第64話 身内を弾かれたら応報だよね

 「あれが香港の観覧車か、SNS映えするよな」

 龍海は甲板から香港の夜景を眺めていた。

 「龍海さんとこんな景色が見られるなんて幸せです♪」

 アイリーンが隣でうっとりしている。

 二人は学生服姿で船上の人となっていた。


 香港の夜景は美しく、光り輝く観覧車のある陸側からはド派手な打ち上げ花火が夜空を定期的に彩っていた。

 「イエ~~~~イ♪ 皆、楽しんでるかな~~~~っ♪」

 突如船上に大音声でアニメの美少女のように愛らしい声が轟く。

 

 それもそのはず、龍海達の乗る豪華客船では甲板にステージが組まれていた。

 巨大なウレタン製のピンクのハート型の特製ステージは、ステージその物が

海の上に浮いて海上ライブができる特製品。


 その舞台の上に立つのは天使をイメージした白いドレスを身に纏った金髪ロリ巨乳な美少女だ。

 

 頭に金の鹿の角とお尻から赤い尻尾が生えていなければマジ天使であったが残念ながらドラゴン少女であった。

 「私のバースデーライブ、皆でハッピーに過ごそうね~~♪」

 ステージ上の美少女こそ船の主にして主催者、紅蘭華ホン・ランファ

 

 龍海にとって又従姉でありアジアで五指に入るヒーロー組織、百華龍ひゃっかりゅうが一つ紅華芸能社こうかげいのうしゃのCEOでトップスターだ。


 百華龍は文字通り百のグループ企業があり紅華芸能社はニュータントのヒーローが芸能活動を行う為の組織で日本支社がある。


 龍海達が通う力華学園も百華龍のグループの一つだ。

 

 お金持ち芸能人ならではのド派手な船上バースデーライブに龍海はノリが付いて行けず辟易して現実逃避をしていた。


 親戚付き合いを大事にするヘルグリム帝国の代表として龍海は渋々来ていたが場のテンションに頭が痛くなっていた。

 「機嫌を損ねると面倒な親戚付き合いはウルトラ大変だぜ」 

 仕事上の付き合いもある又従姉に対して龍海は食傷気味だった。

 

子供の頃から会う度に蘭華は龍海を可愛がってくるのである。

 恋愛感情の機微に鈍感な龍海は自分が好かれる理由がわからなかった。


 「弟く~~~ん♪ お姉ちゃんの所にカモ~~~ン♪」

 蘭華が龍海を大声で呼び出す。

 「た、龍海さん! 蘭華姉さんからのお呼び出しですよ!」

 アイリーンも蘭華の芸能人としての影響力に目上の義理の又従姉と親族間の力関係から耐えていた。


 自分の夫である龍海にあざとくモーションを掛ける女は彼女にとっては敵である。

 だが妻であるからこそ耐えねばならぬと必死に己を律していた。

 

 「……行って来ます」

 蘭華の所へ向かう龍海、途中で黒服のSPからプレゼントの花束を渡される。

 「お誕生日おめでとう、蘭華姉さん」

 ステージに上がった龍海は蘭華に花束を差し出す。

 「ありがと~~~♪ 弟君、愛してる~~~♪」

 満面の笑顔で受け取る蘭華、その様子をアイリーンは嫉妬の炎を燃やしながら耐えていた。

 

 「……我慢です私、正妻は私! あれは親戚同士のお付き合い!」

 自分が正妻だと唱える事で必死に理性を保とうとするアイリーン。

 金髪ロリ巨乳の蘭華には負けないと耐えていた。

 「えへへ~♪ 弟く~~ん♪ お姉ちゃんをお姫様抱っこして~~♪」

 耐えるアイリーンに見せつけるようにあざとく甘える蘭華。

 「はい、姉さん」

 何だかんだで身内に甘い龍海は、又従姉の要求に応じて蘭華をお姫様抱っこする。

 「わ~~~い♪ 弟君、腕も胸も逞しくて格好良いよ~♪ お姉ちゃんの胸のエンジンがときめきでキュンキュンしてるよ~♪」

 目がハートになる蘭華、龍海はアイリーンの事を想いつつ必死に耐えていた。


 「龍海さんが逞しくて格好良いのは当然です、私の世界一の旦那様なのですから色々キュンキュンするのも同意ですが悔しいですお誕生日補正はズルいですっ!」


 アイリーンは敗北感に打ちのめされていた、これまで多くの恋敵達を迎え撃って来た彼女も又従姉と言うブラックホースの奇襲には勝てなかった。

 

