第59話 猫を操縦席に押し込んで

 財団Uの秘密基地、グレイのバトルスーツを身に纏ったコピーキャットは狭く密閉されたコックピットの中にいた。

 背中はシートにプラグで接続されバイザーは複数のコードが繋がっている。

 両腕はスティック状のレバーを握っていた。

 「人型N兵器、ムクロのシミュレートを開始します」

 コピーキャットの声と同時にバイザーの外面に光が走る。

 

 「ふっふっふ、ゲームは良い物です子供にはたくさん遊ばせないと♪」

 オールバックに白衣の中年男、チーフが別室でモニタリングしながら微笑む。

 複数のモニターが人型ロボットの組み立ての作業、コピーキャットのバイタルの確認にコピーキャット自身の様子を管理していた。


 「猫をかん袋ならぬ操縦席に押し込んでですね♪」

 面白い事を言っている気になっているチーフ。

 彼は人型ロボット兵器による破壊活動の準備を楽しんでいた。

 コピーキャットに対しては口では可愛い娘と言っているが実際はゲームの駒

程度の愛着しかない。


 ニュータントは兵器のパーツや燃料、N兵器と言う玩具を動かして遊びたい

と言う趣味に狂った男がチーフと言う人間だった。

 

 その狂った男のリアル育成ゲームのキャラクターであるコピーキャット。

 彼女は造物主であるパパの為にと一途に訓練に励んでいた。

 「シミュレーターだけど私にとっては実戦、私が好成績ならパパが喜ぶ」

 好きな人に喜んでもらいたい、バイザーでVRゲームのように実機に乗った感覚

の中でスティックを操作し人型ロボット兵器を操るコピーキャット。

 

 機体デザインは灰色、旧ドイツのパンター戦車を二足歩行の人型にしたような四角ばったボディで足にはキャタピラ。

 武装は肩に主砲のプラズマ砲、腰に白兵武器のスコップ。

 両手にはスイッチを押せば刃が飛ばせる電磁ダガーナイフ。

 頭部の猫耳のようなパーツはバルカン砲と、他は真面目なみりたちー感のある物に対してこれだけはチーフの趣味だった。


 ヒーローを模した仮想敵に対して、接近戦ではナイフで突く切るで攻めに行き近づく者にはバルカン砲で制圧。

 遠距離にはプラズマ砲とバランスの取れた戦い方をしていくコピーキャット。

 オンラインゲームのチャットのようにウィンドウが現れチーフの指示が表示される。

 

 「了解、ニュートラルフィールド展開」

 発言と同時にスティックのスイッチを押すコピーキャット。

 すると彼女の機体を青い色の力場が包み込んだ、ヒーロー達の光線や電撃と言ってエネルギーの攻撃のみならず銃弾やパンチなどの質量的な攻撃が力場に阻まれた。

 そして、再び茶と画面にチーフの指示が書き込まれる。

 「ニュートラルフィールド、ブレードモード」

 コピーキャットが操作を行うと、機体を包んでいた力場が変形し巨大な光の刃へと形を変える。

 力場が変形した刃を横凪ぎに振ると、彼女の機体を囲んでいた敵が一斉に爆散した。

 

 「状況終了」

 ミッションクリアの表示と共に、シミュレーターが止まった。

 その様子を眺めていたチーフが拍手をする。

 「素晴らしい、完全クリアだ♪ さあ、彼女をクールダウンさせなさい」

 チーフが支持すると配下のスタッフがコンソロールを操作してコピーキャット

とシミュレーターの接続を解除するコマンドを打ち込む。

 バイザーのコードから頭部を開放されるコピーキャットは解放感と疲労感からぐったりとうなだれた。

 

 シートと背中は繋がったまま彼女は後ろに倒れるとシミュレーターのハッチが開き

やって来たスタッフによってシートごとマシンの外へと運び出される。

 「さて、中身は仕上がってきましたね後は実戦でぶつけるだけです♪」

 医務室へ運ばれていくコピーキャットには目をくれず、チーフは組み立てられているロボット兵器を楽しそうに眺めていた。


 シミュレーターマシンのシートをストレッチャー代わりにされて運ばれるコピーキャット、彼女は自分を医務室へと運ぶスタッフにたずねる。

 「ねえ? パパは喜んでくれた?」

 事務的に喜んだとスタッフが答えるのを素直に信じたコピーキャットはシートの上で眠りに付いた。

 

 自動ドアが開き、医務室へと運ばれたコピーキャットは室内から生えて来たマニピュレーターでシートのプラグから解放され持ち上げられる。

 疲労とバイザーから投与された睡眠薬で完全に眠ってしまった彼女は目を覚まさないままバトルスーツを脱がされて巨大なシリンダーへと入れられる。


 シリンダーに入れられるとバイザーが外され、代わりにシリンダーの底と繋がったマスクが彼女の口に付けられシリンダーの蓋が閉じる。


 蓋が閉じると彼女が入ったシリンダーの中に緑色の液体が注ぎ込まれる。

 あっという間にコピーキャットは液体漬けになった。

 

 ボコボコと泡立つ液体の正体は、コピーキャットの素材と同じ液体化されたニュータントの人々であった。

 液体化されたニュータント達はシリンダーの中でコピーキャットの栄養として吸収される。

 

 そんな常人が正体を知れば発狂しそうな液体の中で眠るコピーキャット。

 彼女は戦いの時に備えてどのような楽しい夢を見ているのか?

 微笑んだ様子で安らかに眠っていた。

 

 



 

 

 

 

 

 

 

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