第51話 有翼人って鶏肉?

 「バレンタインは大変だったぜ」

 疲労困憊で目に隈ができている龍海。

 「素晴らしいバレンタインでした、私一生忘れません♪」

 それと対照的にアイリーンはキラキラ笑顔が輝いていた、肌の艶も

こころなしか年齢以上に良くなっている。

 「うう、良い笑顔しやがって! だがその笑顔に抗えない!」

 アイリーンの笑顔を机に伏しつつ恨めしそうに眺める龍海。

 可愛い笑顔の女の子が大好きと言う笑顔フェチの龍海にとって幸せな状況なのだが

アイリーンの笑顔を見る代償は龍海自身のHPだった。

 「龍海さんったら♪ あの夜に誓った二世の契りは絶対ですからね♪」

 アイリーンの笑顔は、輝いていた。

 「笑顔が神々しくなってやがる」

 龍海はアイリーンの笑顔に精神的に浄化されかかっていた。


 そんな二人の様子を同級生達は微笑ましく見守っていた。

 「龍海様はアイリーン様に頭が上がらないのですね」

 短期留学生として転校してきたメイプル姫がつぶやく。

 全校集会で彼女の境遇を説明された生徒達は義憤に燃えると同時にメイプル姫の境遇にひどく同情し彼女を暖かく迎え入れた。

 

 悪者に誘拐されかけて逃げて来たお姫様、しかも敵の目的は誘拐婚。

 とどめに故国は戦争中で帰れないと姫本人の戦闘能力はさておき庇護欲を

掻き立てられる境遇には説得力があった。

 日本政府との交渉は進太郎が行ない、行動範囲は島内のみと条件付きでメイプル姫の滞在を認めさせた。

 「もう、魔界のトラブルはこりごりだぜ」

 龍海がフラグにしかならない本音をぼやく。

 「そんな事を言うと、魔界パトロールの出番が来てしまいますよ?」

 アイリーンの言葉にはフラグを確定させる効果でもあるのか?

 後日、新たな魔界のトラブルが羽音を立ててやって魔界パトロールの所に舞い込んで来る事になるのであった。


 一方魔界では、ゴメリ王国とゴブリンの戦争はヘルグリム帝国の加勢により終結した。

 個体自体の戦闘能力は低いが、オス同士でも交わって繁殖し無限かと思われるほど

増殖するゴブリン軍に防戦状態だったドワーフ軍。

 

 ヘルグリム帝国は炎属性の人狼の部隊を投入しゴブリン軍を背後から強襲した。

 その勢いはマグマの津波の如くゴブリン達を炎で飲み込み蹂躙した。

 友軍であるドワーフ軍がドン引きするほどの戦果を上げての勝利である。

 ゴメリ王国の王城において祝勝会と友好条約の調印式が行われた。

 「娘がお世話になった、貴国の助力に感謝を」

 短躯ながら筋骨隆々なメイプルの父ゴメリ王が取手付きの酒樽を持ち上げる。

 「恐れ入りますが、酒豪ですねえ」

 内心ドン引きしながらも笑顔で話す進太郎。

 ゴメリ王はミード、酒が飲めない進太郎にはコップ一杯の蜂蜜。

 ゴメリ王の配慮の仕方が明後日の方向だったが受けて立つ事にした進太郎。

 ヘルグリム帝国からは酒宴のつまみとして、バイコーンの乳で出来黒いたチーズを提供した所大受けした。

 「はっはっは、そちらの先々代には敵わんよ♪ 辺境の勇者の国に」

 「逞しき猛者達の国に」

 「「乾杯!」」

 国家元首同士の乾杯で始まった祝宴は盛況に終わった。

 龍海達が青春を謳歌する中、進太郎も自分の夢である魔界と人間界の架け橋

になる事を進めていた。

 

