第65話 パーティー編成

 「カタギの皆さんに迷惑かけないようにカチコミません?」

 病室で青い患者衣姿の龍海は、見舞いに来た老人男性と話していた。

 

 その男、齢八十は超えているであろうに背筋はまっすぐ足腰は丈夫。

 筋骨は隆々で、白髪も艶が良く健康的な褐色の肌と老人らしさは顔の皴くらいしか

見られない。


 上下黄色の拳法着に黒のカンフーシューズと言う出で立ちは、達人の様相であった。

 

 そんな老人の青い瞳は笑顔に満ちていた。

 

 その手には、ドラゴンや巨大モンスターを狩るRPGがダウンロードされている携帯ゲーム機が握られている。

 「派手にぶちかましても良いんじゃね? ドカンとひと狩り行こうぜ~♪」

 龍海に対して、近所の兄ちゃんみたいにフランクに語りかける拳法家なのかゲーム好きなのかわからない老人。


 名は黄華王こう・かおう、百華龍の長にして龍海の曽祖父である。

 ゲームを中心とした日本文化好きでゲーム会社の経営もしているやり手だ。


 「我々がガチで暴れると地球環境大破壊するレベルになるからまずいんでないかと? それに、周辺の国に迷惑掛かるのは駄目だよ? 無駄な恨みを買うし儲けにもならない」

 曾孫を見舞いに来た曽祖父に龍海は、商売の面から攻めて語ればと考えを改めてもらおうと語る。

 

 「大丈夫、ちょっとだけ! ヒマラヤの先っちょ無くなるだけだから♪」

 だが、そんな曾孫の考えを打ち砕くほどに曽祖父は脳筋だった。


 「いやそれでも駄目だろ! 実は仇討ちは口実で、ひいお祖父ちゃん達が暴れたいだけとか?」

 龍海は曽祖父の態度に呆れた、駄目だこの人は自分が何とかしないとと思った。


 「バレちまったか、てへぺろ♪」

 笑ってごまかす華王老、とんでもない迷惑老人だった。


 一瞬起こる沈黙、龍海は目の前のファンキーなカンフー老人に泣いた。

 「いや、勘弁してくれよマジで! 立場考えようよいい年なんだからさ!」

 「最近運動不足でな、お祖父ちゃん思いっきり運動したいんだよ~♪」

 「ちょっとっ! ダイエットの運動する感覚で世界破壊しようとすんなよ!」

 曽祖父の言動に龍海はツッコミに回るしかなかった。


 「わ~った、わ~ったから泣くなって」

 「身内がフリーダムずぎると泣きたくもなるわ!」

 華王老が龍海をなだめる、二人でカチコミのプランを話し合う事にした。


 「まず、面倒くせえがブータンとネパールと大陸の方に筋を通す事をしねえとな」

 華王老、脳筋思考ゆえか眉を顰め心底嫌そうな顔をする。


 「そう、百華龍もヒーロー組織なんだから依頼を受けたって体で大義名分作ろう」

 曽祖父が脳筋な事を考えてるんだろうなと思いながら龍海が答える。


 「そのへんが本当に面倒だよ、日本でもあるだろ地元じゃ良い奴って? 学校じゃヤンキーでも、家の近所じゃ礼儀正しく優しい良い子みたいな」

 華王老、日本在住の龍海にわかりやすい例えを出す。

 「急にスケールが縮まったけど、どういうこと?」

 嫌な予感がする龍海。


「ブラックカルマもそうでな、ヒマラヤ周りの国では義賊扱いで政府も裏でブラックカルマと繋がってるんだよ大陸から自国を守る為に利用してる」

 自分が知る敵とそのホームタウン周辺国の裏事情をぶちまける華王老。


 「遠くの警察より地元の極道って奴? ものすごく面倒くさい」

 「だ~ろ~? じいちゃん、皇帝になった進太郎ならまだしもお前をまだそういう国のごたごたな所に連れ込みたくなかったんだよ」

 知りたくない社会の裏事情を聞いた龍海。


 「でもこのカチコミは俺が仕切るよ、ほっといたら酷い事になる」

 曽祖父達に任せるという手もある、だがこのやる気を出した脳筋な曽祖父や親戚たちの手綱を誰かが握らないと地球が危ない。

 

「お前のそう言う真面目な所は流石だな、じいちゃんがしっかりケツ持つぞ♪」

 ニヤリと笑う華王老、夢は必ずかなうんだと言わんばかりの悪い笑顔だ。

 