 ここに龍海の実妹の雪花がいたら、この船は第二のタイタニックと化していたか或いはアイリーンとタッグを組んで蘭華に挑んでいたかもしれない。

 


 今日の勝者は自分だと蘭華は龍海とステージの上で踊り歌い、巨大な刀身に石突が槍となっている中華武器の大刀で巨大なバースデーケーキを結婚式の如く龍海と共に入刀する。

 「うう! 今日だけです、今日だけは許して上げますからね蘭華姉さん!」

 アイリーンが生まれて初めて負け犬の遠吠えを口に出した。

 「弟君、ありがとう♪ お姉ちゃんの夢を叶えてくれて♪ お姉ちゃんは弟君の

お嫁さんにはいつでもなってあげるけれど、弟君はアイリーンちゃんを大事にするんだぞ♪」

 引いているようで引いていないマイクパフォーマンスをして、蘭華は龍海を開放した。

 ステージに上がり龍海を抱きしめるアイリーン。

 「蘭華姉さんにはもう負けませんからね!」

 闘志を燃やすアイリーン。

 「えへへ♪ 弟君は大事にしないと駄目だぞアイリーンちゃん♪」

 蘭華も負けていなかった。

 蘭華はアイリーンの事を嫌っているわけではないが、龍海を取られた事は根に持っていたのである。


 こうして、アイリーンと蘭華は義理の又従姉と言うだけでなく龍海が好きと言う点で絆を強く結んで行くことになる。


 「……いや、二人共マジで勘弁してくれよ」

 龍海としては、本当にそんな気持ちだった。


 かたや、偶に会うと過剰に自分に構ってくる嫌いになれない又従姉。

 かたや、自分が出会った運命の嫁。


 そんな二人が自分を巡ってバチバチ火花を散らすのが勘弁して欲しかったが彼の想いは往々にして彼を愛する女達からは無視されるのであった。


 これに関してはそういう厄介な女に好かれるトラブル体質を受け継いだ龍海の本院にはどうにもできない業であった。


 このトラブル体質が彼の子孫にも代々受け継がれて行くのも龍海にはどうしようもない事であった。


 恋の火花が散る船上に水面から迫る黒い影達、それは魚影ではなくヴィランの影。

 黒ずくめのヴィラン達が音も立てずに豪華客船に近づく。


 そしてドカンと爆発音を上げて船首が斜めに立ち上がった!

 

 阿鼻叫喚! 豪華客船の船首が包丁のように海面を叩く!

 

 打って変わっての大惨事だが船の乗員は全員ニュータント、百華龍の面々は小舟ほどの大きさの龍へと変じて龍に変じられない者達を救い難を逃れる。

 「……何処のどいつだゴラ~~~ッ! 人の誕生日ぶち壊すとは許せねえっ!」

 偶然浮いて残っていた船上ステージの上に仁王立ちをして怒りの咆哮を上げたのは蘭華だった。 

 先ほどまでのあざとく可愛い状態からブチギレ極道モードに変じた蘭華。


 怒れる蘭華を空から狙うのは黒ずくめに二丁拳銃のヴィラン。

 「姉さん、危ない!」

 蘭華を狙ったヴィランの凶弾は、彼女を庇った龍海の背中が弾いた。

 的確に標的の急所を狙った銃撃は、同じく急所を守る龍海の皮膚の鱗が防いだが

その衝撃は龍海の意識を失わせた。

 「お、弟君っ! アイリーンちゃん、お願い!」

 自分を庇った龍海をアイリーンへと投げ渡す蘭華と受け取るアイリーン。

 「……よくも、強くて優しくて格好良くてお姉ちゃんラブな弟君をやってくれたなゴラァっ!」

 いつの間にか手にしていた大刀に口から火を吹き付けて、炎をエンチャントした蘭華が黒ずくめのヴィランへと跳躍し一刀のもとに斬り捨てた。

 だが黒ずくめのヴィランはまだ二十人はおりある者は百華龍の面々と交戦しまたある者は蘭華へと襲い掛かる。

 「黒ずくめのヴィラン? 手前らブラックカルマだな、上等だぶっ殺してやる!」

 龍海が意識を失ってるなら女の子らしくする必要はなしと修羅となる蘭華。

 