 魔界から人間界への被害を減らすには、魔界側の意識改革が必要だ。

 人間と友好関係を築ける魔族達を帝国が増やす、帝国が友好国を増やして

友好国が人間界と友好関係を築くように取り持つ。

 そしてゆくゆくは帝国と友好国で国連みたいな国際組織を作る。

 人間界の方も同時進行でヒーローとして活動し、友好関係を築ける魔族もいる

という意識を植えて行く。

 「その為には人間界のヒーロー仲間とも相談しないとな、龍海達の魔界パトロールにも仕事を振らないといかんがブラックにならんようにもしないと」

 間に立つ者を志した時から頭と胃が痛いが、龍海だけでなく進太郎の活動も続く。


 「ゴメリ王国へ行ってって、急だな?」

 「どんなお仕事なんでしょう?」

 龍海とアイリーンの魔界パトロールは、メイプルの帰国に付き添ってゴメリ王国の王城を訪れていた。

 いかにもファンタジーな国のお城と言う赤い絨毯が敷かれた謁見の間で跪いて待機する二人。

 マッチョなドワーフのゴメリ王と、ドレス姿のメイプル姫が現れる。

 「皇太子夫妻よ、楽にしてくれ♪」

 ゴメリ王の言葉に二人が立ち上がる。

 「ようこそ、ゴメリ王国へ♪」

 メイプル姫が歓迎の言葉を述べる。

 「お初にお目にかかります、此度はお招きいただきありがとうございます」

 龍海が挨拶をして、アイリーンがそれに続いて礼をする。

 「ああ~、そんなにかしこまらんで良い! 友人の父親として接してくれ」

 ゴメリ王が態度も楽にしろと言う。

 「いや、流石にそれは」

 「気さくな方ですね」

 たじろぐ龍海達。

 「お二人とも、お友達なのですから畏まらないで下さいませ」

 メイプル姫も楽にするように勧める。

 「まあ良い、娘が世話になった礼を言う」

 ゴメリ王が会釈したので龍海達も頭を下げる。

 

 「で、我々に御用とは?」

 龍海がゴメリ王に尋ねる。

 「何、そなたの異母兄弟のギュンター皇子がどのような男か? ……こら姫よ、娘に気になる男ができれば父親として気に掛けるものであろう?」

 ギュンターの事を尋ねだしたゴメリ王をメイプル姫がポカポカと殴る。

 「その件については、いずれ本人に」

 龍海がお茶を濁す。

 「そうだの。 まああれだ、お主らに礼をしたくてな」

 姫に目配せするゴメリ王、姫も気づいて箱を取り出す。

 「お二人にはこれを差し上げますわ♪」

 メイプル姫が箱を開けると金属のプレートが付いたネックレスが二つ入っていた。

 「これは何でしょう? 何かの身分証でしょうか?」

 アイリーンが箱の中身について姫に尋ねた。

 「はい、これはお二人の我が国での名誉貴族としての証ですわ♪」

 「この国でのお主らの名誉伯爵としての身元証明と、魔界パトロールの活動許可証じゃ冒険者の証も兼ねておる」

 王と姫から説明され、ネックレスを首に掛けられる龍海達。

 「「ありがとうございます」」

 二人で声を合わせて礼を言う。

 「そちらの皇帝から魔界パトロールやヒーローについて聞いて、騎士や冒険者のような者だと理解したので用意させてもらった」

 ゴメリ王の言葉に龍海はヒーローの仕事って、冒険者と被るよなと思った。

 「まあ、概ねそのようなものですね」

 龍海が否定せず答える。


 「そこでお主らに依頼したい、ワシ等と付き合いのある有翼人の国で仕事をしてきてもらえんじゃろうか?」

 ゴメリ王から依頼の打診をされた龍海達。

 「お受けいたします、詳しい内容をお聞かせ下さい」

 「龍海さん、安請け合いして大丈夫ですか?」

 「俺達ならなんとかできるはずだ、頼りにしてるぜマイハニー♪」

 「もう、わかりました♪」

 ゴメリ王達の前で夫婦漫才をする龍海達。

 「二人の世界ですわ、羨ましいですわ」

 「ああ、お主らが仲が良いのはわかった。 詳しくは食事でもしながら話そう」

 ドワーフの王達に呆れられつつ、龍海達の新たなミッションが始まった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 


 


 



 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

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