こいつは驚きだ。一度だってダブルアップしない筋金入りの慎重派の発言とは思えねぇ」
「とうとう俺達の人生も投了か」
「てめぇら、ホント口が減らねぇな! さっさと持ち場に行きやがれ!」
へへへ、と満足そうな笑顔で二人が歩き出す。
「ジック、レイサン!」
トバックは二人の背に声を掛ける。振り返った二人に一瞬、言葉を詰まらせたが、
「死ぬなよ」
零れ落ちる様に放たれたその言葉に、ジックとレイサンは目を丸くする。
「お前等が掛け金払ってないの覚えてるんだからな。きっちり払うまで死ぬんじゃねぇぞ」
普段より早い口調で捲し立てるトバックに、二人は顔を見合わせた後、意地の悪い笑みを浮かべて去っていった。
「はぁ、こりゃ絶対ネタにされるな」
普段のトバックならこんなことは絶対に言わなかった。
良くも悪くも事勿れ。付かず離れずな関係で何事もなく一日を終える事をトバックは何よりも優先してきた。
面倒だから出世したくない。だが一番下は嫌だ。だからそれなりの地位を保つことが一番と信じて生きてきた。
それが今や最終防衛線の指揮を任されているなんて誰が想像出来ただろうか。
「くそ、何もかもらしくねぇ。それもこれも全部あのお転婆姫と従者の所為だ。あの二人の所為で完全に調子が狂った。退路も塞がった。矢面に立たされた。腹を括らなきゃいけなくなった! あぁ、ちくしょう。俺なんかを頼りやがって」
新入りからの一方的な期待と信頼。
いくら事勿れ主義と言えど、それ等を無下にするほどつまらない男になる事は出来なかった。
「敵影、前方に確認!」
地平の先に、点々と淡い光が見える。その光の下を、無数の人が駆けていく。
「各員戦闘準備! 合図があるまで動くな!」
薄暗い平野を無数の人が走るその光景はまるで闇夜を蠢く大蛇の様だった。
「散々煽ってくれたんだ。
両者が衝突するまであと、二分。
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