第54話 財団Uの野望

 「N兵器の動力用に手配した、異世界生物の卵の入手に失敗だと!」

 「申し訳ございません、ヘルグリム帝国の妨害に逢いまして」

 どこにあるのかわからない暗めでテーブルが一つしかない会議室。

 黒髪をオールバックに整えた小太りな白衣の中年男が、虚空に浮かぶ黒いデジタルスクリーンと会話している。

 中年男のコードネームはチーフと言う。

 「馬鹿な、へルグリム帝国とは縁のない所を選んだのではなかったのか?」

 「はい、どうやらヘルグリム帝国は我々が知るよりも広い範囲で異世界での影響力を持っているようです」

 会議室でデジタルスクリーンとチーフの問答が続く。

 ヘルグリム帝国が友好国を増やしている事を知らず、ヘルグリム帝国が広大な勢力であると誤解しているチーフ。

 チーフと黒いデジタルスクリーンの向こうの人物。

 彼らは一体何者か? ぶっちゃけて言えばヴィラン、悪の組織である。

 その名は財団Uざいだんゆー、複数の隠れ蓑を用意して様々なヴィランと

交流し資金の提供や取引を行う悪のネットワークだ。

 目下の彼らの狙いは魔界の技術や人材やアイテム、異世界のニュートラルの力を利用したN兵器の研究開発と運用だ。

 地球で活動すればヒーロー達や自分達から利益を奪おうとするヴィランに狙われる

と言うリスクを避けるべく魔術など科学以外の技術やはぐれ悪魔を取り入れて異世界である魔界に触手を伸ばして来たのだ。

 「今後はヘルグリム帝国の動向に、より一層警戒しつつ活動を行って行きます」

 白衣の男が締めくくると同時に、デジタルスクリーンは消えた。

 かくして新たな敵、財団Uが動き出しヘルグリム帝国やヒーロー達と魔界と人間界の平和を賭けた戦いの幕が開いた。

 「仕方ない、電池代わりにニュートラルに感染した人間を人身売買組織から購入するか? ブラックカルマを警護に雇おう、研究が進まないのはストレスだ」

 ぼやきながら二の矢をつがえようとするチーフ、研究の為なら人倫なぞ無視するド畜生であった。

 「ヒーローらしからぬ組織活動で人海戦術や社会戦ができるヘルグリム帝国に嗅ぎまわれると面倒ですね、しばらくの間日本のあちこちにランダムでモンスターを召喚して時間を稼ぎますか」

 ヒーローなら世間の陰に隠れて暗闘してほしい物ですとぼやきつつ、チーフは会議室を出て何処かへと向かった。  

 そんなチーフが所属する財団Uとのエンカウントに向けてヘルグリム帝国も徐々に動きだしていた。

 

 「何で、日本にトロールが出るんだよ!」

 禿頭に尖った耳、口から炎の息を吐く赤色の巨漢の怪物レッドトロールを相手にドラゴンブリードは格闘していた。

 相手が棍棒を振り回しながら息を吐くたびに口からボッボッ! と小さい火の玉がまき散らされ山の山林が燃える。

 敵が好き勝手に振り回してくる棍棒を鑚拳さんけんで拳を突き上げ弾く。

 「まさかメキシコでルチャの練習の合間にお祖父ちゃんから習った五行拳が

役に立つとは」

 メキシコに行った時に影が薄かった母方の祖父に数年ぶりに教えを乞うたら祖父から泣いて喜ばれて教えてもらった五行拳。

 本来の用法とは違うが、敵の攻撃にタイミングを合わせて技を出す事で相手の攻撃を潰せていた。

 自分の攻撃を弾かれるのが気に食わないのか?

 ますます我武者羅に火の玉を吹き出し棍棒を振り回して暴れ出すレッドトロール。

 それに対してドラゴンブリードも、相手の攻撃を避けつつ冷気の弾丸を射出して消火しながらそろそろ仕留めようかと隙を伺いつつ間合いを取る。

 