 刃も石突も炎が燃える大刀を振り回し、ヴィラン達を斬って行く。

 だが斬られたヴィラン達も異形の怪人へと変化して蘭華の命を狙う。

 「人の誕生日潰した上に身内を弾いた以上、こっちにヒーローらしくお上品に対応してもらえると思うなよヴィラン共っ!」

 

 怒りを爆発させた蘭華達、百華龍はお返しとばかりに暴れまわりブラックカルマのヴィラン達を魚の餌へと変えて地上へと凱旋した。


 龍海が百華龍の系列の病室で目を覚ました時には事は解決していた。

 「痛てて、ここはどこだ?」

 自分がいる場所は室内を見回して病室だと悟る龍海。

 

 「龍海さん!」

 「弟君!」

 病室のドアを派手に開けて入って来たのはアイリーンと蘭華だった。

 「ごめん、非武装とはいえあれで気を失うとは不甲斐なかった」

 一緒に戦えなかった事を二人に謝る龍海。

 「何を言ってるんですか! 龍海さんは悪くありません!」

 「そうだよ! 弟君は私を守ったMVPだよ、ひいお祖父ちゃんも体を張って女を守るとは良い男になったって褒めてたよ♪」

 見当違いの謝罪をした龍海に怒る二人。

 

 「えっと、ごめんなさい」

 二人に謝る龍海。

 「お義父様達も褒めてましたよ、敵を倒すよりまずは家族を守りに行った判断は素晴らしいって♪」

 アイリーンも龍海の事を褒める。

 「お、おおう? 何か照れるぜ」

 ベッドの上で照れる龍海。


 「龍海さん、ガンガン美味しい薬膳を食べて回復させましょうね♪」

 「そうそう、急いで元気になって一族総出でブラックカルマにお返しだよ♪」

 「待って、何で今度はこっちがカチコム流れになってるの?」

 蘭華の言葉に驚く龍海、ヒーローがヴィランに襲撃されるのは普通でその時迎え撃てば良いというのが龍海のヒーローとしてのスタンスだった。

 

 「龍海さん、普段は私達も自衛や防衛の戦いがメインですが今回は違います」

 「そうだよ! 日本のヒーローなら敵襲の後は次に敵が来るまで動かない事が多いけれど私達は喧嘩を売ってきた敵には容赦しないのが百華龍のお約束だぞ♪」

 アイリーンが語りだし、蘭華が可愛い声で物騒な事を言う。


 日本以外の東アジア圏のヒーローは日本より荒っぽいスタイルだった。


 これはかつて東アジア一帯が吸血夜会などの凶悪なヴィランの脅威に

晒されていた時代から敵の悪事から人々や国を守るにはヒーローも敵に容赦しては

いられないという事情から生まれたスタンスである。

 

 それに加えて百華龍は、その前身となった組織が任侠的な武闘派秘密結社であった事から身内を痛めつけられたら報復しやられたらやり返して落とし前を付ける事に躊躇いのない組織である。


 

 龍海達の所属するヘルグリム帝国も同様に、身内を大事にし痛めつけられたら報復を躊躇わない気風の組織と百華龍と気が合う組織だった。


 そんな組織同士が親戚になり繋がりを持った上に互いの身内が共通の敵に襲われたとなったら連携しての報復は必至である。


 ブラックカルマは文字通り龍の逆鱗に触れてしまったのだ。

 

 そして、そんなタイミングの悪い時期にブラックカルマにちょっかいを出そうとしていた財団Uも百華龍とヘルグリム帝国の報復のとばっちりを受ける事となる。


 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

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