第52話 取れたて卵はいりませんから
「い~や~~っ! そこの男の子、爬虫類っぽくて嫌~っ!」
黄色い髪、黄色い翼に尾羽とインコの有翼人の少女が絶叫した。
「何だよその理由は!」
「あ~、鳥と爬虫類ですしね」
龍の要素がある龍海は、有翼人の衛兵らしき少女に激しく
拒絶されていた。
「無理無理っ! 卵とか食べないで!」
槍をブンブン振り回して龍海達を追い返そうとする衛兵。
「危ね! いや、俺らはゴメリ王からの依頼で来たんですけど!」
「まずいです、話を聞いてくれません!」
衛兵の少女の槍をかわし距離を取る龍海達。
このままでは仕事にならない。
「アイエ~! ハチュウルイ、ナンデ~!」
よほど爬虫類が怖いのか、完全にパニックになっている衛兵の少女。
騒ぎを駆け付けたのか他の衛兵達がやって来た。
「冒険者なんですけど、仕事になりません」
パニックになっていない衛兵達に身分証を掲げて見せる龍海。
「あ~、申し訳ありませんこの子は爬虫類と色々あったもので」
話が通じたようで龍海達は有翼人の国へと入ることができた。
街は賑やかで、人間の背中に尻に羽がある為か羽を出す為の穴が開いた
服装の人々が通りに大小様々な市を出していた。
「ほとんどが、卵ですね」
「ああ、生みたて卵って書いてるのもあるな」
人々が売っている品の大半が卵であったり卵料理の店と言うのが特徴であった。
そんな通りを衛兵に先導されて進んで行く龍海達。
ゴールとして巨大な卵型の建物の中へと通された。
「ようこそおいで下さいました!」
龍海達を出迎えたのは、天使と見まごう白い翼に緑色の髪が陽光を反射して輝く
美しい女性だ。
「ゴメリ王より依頼を受けてまいりました、ヘルグリム帝国の龍海です」
「同じく、アイリーンです」
緑髪の女性に挨拶する二人。
「初めまして、私は代表のスワンと申します! お二人はヘルグリム帝国の皇太子ご夫妻とお伺いしております、ゴメリ王の話ではヘルグリム帝国は自由に人間界と魔界を行き来できるとか? お二人には人間界へ赴いて私の卵を奪還していただきたいのです!」
スワン女史が叫ぶ、何でも賊が押し入り彼女の卵。
と言っても、無精卵ではなく有精卵を奪い去って行ったらしい。
目撃情報から賊の正体は蛇頭の怪人でエッグイーターを名乗るはぐれ悪魔。
「で、その卵はどのような物でしょうか? お子さんの命が危ない!」
龍海が尋ねる、有精であれば子供が孵化するなどの状況が想定できる上に生まれたら生まれたで相手に何をされるかわからない。
「はいこちらの写真をどうぞ! 何卒、我が子をお救い下さい!」
スワン女史から渡された写真には、ピンク色のハートマークが描かれたラグビーボールサイズの卵が写っていた。
「龍海さん、急いで戻りましょう! ゲートの展開をお願いします!」
アイリーンの叫びに頷き龍海が変身して虚空に穴を開けて、人間界への道を開いた。
二人が人間界へと移動するのをスワン女史は祈るように見つめていた。
東京へと戻って来た龍海達、まず行く所はヒーローのお役所ヴィラン対策室だ。
「詳しくは書類にまとめてあります、警察や地球のヒーローの皆さんにもご協力をお願いいたします」
ヴィラン対策室へ情報提供と報酬付きの協力依頼を出す龍海、ヒーローとして活動するには関係各所への報告と連絡と相談は欠かせなかった。
今回の場合は事情を知らない他のヒーローが卵を破壊したり警察に押収されたり等の不測の事態を防ぐ為である、異なる世界同士の価値観のすり合わせや共通認識の構築と共有は怠れない。
「対策室の様子はどうでした?」
龍海を待っていたアイリーンが尋ねる。
「また魔界がらみのトラブルですか親子二代で? って嫌な顔をされたよ、話は通して情報を流してもらえたしこっちもこっちで動こう」
アイリーンへ応え二人で建物を出る。