 レッドトロールは、間合いを取ったのを逃げたと思ったのかゲラゲラと笑いながら挑発的にドラゴンブリードに対して己の腹を突き出した。

 その挑発はドラゴンブリードに対してはチャンスだった。

 膝を曲げて腰を落として、力を伝えながら爆発的に踏み込み縦向きの拳を腹に打ち込む。

 レッドトロールは突然の反撃に対応できず腹でドラゴンブリードの崩拳ほうけんを受ける。

 その一撃は、レッドトロールの腹と余裕を命ごとぶち抜き爆発させた。

 巻き込まれた爆炎の中から無傷で現れるドラゴンブリード。

 「ふう、何とか一発で仕留めたぜ相手が馬鹿で良かった」

 マスクから冷気のブレスを放出し周囲を消火する。

 「何か、魔界のモンスターが地球に来る割合が増えて来たな? あちこちで戦ってる他のヒーローから文句言われてるしもう面倒くせえ!」

 ドラゴンブリードはモンスター出現の知らせを受け地元の山に出たレッドトロールの討伐に来ていた。

 ホワイトデーを過ぎてから、日本のあちこちで魔界のモンスターが突如現れて暴れ出す事件が頻発してきたのである。

 そして、それら魔界の事に関する文句はヘルグリム帝国に来ていた。

 この事件の裏に何者かがいるのではと言う推測は立てられた。

 かつて、はぐれ悪魔により似たような事件が起きていたから出た推測だ。

 だが事件の裏にいるかもしれない黒幕の調査よりも頻発するモンスター退治の依頼でヘルグリム帝国の業務は手一杯だった。

 アウトソージングで、他の地域のヒーローに仕事を回すなど事務と実務に忙殺

されたヘルグリム帝国は疲労がたまっていた。

 「何はともあれエンプレスブリードの所へ行くか、嫁は守るのが夫の使命だ!」

 伴侶であるエンプレスブリードは別の山で巨大な毒蜘蛛の討伐に行っていた。

 彼女の強さは信じてはいるが、強いから守らなくて良いというわけではない。

 有事に傍にいられず手を伸ばせない事を悔やむより、相手と共に窮地を乗り越える道を模索したい。

 「色々言葉が頭に浮かぶがシンプルに行こう、あいつが好きだ!」

 ただ己の気持ちに従いドラゴンブリードは大地を蹴り、空へと駆け上がる。

 目指すは愛する伴侶、己の比翼の片割れの下へ!

 

 エンプレスブリードも山の中で巨大な蜘蛛の怪物と交戦していた。

 前足で木々を薙ぎ倒し口から糸を吐いて暴れる蜘蛛の怪物。

 長さが四メートルとミニショベルのアームほどの足が八本と

重機と喧嘩をしている状態になっていた。

 「マミーバインド!」

 両掌から白い包帯を出して敵を拘束しようとするエンプレスブリード。

 だが、敵は地面が沈むほどの勢いでジャンプして回避。

 逆に口からの糸玉を吐いてエンプレスブリードを攻撃する。

 迫りくる糸玉を包帯を伸ばしてキャッチし投げ返すエンプレスブリード。

 投げ返された糸玉を蜘蛛が呑み込みと、戦況は膠着し山は荒れて来た。

 「器用な敵ですね、早く帰って龍海さんといちゃいちゃしたいのに!」

 エンプレスブリードも己の伴侶の事を想いつつ戦っていた。

 一人でも戦う事はできる、だがは嫌だと心が叫ぶ!

 心の中に龍海はいる、だが心の外にも彼が欲しい。

 鎧の手足鎧のを狼の爪状に変形させてエンプレスブリードが四つん這いになり

短期決戦を仕掛けるべく雄叫びを上げる!

 その叫びは、衝撃波となり蜘蛛の怪物を吹き飛ばしてひっくり返した。

 「今です!」

 蜘蛛の怪物へ飛び掛かったエンプレスブリードは空中で何者かにキャッチされた。

 「た! 龍海さんっ!」

 エンプレスブリードが驚き叫ぶ、何せ自分が一番欲していた存在が自分を捕まえている状態だからだ。

 「うん、俺だよアイリーン♪」

 変身中はヒーローネームで呼ぶお約束を忘れるドラゴンブリード。

 「はい、龍海さん♪ はっ! 今は戦闘中ですよ!」

 バカップルモードになりかけたエンプレスブリードが自分を棚に上げる。

 「わかってる、一緒に倒そう」

 空中でエンプレスブリードを抱きしめながらドラゴンブリードも気を取り直す。

 二人がいちゃついている間に蜘蛛の怪物は体勢を立て直し、飛んで火にいる夏の虫

になる運命も知らずにジャンプして二人へと襲い掛かる。

 「「ドラゴンタッチ!」」

 瞬時に巨大な黄金の龍と化した二人は咢を開き飛び掛かって来た蜘蛛の怪物を

噛み砕いて飲み込み喰らった。

 再び二人に分離して地上に降り変身を解く。

 「お疲れさま、無事で良かった♪」

 アイリーンを抱きしめる龍海。

 「はい、龍海さん♪」

 アイリーンも抱き返しバカップルモードに入る二人。

 「ところで龍海さんは何故こちらに♪」

 アイリーンが龍海の内心に何となく気づいていながらも聞いてくる。

 「お前が好きだからだ♪」

 素直に答える龍海に赤面するアイリーン。

 「……うう、やっぱり龍海さんはズルいです! 押し倒しの刑です!」

 自分が負けた事を悔しがりつつごまかすアイリーン。

 「ああ、受け入れるよ♪」

 アイリーンは可愛いなと思う龍海、だが後悔先に立たずという事になる。

 いきなり自分が持ち上げられる龍海、アイリーンの顔を見ると青い瞳が四つの

複眼になっていた。

 「さっき食べた蜘蛛の因子、取り込んじゃいました♪」

 「いや、お家に帰ってから普通に愛し合わないか?」

 「龍海さんの方から来てくれたんですよ、逃がしませんから♪」

 下半身は蜘蛛のモンスターのアラクネアイリーンとなった彼女に足で器用に服を剥かれて龍海はおいしくいただかれる事となった。

 こうして二人は、敵が何を考えていようが自分達の気持ちに従いつつ財団Uと対決して行く事となった。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

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