第144話 ノルンの休暇



「お願いがあります」


「どうした ノルン 俺に出来ることなら何でも言ってよ」


「強くなりたいです もちろん 毎日稽古はしていますが 何も出来ない自分に無力さを感じています」


俺はノルンの頭を撫でながら


「分かったよ じゃあ 一緒に強くなろうか」


ノルンは真剣な顔で


「はい お願いします」


本来なら 教団のトップの巫女が強くなる必要はない

ノルンの素早い対応で人的被害はないようだが2つの街を奪われ多くの人々が住む家を失った 

更なる巨大スライムの侵攻もあるかもしれない 

自分の力で何とかしたいと思っているのだろう 信者達を この国の人々を救いたいと思っているのだろう

しかし危険過ぎる

巨大スライムを生み出している魔物 誰が考えたって弱いわけがない 戦わないのが一番だろう

英雄である聖騎士に任せて終わりだと思っていたが 巨大スライムに苦戦しているようでは頼りにならない


はぁ~ どうしたらいいのか まあ 今出来ることは巨大スライムを生み出している魔物がどんな魔物なのかを調べること どれくらいのペースで巨大スライムが増殖しているのか等を調べることが大事 むだに戦いに挑んで戦力を失うことのないようにすることくらいかな 俺だけなら逃げて終わりなんだけど ノルンを見捨てることなんて出来ないよね


ノルンに頼んで王に指示を出してもらうことにした

2つの街を滅ぼし居座っている巨大スライムの監視

南の街にいるとされる巨大スライムを生み出しているボスの調査

むだに勝負を挑んで戦力を失わないように冒険者達にも危険性を広めてもらうこと

特に英雄である聖騎士のハルトが戦いに挑みそうなので ノルンに頼んで王から戦いを挑むべきではないと説得してもらうことにした

倒してもらいたいけど無駄死には困る 強くなって英雄として活躍してもらわないとね









「さすが 英雄様です 黒大熊の魔物を簡単に倒すなんて」


「ノルンも凄いと思うよ どんどんレベルも上がっているし すぐに巨大スライムくらいなら倒せるようになるよ」


「そうでしょうか レベル76からレベル99になりましたが恐らく勝てないと思います あの巨大スライムは今までの巨大スライムより明らかに強いようです」


「そうかなぁ まあ 人前で戦って欲しくないけどね」


「もちろん 石投げは人前でなるべく使わないようにします」


「ノルンからならバレテも問題ないけどね なるべく2人の秘密にしてね」


「はい しかし 巨大スライムとどうやって戦えば」


「石でなくても 弓でもいいし苦無などの投げ道具を使ってもいいと思うよ 俺の仲間は矢を魔法で強化して放っていたよ」


「矢に魔法をですか 弓なら天魔の塔にあるアグニの弓が有名ですよね」


「天魔の塔 この国にもあるの」


「はい ありますよ 北東の方角にあります」


「じゃあ ダンジョンから出た後で取りに行こうか」


「えっ 何を」


「だから その弓を 欲しいんだろ」


「えっ えっ まさか 天魔の塔の攻略を目指すつもりですか 私のためにそこまでは」


「愛するノルンのためならたやすいことだよ ちゃちゃっと攻略すればいいよ 一緒に攻略してみる」


「嬉しいですが さすがに長い期間は休むことが出来ません 今回もかなり無理を言って来ましたし」


「大丈夫 休む時は徹底的に休まないとね ノルンは頑張りすぎだから もっと休んでも誰も文句は言わないと思うよ」


「分かりました そうですね よし 10年でも20年でも英雄様と一緒に攻略を目指します」


「ははっ ノルンは大げさだね どうする ダンジョンから出る それとももう少し頑張る」


「それなら レベル100までお願いします」


「じゃあ その前に ねぇ」


「ふっふっ はい」










俺とノルンがダンジョンから出て街に戻ると


「ノルン様 英雄様 聖騎士のパーティーが」


「マヤ 聖騎士様達に何かあったのですか」


「はい 4人が死亡しました 聖騎士様と剣聖様も大怪我をされて戻ってきましたが 今は回復されています」


「もしかして ボスと戦ったの」


「はい 王からは戦いを止められていましたが 指示には従わずに戦いを挑み敗北されました 魔物の正体はドラゴンスライムだと」


「へぇ~ どんな魔物なの」


「ドラゴンの姿をした超巨大なスライムのようです」


「そうなんだ で 巨大スライムは」


「今のところは見当たりません 剣聖様の話では 南の街にいる超巨大スライムと一緒に沢山の巨大スライムがいたそうです ある程度数が増えたら街を出て 他の街に向かうのではないかと」


