第62話 猫を引き取る

 「その子はヘルグリム帝国で引き取ります」

 「流石です、龍海さん♪」

 「息子達の夫婦漫才は置いておいて、法的な手続きはこちらでしますので日本政府にお手間は取らせません」

 病院の医師と話をする進太郎。


 ヴィラン対策室から連絡を受けた龍海とアイリーンは進太郎に報告した。

 「そうか、家に子供ができた時にとは都合の良いタイミングだな」

 ベビーカーやおむつなどを持参して皇帝一家はとある病院を訪れていた。

 病院のベビーベッドに寝ていた小さな赤ちゃんの正体、それは龍海達が引き渡したヴィランであるコピーキャットのニュートラルウィルスが消えた状態の姿であった。

 

 「ニュータントのニュートラルウィルスを無効化してから尋問するはずが赤ん坊になるとは、敵のとんだ口封じだな」

 「例のロボットの残骸もログの回収をしようとしたら最後に自爆したそうですね」

 龍海とアイリーンが呟く。

 「とことんこちらに情報を渡さんつもりらしいが、それよりもこの子だ」

 慣れた手つきでコピーキャットであった赤ん坊に哺乳瓶のミルクを飲ませる進太郎

とそれを見て学ぶ龍海。

 

 「流石父さん、手慣れてるよな」

 「お義父様、素敵です♪」

 「これでも保育士免許持ちだからな、学生時代に学んだことが役に立ってる」

 アイリーンに赤ちゃんを渡すと、進太郎は赤ちゃんを引き取る手続きへと向かった。

 「おっと、よ~し、よ~し♪」

 アイリーンが優しくあやすが、敵であった事を覚えているのかどうか?

 抱かれてしばらくして泣き出す、元コピーキャット。

 「ああ、これはミルクでしょうかおむつでしょうか?」

 戸惑うアイリーン。

 「取り敢えずベッドに寝かせて、おむつの可能性がある」

 龍海はそう言って、彼女に赤ちゃんをベッドに置いてもらう。

 幼い弟の世話をした記憶を頼りに赤ちゃんのおむつ替えを試みる。

 「龍海さんもおむつ替えるの上手です、いつでも満点パパになれますね♪」

 アイリーンが感心する中、龍海が変えたおむつの始末を終える。

 「今度一緒に、知り合いの病院の両親学級で勉強しよう」

 「はい、喜んでご一緒します♪」

 アイリーンが頬を染めて同意する。


 その後、戻って来た進太郎を含めて四人は病院を後にした。

 「俺も昔、アイリーンを家に連れて帰って来たがたっくんも同じ道を辿るか」

 進太郎が息子が自分と似たような事をしたのでしみじみとつぶやく。


 「まあ、俺とアイリーンが倒した事だし成り行きだよ」

 と、龍海が返す。

 「という事は、この子も帝国の未来のプリンセスになるかも知れませんね♪」

 アイリーンが微笑む。

 「いや、アイリーンは気が早いからな!」

 龍海がアイリーンにツッコむ、そんな息子夫婦の様子を見た進太郎。

 「俺もたっくんと同じ年にはそう思っていたが、父親としては二人とももう少し青春と言うのを楽しんでからでも良いが備えてはおきなさい」

 自分の経験則からか、近年中に孫ができる予感がした進太郎が話を締める。


 かくして、人造ヴィランのコピーキャットはヘルグリム帝国に引き取られた。

 

 新たにメアリと言う名を与えられた彼女は、この魔界の皇帝一家の養女として生活の基盤を手に入れた。

 「よし、この子はお淑やかな花も恥じらうお姫様に育てるぞ!」

 彼女を健やかにお淑やかなレディへの道を歩ませようと進太郎は目論んだ。

 「父さん、そのフラグは絶対に破滅する気がするんだけど大丈夫?」

 異母姉妹や自分の妹を思い出して、父親の宣言に疑問符を抱いた龍海。

 「大丈夫だ、問題ない♪」

 そんな息子の顔を気にせず、自信に満ちた表情で答える進太郎。

 

 だが、龍海の疑問は的中する事となった。

 数年後、物心がつき始めたメアリは進太郎の思惑から外れ養母達の薫陶を受けて立派なお転婆姫への道を歩む事となる。


 ・情操教育で花を育てさせれば、食べられる物を育てたいと畑を耕すようになる

 ・護身術程度に剣術や格闘技を習わせれば熱心に学ぶようになり上達の兆しを見せ年が経つほどに上達して行く

 ・十代に入ると冒険者として魔界の各地へと冒険に出るようになる

  

 と言った成長を経てメアリは龍海とアイリーンの間に生まれた息子と結ばれて暴れん坊皇后として帝国の歴史に記される女傑となるのは後のお話である。


 一方、試作兵器を壊されそのパイロットを鹵獲された財団U側はと言えば悔しがる事もなく新たな計画を目論んでいた。

 「ムクロは改良の余地がありますね、次元の狭間でも動けるようなシステムを開発する必要がありますか」

 財団のラボのデスクで、チーフは完成した報告書を読み終えて呟いた。

 「まあ、パイロットの人造ニュータントはいくらでも作れますからあちらが引き取ったなら処分する手間が省けた分コストがかからずに済みました」

 完成したレポートを送信して一息つくチーフ。

 彼の机の上のモニターに映るのは、緑色の液体の入ったシリンダーの中に浮かぶ赤ん坊の姿。


 「さて、次は生み出した人造ニュータントをどう改造して生物兵器として売り出すかの商品開発ですね今度はヒーロー側の持つニュートラルの無効化薬に対する耐性を持たせる方向で考えて見ましょう」

 実験が終われば次の実験へ、趣味に狂った男の新たな計画が動き出す。

 チーフと財団Uの歩みはまだ止まらない。

 

 

 

 

 

 

 


 


 

 

 

 

 

 

 

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