第77話 冬の劇場版パート1
クリスマスが過ぎ正月も終えたヘルグリム帝国。
屋敷の居間では龍海とアイリーンが冬休みの最期を楽しんでいた。
「昨夜もお楽しみでしたね、龍海さん♪」
アイリーンが相も変わらず愛おしい笑顔で龍海へ微笑む。
「何と言うか、色々すっとばしてるがな」
クリスマスに兄弟が増えて家がベビーラッシュになった龍海。
数は力だと身内も多いが面倒も多い、ヒーロー組織ヘルグリム帝国。
「クリスマスから連日のように黒山羊をお肉に変えて食べてましたからね♪」
アイリーンが頬を染める。
「国の皆が黒山羊の肉は皇帝の肉! と叫んで山羊肉を食うってサバトだよ!」
龍海が嘆くように、黒山羊の肉は皇帝のシンボルとしてローマのように歴代皇帝を神格化して信仰する魔界のヘルグリム帝国本国では聖なる御馳走として食されていた。
知らない人からすればサバトである。
当代の皇帝である龍海の父である進太郎も、儀式として炎が焚かれた祭壇の前で祖先に祈りを捧げてから、黒山羊の解体ショーを執り行いその場で焼いて食した。
「俺もあれをやるのかと思うと気が重いぜ」
思い出してげんなりする龍海。
「動画配信では高評価でしたよ、大昔のデスメタルのライブみたいだったとか♪」
アイリーンが微笑む。
「あ~、蝙蝠かじったスターとかいたみたいだからね昔は」
龍海が思い出したように返す。
「そんな風にお祭り三昧な私達も、実は年の瀬は大変でしたよね」
アイリーンがどこかを見ながら龍海に話を振る。
「いや、どこ見て行ってるんだよ! え? アイリーン、カンペ出して何? ネット配信用の番組を撮影してるから年末にあった事を話せって? 映像流すって聞いてないよ~!」
龍海とアイリーンのこのやり取りは、龍海が知らぬ間に撮影がされているようで
あった。
そして時は戻り昨年の年の瀬、クリスマスを終えて後は年越しと言う時期だった。
ヒーローもヴィランも年を越す金を稼ぐべく、各地で悪事を起こしてはヒーローが
解決に出向いていた。
本国がお祭りで祝日モードに入っていたヘルグリム帝国の面々も、最も付き合いの深い登録先であるヴィラン対策室から安い単価での応援要請を受けては人員を派遣して事件解決に貢献していた。
「悪党も盆暮れ正月は休みやがれ!」
三叉槍で刀を振り回す怪人と打ち合うドラゴンブリード。
「生活の保障がないから休むために悪事で稼いでるんだよ!」
一般人にとっては迷惑千万な世知辛い事情を叫びながら攻め立てる怪人。
「だったら刑務所で餅でも食ってろ!」
怪人の剣戟を槍の穂先で打ち返しながら機会を狙い敵の刃を槍で絡め取り折る。
「武器は無くなったぞ、降参するならまともな飯を食える状態で年を越せるぞ?」
怪人に降参を促すドラゴンブリード。
「嫌だ、俺だって正月はハワイで豪遊したいんだ~!」
ふざけた事を叫びながら蹴りで抵抗しようとする敵の足をドラゴンブリードは掴み
敵の膝を極めつつ足を取っての一本背負いで敵の顔面を大地に叩きつけて制圧した。
「ああ、これじゃあ流動食だな? まあ餅を詰まらせることもないか」
ヴィラン対策室から手荒でも良いが、検挙率アップの為に敵はなるべく生け捕りにとの指示に従った結果である。
刑務所ではお節や餅が出るそうだが、この怪人はそれを楽しむことはできないであろう。
ドラゴンブリードがダクトテープで怪人を拘束していると、同じく怪人を撃破していたエンプレスブリードがズルズルと漁師の如く捕えた怪人達を引きずりやって来た。
「龍海さん♪ 大漁ですよ~♪ 警察に引き渡して換金してもらいましょう♪」
妻であるエンプレスブリードの無邪気さに呆れるドラゴンブリード。
「だから、お約束だし変身中は一体化していない時は本名呼びは止めようなエンプレスブリード?」
一応仕事中なので、公私をなるべく避けようと相方を窘めるドラゴンブリード。
「はい♪ じゃあ、ダーリンなら問題なしですねダーリン♪」
