第76話 未来へ繋がるクリスマス

 かくして、父であるデーモンブリードとの対戦で自分達夫婦の新たな可能性を開いたドラゴンブリード。

 

 学校の試験も終わり冬休みに入り、ヘルグリム帝国最大の祭りとなったクリスマスの時期がやってきた。

 龍海とアイリーンは紙おむつなどベビー用品を抱えながら屋敷へと帰宅する。

 「今年もやって来たか、俺や兄弟達の誕生日祭りが新しい弟妹も増える」

 龍海達ヘルグリム帝国のインペリアルファミリーはクリスマスイブ生まれが多い。

 その理由が父である進太郎の誕生日に合わせるように計算してるとか。


 「お義母様達も魔界でスタンバイしてますね、私も見習わあないと!」

 出産に備えているリーファ達に尊敬のまなざしをするアイリーン。


 「見習わなくて良いから! 家族計画はきちんと立てようね?」

 アイリーンにつっこむ龍海、まさか自分の弟妹がこの後四十人以上増えるとは思っていなかった。


 「今年も国を挙げてのお祭り騒ぎになるな、毎年の事だけど母さんの方の親戚達もはっちゃけに来るだろうからしんどいぜ」

 身内が多い上に国家元首の一家なのでサボれない行事に辟易する龍海であった。


 「そうですね、私も世界各地からくるであろう義又従姉妹達から隙を突かれて龍海さんを取られないようにしないといけませんねえ」

 アイリーンが黑い笑顔を浮かべた。

 

 そんな他愛もない話をしつつ、二人で居間まで行き荷物をテーブルの上に置く。

 

 「俺もアイリーンを守らないとな、世界一可愛い嫁さんだし」

 自分を想ってくれるアイリーンが何よりも愛しく思える龍海であった。

 「た、龍海さん♪ やっぱり龍海さんはズルいです、極悪非道なヴィランです♪」

 龍海がデレた事でアイリーンのスイッチが入る、だがその事に龍海は気づかない。

 

「いや、だから俺はお前のヒーローだって言ってるだろうに」

 自分の言葉や行動が、アイリーンから自分に対する好感度を常にゲージをぶち抜いて上げている事に龍海は気づかない父親以上に無自覚フラグビルダーな龍海。


 「そうやって私を喜ばせて惚れさせる悪いヴィランです、これはもうヒーローとしてお仕置きするしかありませんね♪」

 何かのスイッチが入ってヤバイモードのアイリーン。


 「いや! お前の方がヴィランっぽいだろ!」

 ツッコむ龍海だが、通じていない。


 「あら~♪ それじゃあ私、ヴィランになっちゃいますね♪ それはもうヴィランらしく龍海さんを沢山、蹂躙してあげますからお覚悟を♪」

 アイリーンが全身から闇を噴き出しつつ下半身を巨大な蜘蛛に変える。

 

 「やばい、家がとんでもない事になる!」

 逃げようと思った龍海、だが龍海の背中に柔らかな感触が当たる。

 「逃がしませんよ♪ 私が分裂できちゃうのはご存じでしょう♪」

 アイリーンの分裂体に龍海は拘束されてしまった。


 「いや、逃げないから場所をもっと広くて邪魔の入らない所でなと」

 龍海は降参して、アイリーンに提案した。

 「その提案は喜んで飲ませていただきます♪」

 腕から蜘蛛の糸を出して龍海を絡め取て引き寄せたアイリーン。


 今年も龍海はアイリーンに勝てなかった。

 後の歴史書にも、生涯皇后の尻に敷かれ続けた愛妻家の皇帝として記録される事となる龍海。

 それがイブ前日の二人であった。


 そして、クリスマスイブがやって来る。


 魔界のヘルグリム帝国本国では、祝祭が始まった。

 

