第53話 遅れてのホワイトデー
「白衣の連中は何者だったんだろう?」
前回、有翼人の卵を奪還した龍海が気になっているのは取り逃がした白衣の男達の事だった。
エッグイーターと言ったはぐれ悪魔と取引している時点でヴィラン側なのは間違いないが龍海達は奪還を優先した為そちらの調査は手を付けていなかった。
戦士の休息とばかりに、ソフトシェルジャケットにストレッチパンツと私服で地元の浜辺の堤防の上でくつろぐ龍海。
その隣にいるのは彼の伴侶であるピンク髪の美少女のアイリーン。
「デート中にお仕事の事を考えるのは禁止です!」
緑のジャージにスパッツにスニーカーとボーイッシュなコーデで龍海の腕の関節を極めながら寄り添う。
「タップ! タップ! 極まってる、極まってる!」
「極めてるんです! これは刑罰です、いちゃらぶ中にパートナーの事を忘れてはいけないと帝国法にもあります!」
「その法律、俺が皇帝になったら絶対に廃止するからな!」
「皇帝の悪政を力技で止めるのは皇后の義務です♪」
「待って、両腕を使っていちゃらぶするから技を解こうね!」
頬を可愛く膨らませてロックを強めるアイリーン。
「ぎゃあ! 全身を使っていちゃらぶするから~っ!」
強めはしないが龍海の腕の拘束をゆるめないアイリーン。
「ごめんなさい、ホワイトデーのデートに今から行きましょう!」
龍海が観念する、有翼人の一件でホワイトデーが過ぎてしまいデートの約束をうやむやにしていた龍海が悪いのだった。
「はい、刑の執行は終了です♪」
アームロックを解いて龍海の腰に腕を回して抱き着くアイリーン。
龍海もアイリーンを抱きしめて互いを見つめ合い口づけを交わす二人。
まごう事なき愛し合うバカップルであった。
「キスとハグだけではまだまだ足りませんからね♪ ごまかしは通じませんよ♪」
「と、とりあえず地元のカフェで何か食べようか?」
龍海はアイリーンからは逃げられなかった。
そして二人はニュータントの身体能力を無駄使いして原付並みの速度で走って行き島のショッピングモールにあるカフェへと移動する。
田舎の島に似合わぬイタリア風の海岸が見えるテラス席に座る二人。
「オレンジパフェとピーチエナジードリンクを、カップルセットで」
龍海が普段なら絶対に頼まないメニューを注文する。
龍海は知る由もなかった。
この店はその昔、彼の父である進太郎もデートに使っていた店だという事を。
親子二代が世代を超えて同じ店でデートをする状況になっていた。
「カップルセットですか、流石は龍海さんです♪」
アイリーンが笑顔で喜ぶ、どうやら合格点らしい。
「約束は守るよ、俺の可愛いピンクモンスター♪」
「ううっ! また龍海さんはこういう時だけ私を喜ばせるんですか!」
照れて赤面しながらむくれるアイリーン。
「ここぞという時に攻めるのが俺なので♪」
ささやかながらアームロックのお返しをする龍海。
「これは、今夜は寝かせませんからね徹底的に絞らせていただきます♪」
反撃を決意するアイリーン。
そんな中、注文したメニューが届く。
パフェは生クリームの上に伊予柑などの数種類のオレンジが敷き詰められて天辺にピンクのハートの飴細工がトッピング。
ピーチエナジードリンクはピンク色の炭酸飲料をハート型のストローで二人で飲むと言いうバカップル発見器な形状をして運ばれてきた。
「うふふ♪ さあ、いただきましょうか♪」
「……お、おう!」
笑顔のアイリーンと自分で頼んでおいて後悔している龍海。
互いに見つめ合いながらストローでドリンクを飲みだす。
白いストローの中をエナジードリンクが駆け巡りピンクのハートを描くと同時に
龍海はアイリーンの愛らしい表情にときめき、顔を赤くして彼女から目をそらした。
そんな二人の様子を周囲の客達は微笑ましく眺めていた。
「ふふふ♪ 自爆しましたね龍海さん♪ まだドリンクは残っていますしパフェもありますよ♪ さあ、ここからは私のターンです♪」
獲物を追い詰める肉食獣となったアイリーン。
「くっ、まだだ! まだ俺は負けてない!」
「良いんですか? 私にはまだカップルセットのお替わりと言う切り札があるんですよ♪」
一気に劣勢に陥る龍海、デートのペースはアイリーンに握られていた。
これはただのデートではない、デートをしつつ心理戦での駆け引きを鍛えるトレーニングだと龍海は自分の心に言い聞かせていた。
「ああ、受けて立つさ♪ 俺は負けない!」
負けフラグを自分から立てた龍海は、パフェの食べさせ合いに挑む。
「はい、あ~ん♪」
「あ~ん♪」
「美味しいですね、龍海さん♪」
まずはジャブの打ち合いと互いにパフェを食べさせ合う二人。
だがここでアイリーンはピンク色に染まった頬に両手を添えて愛らしく微笑む♪
アイリーンは美少女である、美少女が愛らしい仕草で微笑めば胸をときめかせない男子はいない!
そして父と同じく笑顔フェチな龍海にとって、アイリーンの笑顔はフィニッシュブローだった。
火が付くように一瞬で赤面し放心する龍海、これは完全にKO負けだった。
龍海に起きた事態を察したアイリーンも同じく赤面し、お互いにしばし動けなくなった。
放心状態から回復した二人は改めてパフェを食べさせ合い飲み物を二人で飲み干した。
お互いに顔を赤く染めながら腕を組んで店を出る二人。
「ま、満足していただけたでしょうか?」
感想を求める龍海。
「よ、良かったですが! 良かったからこそ、更なるいちゃらぶを要求します!」
アイリーンの答えは彼の予想を超えていた。
「ちょ、ちょっと待って! 勘弁してくれ!」
恥ずかしさで参っている龍海、彼の心はグロッキーだった。
「駄目です、私の欲望のリミットを壊したのは龍海さんです! その責任はしっかりと取っていただきますから! もう、今夜は寝かせませんよ!」
ピンクモンスターに覚醒したアイリーンは止まらなかった。
龍海も父と同じく肉食系女子なヒロインに食われる運命からは逃れらなかった。
彼らが平和なひと時を過ごしている中、新たな敵がゆっくりと動き出している事を
このヒーローカップルは知る由もなかったのである。
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