可愛くあざといポーズを取って答えるエンプレスブリード。
「やべえ、俺この嫁には一生勝てない」
ドラゴンブリードは愛妻に負けた。
倒された悪党達がリア充爆発しろと怨嗟の声を上げていた。
「うるさいですねえ、このヴィラン達♪ 処理しちゃいましょうか♪」
エンプレスブリードが捕えた怪人達を生け捕りから殲滅にシフトしようと腕を肥大化させる。
「お前と冬休みを楽しむ金が減るのは嫌だから駄目」
ドラゴンブリードがエンプレスブリードを止めて無益な殺生を止める。
「そうですね、お金は大事ですからね♪ 生かして換金しちゃいましょう♪」
エンプレスブリードがその言葉に従い矛を収めた。
こうして一つの事件が解決した、だがこれは線を結ぶ点の一つでしかなかった。
一方、魔界のオーク族の国であるマーティ国では緑肌の女性と褐色の肌の女性が
それぞれ軍団を率いて灰色の岩で出来た岩城を背に攻防を繰り広げていた。
互いに剣を交えている両軍の大将格、褐色肌のファンタジーで言うブラックオークの女性も緑肌のオークの女性もどちらも筋骨逞しい美女であった。
「他種族との友好なぞ要らん、男は攫えばいい! 女王の座は私が貰うっ!」
緑肌のオークが岩城を背に防戦しているブラックオークの女性に吠えた。
「貴様には国は渡さない! 私はこの国を、民を繁栄させる義務があるっ!」
ブラックオークの女性が押し返すと同時に彼女の兵達も勢いを取り戻して来た。
マーティ国は絶賛内戦中であった。
地球ではオークと言えばトールキンの物語から始まるエルフの亜種で豚の怪物と言うイメージの生き物だが魔界ではどのような種族の男性との間にも女性しか生まれず
アマゾネスのように外部から男を攫って繁殖する種族として知られていた。
だが、そんなオークの中にいつの頃からか褐色肌のブラックオークが誕生した。
このブラックオークは、それまでのオークとは精神面が違った。
ブラックオーク達は他種族との対話や交渉や外交などに長けていてそれまでのザ・蛮族であったオークとは異質な存在であった。
そしてブラックオーク達が支配権を勝ち取り、緑肌のオークもブラックオークも対立はしつつも共存し国という体裁を取り絶滅を免れていた。
そんなマーティ国で再び内戦が起きた、切欠はブラックオークの女王がヘルグリム帝国の存在を知ったからである。
はぐれ悪魔経由で地球のヴィランを利用し、緑オーク達に魔界や地球から男を攫わせて不満を抑えつつ平和的に国と種の存続させて発展を図っていたブラックオークの女王。
彼女は諜報員からの報告で、自分達と同様の行為をしていたラミア達の国であるラミアランドでドラゴンブリードが暴れてラミアランドの女王を改心させた事でラミアランドがヘルグリム帝国の友好国となった事を知ったのだ。
これは同様に地球から人間を攫って来ていた自分達も下手をすればヘルグリム帝国に攻め込まれると危機感を抱いたブラックオークの女王は、ヘルグリム帝国に使者を送り友好国となる方針を決めた。
最近のヘルグリム帝国の魔界での評価は、事実ではあるが身内には甘い辺境最強の蛮族国家と言う物だった。
友好国になれば国同士の交流が始まり、地球や他国から攫わなくてもヘルグリム帝国から男を引っ張れる。
「平和的に男手が手に入れば絶滅が避けられるし、私も結婚できる!」
ブラックオークの女王は玉座から立ち上がり叫んだ、彼女に従うブラックオーク達も女王に賛同した。
だが、力こそパワー! 男は略奪して来るもの!
と言う、男を調達してくる実働部隊である緑オーク達は捕らえた男をブラックオーク達に搾取されて来た為にブラックオーク政権に反乱を起こす事を決意した。
そしてマーティ国は内戦となり、地球にとってはとばっちりで迷惑な戦いが始まろうとしていた。
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