「何かすげ嫌な予感がする笑顔だね、ひいお祖父ちゃん」

 曽祖父の笑顔に何か企んでいると感じた龍海。


 「いやな、実は今回の事だが蘭華が襲われた事よりもお前が撃たれた事の方が一族の怒りがデカイんだよ愛されてるな龍海~♪」

 ぐふふとスケベな笑顔を浮かべる華王老。


 「え? どういう事、被害者は蘭華姉さんだと思うんだけど?」

 何で自分の名前が挙がるんだと龍海は疑問だった、親戚の誕生会にお呼ばれしたら大惨事になっただけなのに。


 そして病室のドアが勢い良く開く。


 「大変です龍海さん、敵が来ました!」

 慌てた様子のアイリーンが入ってくる。


 そのアイリーンの後ろから甘い香りと共に一人の女性が現れた。

 「誰が敵ですって、アイリーン?」

 アイリーンに凄むのはボインと豊満な胸を強調し金の龍の刺繍が施されて切れ込みが際どい黒いチャイナドレスを着たお団子頭の黒髪に赤目の美女。

 「私と龍海さんの仲を邪魔する人は敵です!」

 ベッドの上の龍海に抱き着くアイリーン。


 「あらあら、あなただけの龍海じゃなくってよ♪」

 龍海ラブと書かれたセンスで口元を隠して微笑むお団子頭の美女

 「誰が来ようともどこだろうと、龍海さんは私だけの旦那様です!」

 諦めないアイリーン、龍海は突然押しかけて来たチャイナドレスの女性に

唖然としていた。


 「……お、お久しぶりです黒華へいふぁ姉さん!」

 恐る恐る黒チャイナの女性の名を呼ぶ龍海。

 

 「うん、龍海は久しぶり~♪ 心配したわよ~♪」

 龍海に名を呼ばれた黒華はアイリーンと反対側から彼に抱き着き頬を摺り寄せる。

それまで纏っていた剣呑な雰囲気から激変し、真逆の陽気な様子へと変化する。

 

 「大丈夫? 怪我は痛くない? お姉さんと結婚して赤ちゃん作ろう♪」

 心配しつつさらりととんでもない事を言う黒華。


 蘭華とはまた別口の龍海にとって又従姉に当たる女性であった。

 「止めて下さい! 龍海さんは私専用です!」

 そんな黒華から龍海を守ろうとするアイリーン。

 

 「嫌よ、ヘルグリム帝国は一夫多妻が認められてるんだから私も龍海のお嫁さんになるわ!」 

 アイリーンと張り合おうとする黒華。


 「ごめんなさい、血が繋がってる人は駄目です!」

 申し訳なさそうに黒華を拒否する龍海。


 「え~! じゃ、愛人でいいから~♪ お姉さんの会社の株あげるわよ♪」

 「いや、勘弁してください! 兵器会社の株とかも要りませんから!」


 黒華の言葉を更に拒否する龍海、ここに来て女難の相に会い出していた。

 

 「龍海さんも嫌がってるじゃないですか、黒華姉さんも親戚として節度あるお付き合いをして下さい!」

 アイリーンが龍海を守る。


 「え~! アイリーンこそ龍海の独り占めは止めなさいよ、龍海は私達一族のアイドルよ! 私が会員証一番!」

 謎の会員カードを出す黒華。


 「ぶっ! 何ですか、その会員証とかアイドルって!」

 又従姉の言動に噴き出す龍海。


 「そうです! 直ちにゼロ番の会員証やグッズ類を全部私に下さい!」

 アイリーンが別方向にとんでもない事を言う。


 「がっはっは♪ だから言ったろうがお前は一族に愛されてるって♪」

 龍海を巡るやりとりを離れた場所から見ていた華王老が笑う。

 

「これは一体、どういう事なんだよひいおじいちゃん!」

 龍海が曽祖父に叫ぶ。


 「いやな、こっちの一族の娘っ子達でお前のファンクラブができてるんだよ♪」

 華王老がしれっととんでもない事を言う。


 「いや、何もかも初耳すぎるわっ!」

 龍海には叫ぶ事しかできなかった、十六年生きてきて親戚が自分のファンクラブ作ってたとか全く痕跡すらつかめなかった。

 

 「そりゃ秘密結社を作るのはこっちの十八番だからよ♪」

 ドヤ顔する華王老に知っていたなら止めろよと言う顔をする龍海。

 

「正妻である私を差し置いて何をしているんですかお姉さん達は!」

 アイリーンが別方向で怒る。

 

 そんな身内のすったもんだを抱えつつ、この場にいる四人がブラックカルマを叩きにヒマラヤへと向かうパーティーとなった。

 


 

 


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 


 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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