「マヤ 引き続き 巨大スライムの監視を そして現われた場合は 向かう先の街の住人の避難を 決して戦わないように いいですね」


「えっ ノルン様は」


「もう少し 英雄様と一緒に旅をするつもりです」


「いいなぁ~ あっ すいません わ 私達にお任せ下さい」


「ふっふっ ごめんね」


「いえいえ ノルン様はいままで人々のために頑張ってきました たまには自分のために行動するくらい何も問題ありません お任せください」


「じゃあ マヤ よろしくね ノルンは必ず守るから」


「は よろしくお願いします」













「まずは 魔物を退治して鍵を手に入れましょう」


「いらないよ ほら 俺の背中に乗って」


「えっ はい」


ノルンは不思議そうな顔をしながら 俺の背中に


俺はジャンプをして塔の外壁に


「まさか 攻略とは外壁をですか」


「そうだよ たぶん2時間くらいかかるからね」


「もしかして 既に」


「そういうこと」


以前よりレベルはかなり上がっているが ノルンをおぶっているので 以前よりもジャンプできない 次の足場まで届かない時はアイテムボックスから岩を出し足場を作りジャンプしていく










「とうちゃ~あく ふぅ~ 大丈夫だった」


「はい 私は何もしていないので それに 楽しかったですよ」


「俺もね じゃあ ここで 待っていてね 俺は中心に穴を開けるから離れてて」


「ふっふっ まさか こんな方法が あっ ダンジョンも何か方法があるんですか」


「いや ダンジョンはまだ攻略方法が分からないよ いろいろ考えてるんだけどね」


「ふっふっ いままで誰も攻略出来ていないダンジョンと天魔の塔を攻略しようと考えるなんて」





どがっ どがっ どがーんっ っと巨大な岩を落としていく


以前より巨大な岩を落とせるようになったのだが なかなか頑丈だ


どがっ どがっ どがーんっ


巨大な岩を空から落とし 着地してから収納 何度も繰り返す


「よいしょ」っと落とした巨大な岩を持ち上げていくと穴が


おおっ 入れそうだね


「ノルン おいで 入るよ」


俺はノルンを抱きしめ 穴の中に


「凄いっ 綺麗ですね」


俺達の目の前には沢山の宝石等の山が


「好きな物があればアイテムボックスに入れていいからね そうだ 宝箱の中にあると思うよ それから大きな箱を開けたらびっくりするかもね」


「えっ あっ 弓ですね じゃあ この宝箱から」


ノルンが大きな宝箱を開けると声が


ノルンは えっ えっ っと戸惑っていたが 話が始まった


「天魔の塔を攻略し者よ そなたに アグニの装備を授ける

剣 鎧 盾 兜を装備すれば 火の力を得ることが出来る

火魔法の強化 体に火の力を纏えば 攻撃力が大きく上昇する

この装備を後世に残すのは 邪神族に対抗するためだ

この天魔の塔を攻略し者よ

邪神族は強大だ

しかし 仲間と共に天魔の塔 そしてダンジョンを攻略し 力をつければ

必ずや対抗出来るようになるだろう

我らが封印した 邪神の扉 封印が解けるのは おそらく 今より1万年後

この宝箱の中にも 封印が後どれくらい持つのか分かる玉を入れておく

既に 封印が解けているなら 玉が割れているだろう

我らの時代には 神からつかわされた英雄が 智王がいた

封印は英雄である智王の協力なくしては出来なかった

もし英雄である智王の子孫がいるのであれば 再び邪神の扉を封印することが出来るかもしれない

封印できなくとも  天使族 魔族 獣族 人族 エルフ族等 全ての種族が力を合わせれば邪神族に対抗出来るだろう

我が名は ドワーフ王 ユミル  息子に王を譲り 最後の時は智王の里で過ごすことにする

攻略し者よ 希望を捨てず 全ての種族で力を合わせ 仲間と共に」


ノルンは俺の方をじぃーと見つめて俺の言葉を待っていた


「外れの箱を開けたね 他の4つにアグニ装備が入っているよ」


「えっ えっ でも これ これって」


「じゃあ 俺が5個で ノルンが5個でいいよね」


ノルンは首を横にぶんぶんと大きく振りながら


「いえ エリクサーなんて大切な物は貰えません 英雄様が」


「でも 俺は9個持っているから 半分でいいよ」


「いえ 全て英雄様が 英雄様がお持ちください えっ あっ まさか ニケの目や腕 そして体中の傷が癒えたのは」


「そうだよ 俺の愛する人に使うのが一番有効な使い方だろ ノルンも大切な人に使うといいよ」


「私が大切なのは英雄様です さすがに これを受け取るわけにはいきません 誰に使っていいのか判断が私には出来ませんので」


