第55話 コピーキャットは密かに作られる

 ・これまでのおさらい

 ニュートラルと言う有機物や無機物などを問わず宿主に異能の力を授ける謎のウィルスで生まれた超人ニュータントがヒーローとヴィランに別れて戦う世界。

 魔界にあるヘルグリム帝国の皇子、龍海・赤星・ヘルグリムはニュータントであり地球と魔界で二重生活を送るドラゴンブリードと言う変身ヒーローである。

 彼の父もまたデーモンブリードと言うヒーローで、周囲の協力を得ながら父の跡を継ぐ二世ヒーローとしてデビューし悪との戦いを始めた。

 戦いの中、仲間との出会いやパワーアップを経て運命の伴侶となるアイリーンと出会い結ばれる。

 公私ともにパートナーを得た龍海は父の跡を継ぎ、人間界と魔界と言う二つの故郷の平和を守る為に戦うという進路を目指す。

 アイリーンと共に新たな力を得た龍海の行く手に新たな敵、財団Uが暗雲となって立ち込めて来た。


 財団Uが所持する秘密の工場、緑色の液体で満たされたいくつものシリンダー槽の中には様々な人間が漬けられていた。

 世界各地で素材として捕らえられて購入されて集めらえた無辜の人々。

 それらのシリンダーはチューブで繋がれ、そのチューブは人間一人が入るほどの箱型の機械に繋がれていた。

 その光景を眼下に見下ろす白衣の男チーフ、これから起こる出来事を楽しむように彼は笑っていた。

 「さあ、実験を始めましょう♪ 集めて来た材料から全てを抽出して注ぎ込めば

 素晴らしい人造ニュータントが完成するはずです♪」

 財団Uが目を付けたのはアイリーン、公開されていた彼女の素性からかつて自分達が投資していた組織の実験体だと知ったチーフは悪魔の実験を計画した。

  

 チーフの言葉に反応し、シリンダー内の人々の体が溶けて行き液体が緑からオレンジ色に変色し吸い上げられてシリンダーが空になる。

 吸い上げられた液体は箱型の機械へと流れて行き箱が回転を始める。

 回転が止まり、箱がガスを噴き出しながら開かれる。

 箱の中には十代後半に見える銀髪の少女が一糸まとわぬ姿で眠っていた。

 「完成ですね、これから色々あの子の性能をテストしましょう♪ あの子の名前はコピーキャットとでも名付けますか」

 チーフは眠る少女をコピーキャットと命名しながら気味の悪い笑顔を浮かべた。

 悪の博士の異常な愛情で生まれた人造ニュータントのコピーキャット。

 彼女を軸に、財団Uの新たな企みが動き出す。

 「あの子の使うN兵器も開発しますか、育成ゲームの始まりです♪」

 歪んだ父性を発露するチーフ、リアルを舞台に悪の育成ゲームが始まる。


 「結局、誰がモンスターを召喚したのか謎だよな」

 学校の教室で龍海が呟く、ヒーロー科の生徒達もモンスター退治で疲労がたまっていた。

 「魔法なのか科学なのか、どちらで召喚されたのかもわかりませんしね?」

 アイリーンが相槌を打つ、財団Uが起こしたモンスター召喚をヘルグリム帝国は

 特定できていなかった。

 「あれからパッタリ出て来なくなったのも気味が悪いぜ」

 後手に回る状況に龍海は不安を感じていた。

 「対処療法でやって行くしかないですね」

 アイリーンもため息をつく。

 自分達にぶつけられる敵が準備されている事に彼らはまだ気づいていなかった。


 「アイリーンさん? 何をされてるんでしょうか?」

 次の休日、龍海は下半身が大きな蜘蛛状になったアラクネアイリーンの背中におぶられる形で糸で括りつけられていた。

 アイリーンは口から出した自分の糸と市販の色付きの糸を蜘蛛の脚を器用に動かして織物をしている。

 「この姿、織物をするのに便利だったもので♪」

 顔も四つ目の複眼となり口から牙を生やして糸を垂らした状態で笑うアイリーン。

 「いや、そこは人間の姿でいいんじゃない? 編み物してる君を見たいけどさ!」

 龍海が想像するシチュエーションは、学校の教室で互いに向き合ってセーターとかマフラーを編む彼女を眺めるという物だった。

 だが現実は、鶴の恩返しならぬ蜘蛛の機織りを背後から眺めていた。

 「それは秋頃で、今は夏に浴衣でペアルックをするの為の反物作りにお付き合いください」

 シャ~っと口から糸を吐き、蜘蛛脚を重機のアームの如く動かして機織りマシンになるアイリーンのDIY精神に龍海は唖然としていた。

 「……うん、何と言うか俺はツッコミをあきらめたよ」

 龍海は現実を受け入れた。

 「糸を出してみたらメイママに喜んでいただけました、型紙作りや縫製は彼女にお任せします♪」

 アイリーンの言葉に人魚の異母が裁縫が得意でコスプレ衣装などを自作していたのを龍海は思い出した。

 

 「夏はコミケもあるんだよな、しかし俺を背負う必要は?」

 自分がおんぶひもで背負われてるような状態なのを疑問視する龍海。

 「作業をしていても私が龍海さんを背中に感じていたいのと、将来子供を背負いながら家事をする時に備えての練習も兼ねています」

 「いや、身動き取れないのが困るんですけどトイレとか!」

 「仕方ないですね、今日はこの位にしておきましょう」

 そういってアイリーンが人間の姿に戻るも龍海は腰回りだけ糸で縛られていた。

 「糸は伸びますから気にせずお手洗いに行って下さいね♪」

 身に着けた力の応用力はアイリーンの方が上であった。

 トイレへ駆け込む龍海はこの蜘蛛糸が後に自分を救うことを知らない。

 

 数年後、アイリーンによる蜘蛛糸子育て術が編み出されるがその育児法の実験体となってしまった二人の間に生まれた息子が大の蜘蛛嫌いになるのは後のお話である。

 敵が裏で動く中、龍海とアイリーンの夫婦ヒーローは未来への下地を順調に積み立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

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