 開放された宮殿の広場ではリーファ、アニー、メイ、フランが

新たに産まれた子供達を抱いてお披露目し見物に来た国民を沸かせた。


 「「おめでとうございます♪ 帝国に栄えあれ!」」

 人と異形が混ざり合った国民達が心の底から祝福の言葉を叫ぶ。

 その様子を後ろから龍海や他の兄弟達とドレスや礼服で正装をした姿で侍っていたアイリーンが恍惚とした表情で見つめていた。

 「ああ、素晴らしいですお義母様達♪ 私も早く龍海さんとの子供をお披露目

したくなっちゃいました♪」

 アイリーンが野獣の目で龍海を見つめる。


 「高校卒業してからにしよう? できれば大学でも一緒にイチャイチャしたい」

 龍海がやんわりと待ったをかけつつ提案する。

 「そうですね、来年の三年時の修学旅行も楽しみたいですし」

 だが今夜は逃がさないとばかりに龍海に抱き着くアイリーン。


 龍海とアイリーンから距離を取っていた異母兄弟達は引いていた。

 「たっちゃん、尻に敷かれてるな」

 ギュンターは女性との付き合いが怖くなった。

 「仕方あるまい、エンプレスドライバーを継承した最強の皇女だぞ?」

 明人はため息をついた。

 「アイリーンは怒らせないようにしようぜ、たっつんの為にも」

 幸太は龍海を労ろうと誓った。

 異母兄弟男子組は一致団結した。


 女子組はと言うと、ぐぬぬと唸る雪花を尻目に呆れていた。

 「お父様、これからも大変ですわね」

 今後も子作りと子育てに励むであろう父の身を案じるマーレ。

 「これからどれだけ弟妹が増えるやら、子供は嫌いではありませんが」

 モーグレットは何だかんだ言いつつ新しく誕生した弟妹の面倒を見る気だった。

 「あたしも~♪ 増えた弟妹ちゃん達か~い~よね~♪」

 ブリギッタは弟妹の誕生を素直に喜んだ。

 女子組も平和であった、進太郎の血筋ゆえか子供達は誰もが家族愛が強かった。


 堅苦しい儀式が終わり、後はお祭り。

 カボチャのケーキやバイコーンの丸焼きに山羊肉のローストと魔界と地球の文化が

混ざった料理が売られたり振舞われたりして国民や皇帝一家の胃袋を満たした。


 ヘルグリム帝国は平和なクリスマスを味わっていた。

 

 行事が終われば後は自由行動という事で、地球へと戻って来た龍海達。

 時間は午後三時ごろ、まだ世間の企業では勤務時間だ。

 「まだイブは終わりじゃないし、東京の方へデートに行こうか?」

 アイリーンをデートに誘う龍海。

 「はい、喜んで♪」

 アイリーンが承諾し二人で屋敷の外に出る、すると外にはピンクのフード付きパーカーにジーンズという服装の十代半ば位の少女が立っていた。


 「初めまして、若い時のお祖父ちゃま達♪」

 フードを外した少女の顔は、ピンク髪に太めの眉の元気な感じの美少女。

 少女の頭には山羊の角が生えていた。


 「龍海さん、未來から孫娘が来ましたよ♪」

 「ああ、もしかして未来で何かあったのか?」

 少女から未來人だと言われても龍海達は何故か疑わなかった。

 「ある意味ではそうかな? 私の名はサクラ♪ 二人の孫です」

 少女、サクラが名乗ると同時に懐から一本のドリンク剤の瓶を取り出して

アイリーンに近づき手渡してくる。

 「何でしょう? 何やら良い物の様な気がします♪」

 アイリーンは躊躇わず受け取った。

 「え? ちょっと、何受け取ってるの!」

 サクラが孫だと直感的にわかったが、物は何かヤバいと感じた龍海。

 

 そんな龍海の脳内にサクラの声が聞こえる。

 お祖父ちゃま、今夜は覚悟を決めてよね!

 「て、俺の頭の中に語り掛けるな!」

 サクラに叫ぶ龍海、だがその叫びをサクラは無視。


 「こ、これはバイコーンZって言う元気になるお薬! 未来からのプレゼント!」

 恥ずかしながら叫ぶサクラ、アイリーンは満面の笑顔でサクラの頭を撫でた。

 

 そしてサクラの姿が透明になったり実体化したりを繰り返し始める。

 「ありがとうございます、サクラちゃん♪ これは必ず龍海さんに飲んでいただきますね未来を守る為に♪」

 瞬時に今日が孫のサクラが誕生する未来につながるターニングポイントだと察したアイリーンがサクラを放し、ドリンク剤の蓋を開けて一気に口に入れると龍海に近づき素早い動きでキスをして口移しをした!


 キスによるドリンク剤の口移しがポイントとなり、サクラの透明化が止まった。

 「コーヒーの味がする、どういうことだか体が熱い」

 龍海の体が熱くなる。

 「うん、バイコーンの血と漢方薬とか混ぜた未来の帝国の名産品」

 サクラが言いづらそうに語る。

 「龍海さん、女の子に恥ずかしい事を言わせてはいけませんよ」

 アイリーンが龍海をたしなめる。

 「いや、なあ?」

 龍海が困惑する中、サクラの姿は今度は金色の光の粒になりかけていた。

 「ああ、サクラちゃん? 大丈夫ですか!」

 アイリーンがサクラの身を案じる。

 「大丈夫、これは未来に帰るだけだからありがとうお祖父ちま達♪」

 龍海達に礼を言い完全に姿が消えたサクラ。


 「龍海さん、お元気になられたようですしお家で二人きりで過ごしましょう♪」

 最後の決め手とばかりにアイリーンが狼の耳と尻尾を生やして龍海に微笑んだ事で、未来の世界線が守られた。


 数十年後、龍海達の孫娘に当たる赤星サクラがサクラブリードと言う名のヒロインとして名を馳せる事となる。


 

 

 

 



 



 

 


 

 






 


 



 








 


 

 


 


 




 

 



 

 

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