「しかし、敵は卵を奪ってどうするつもりでしょうか?」
アイリーンが疑問をつぶやく。
「嫌な話だが、まず自分が食うか食いたい奴に売るだな。 他には何かのエネルギー源とか装置に組み込むとか、自由に動けないニュータントの扱いの酷さは地球も魔界も変わらないよ」
苦い顔をして龍海が語る、かつて吸血夜会が一般人だけでなく同じニュータントを輸血パックやペットボトルのソフトドリンク感覚で血を吸い殺してきた話を聞いて育ったので嫌な予感しかしない。
「以前聞いたN兵器にされる可能性もあるんでしょうか?」
近くのカフェに入りネット検索をしながらアイリーンが聞いてくる。
「大いにあるよ、どうにかして無傷で取り戻さないと孵化したら孵化したで子供の命が危ない闇オークションとかも調べないと駄目かな?」
龍海もネットで出した依頼の問い合わせをしつつ調べる。
「ホワイトデーも近いですし、気分良く迎えたいですね♪」
「お返しはデートしながら見繕う方向の予定なので仕事優先で行こう」
さりげなくいちゃらぶしてくるアイリーンを可愛いと胸をときめかせつつも
ヒーローの仕事優先と頑張る龍海。
「晴海の倉庫街で蛇の怪人の目撃? これはもしや!」
アイリーンが怪しげな投稿情報を見つける。
「誰が流した情報かわからないが行こう!」
即決、罠ならぶち壊せば良いとカフェの支払いを済ませて二人は晴海へと向かった。
ドラゴンブリードエンプレスブリードに変身した二人は空を飛び晴海の倉庫街へと向かう、
彼らの真下では蛇の怪人、エッグイーターが奪ったスワン女史の卵を白衣姿の男達と取引をしようとしていた。
「イ~ヒッヒッヒ♪ こいつが礼のブツだ、金を寄こしな」
エッグイーターが白衣姿の男が持つアタッシュケースと卵を交換しようとした時
に卵が空へと舞い上がった!
「げげっ! あいつは、デーモンブリードッ!」
エッグイーターがデーモンアーマーを纏ったドラゴンブリードを見て勘違いの叫びを上げるも、卵はドラゴンブリード達の手に渡っていた。
白衣の男達は取引が失敗したと見るや一目散に逃げだした。
「エンプレスブリード、ゲートを開けたから卵を返しに行って」
エンプレスブリードに卵を渡し、空の上に魔界へのゲートを開けるドラゴンブリード。
「はい、お任せ下さい♪」
エンプレスブリードはゲートへと急いで飛び込んだ。
「ああ! 畜生め! くたばれ~っ!」
エッグイーターが禍々しい黒蛇のエネルギーを生み出してドラゴンブリードを攻撃する。
「そんな物、別次元へ放り込む!」
異次元へのゲートを開けて敵の攻撃を吸い込むドラゴンブリード。
「ち! ならこっちも魔界へ逃げるだけだ!」
エッグイーターも魔界と人間界を行き来できるのか赤い魔法陣を虚空に描いて
飛び込もうとする、だがそれを許すドラゴンブリードではなかった。
「逃がさん! デーモンバインド!」
全身から黒い闇の触手を放出して逃げようとジャンプしたエッグイーターの全身を
絡め取って締め上げるドラゴンブリード。
「ぎゃあっ!」
締め上げられて苦悶の呻きを上げるエッグイーター。
「さて、有翼人の国で裁きを受けて罪を償うか此処で死ぬか選べ?」
エッグイーターに選択を迫るドラゴンブリード。
「……ど、どっぢもごどばぶっ!」
拒否の言葉を述べる前に全身を輪切りにされ、エッグイーターは事切れた。
「断罪終了、しかし逃げた白衣の連中は何者だろうか?」
状況の終了の連絡をドラゴンブリードは関係各所へと行うのだった。
後日、奪還した卵は無事に孵化をしたと可愛らしい赤ちゃんの写真がヘルグリム帝国へスワン女史から感謝の手紙と共に届けられた。
こうして一つの事件が片付き、魔界国連設立計画も一歩ずつその歩みを進めた。
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