「う~ん じゃあ 俺が貰うからアグニ装備は受け取ってよ」


でも でも っと言うノルンの頭をぽんぽんっとすると ふふっ っと笑いながらキスをして こくりと


ノルンが4つの宝箱を開けると 弓 盾 鎧 兜が入っていた


ノルンがいきなり きゃあっ っと可愛い悲鳴を


「すみません これって」


「んっ どうした」


「全て SSS級装備ですよ」


「だろうね アウラ装備もそうだったよ 他の天魔の塔にもあるんだから そんなに価値があるわけじゃないと思うよ」


ノルンは またぶんぶんと首を横に振り


「いえ これは英雄様が装備するべきです A級でも凄い物で これは その上のS級の更に上のSSS級なんですよ」


「大丈夫 更に上もこの世界には存在するみたいだし それに前に言っただろ 俺は装備が出来ないって」


「ですが」


「それに 欲しくなったら 他の天魔の塔を登れば沢山手に入るからね」


「わ 分かりました 大切にします ありがとうございます」


「他に欲しい物があったら 言ってね 俺はこっちからどんどん収納していくからね」


「えっ はい え~と」


俺は適当にどんどん収納していく しかしノルンは何も手に取らずに眺めているだけだった


「まったく ほら これなんか ノルンに似合いそうだよ それにこの大きな宝石も」


「じゃあ お言葉に甘えていただきます」


ノルンは嬉しそうにネックレスを首に


しかし すぐまた 外し 「S級でしたよ」っと


「似合うよ」っと言うと苦笑いしながら アイテムボックスの中に


後は大きな宝箱の中の指輪と玉が2つか


指輪を鑑定するとS級の緑竜召喚の指輪


「ノルン この指輪もあげるよ」


ノルンは首を横にぶんぶんと振りながら


「S級の指輪などもらえません それにドラゴンの召喚の指輪ですよ それも風のドラゴンの それがあれば空だって移動出来るんですよ」


「だから 忙しそうなノルンにちょうどいいかなって」


「いいえ その指輪こそ 英雄様に必要な指輪ですよ 智王様 ユミル様が生きていれば きっと 英雄様に使って欲しいと思うはずです」


「え~ 師匠なら可愛いノルンに使って欲しいって言うと思うけどなぁ~」


「えっ えっ 師匠って ユミル様 まさか 智王様ですか」


「そう 過去の英雄智王はまだ生きているよ それにこれらは昔作られた物 2人なら更に凄い物を作っているんじゃないかな」


「まさか ユミル様もですか」


「たぶんね 俺はあったことがないけど 師匠の仲間のドワーフはきっと ね」


「う~ん 頭が混乱してきました でも この指輪は英雄様がお持ちください 私が持っていても使う機会なんてありませんから」


「そう じゃあ 貰うよ 後は2つの玉か」


玉を手に取ると 心の中に声が聞こえてきた 


「封印が解けるまで 後2031年」


「この玉は持ってるから ノルンにあげるよ まあ 役に立つか分からないけど 教団で管理してね」


「そうですね 将来の危機に備えるために時期が分かったほうが人々が一致団結出来そうですね」


残りの玉を鑑定すると 海王の玉となっていた


「これも持っているから ノルンにあげるよ」


「これは 海王の玉 海王様に会える玉ですよ」


「えっ そうなの ノルンは何か知っているの」


「知っているというレベルではないのですが おとぎ話でよければ」


「おとぎ話か」


「邪神と対抗するために全ての種族が一致団結し戦うことになったのですが 海人族だけは説得することが出来なかったそうです もしかすると 海人族を説得するために残された玉ではないでしょうか やはり この玉も英雄様がお持ちください おとぎ話の中では海に投げると可愛い人魚が現われ海王の国に連れていってくれると」


「へぇ~ 可愛い人魚に会える玉なのか じゃあ 遠慮なくもらうね」


「ふっふっ そこがメインじゃないんですけど」


「じゃあ 終わったから ねぇ」








ノルンはクスクスと笑いながら 俺に抱きつき


一番の宝物は英雄様です っと言って


キスを


ノルンの甘い声が大きな部屋の中を響きわたる


下の階からはその声に反応したのか 恐ろしい唸り声が


その声にビクリっとすると


ノルンと俺は顔を見合わせ クスクスと笑い合う


お互いを抱きしめあい


唸り声に負けない声で


愛を語り合い


負けないほどの甘い声を響かせた

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