第50話 バレンタインとゴブリン後編
メイプル姫が大使館にやって来て日は盛り上がった。
「お~、可愛い~♪ 女子会しよ~♪」
ブリギッタがメイプル姫を抱きかかえる。
「プリンセスブリギッタ? 何を!」
驚くメイプル姫。
「写メ撮るよ~、ピ~ス♪」
ブリギッタが姫とツーショット撮影をする。
「お茶会ですわね♪ お好きなお菓子はございます?」
マーレが好みを訪ねる。
「男子達は参加禁止!」
モーグレットが釘を刺す。
「雪花は、寮で能力使用禁止で寮をぬけられないからこっち来れないって~」
ブリギッタがスマホで確認する、アップルジャック女子校則は厳しいようだ。
「アイリーンは、たっちゃん係ですから不参加確定ですわね」
マーレが龍海に抱き着いているアイリーンを見る。
「み、皆様を見てるとプリンセスの定義が揺らぎますわ」
ヘルグリム帝国のプリンセス達を見たメイプル姫はカルチャーショックを受けた。
「公務や祭礼は真面目にしてるからい~の♪ ママ達も皇后らしくないし~♪」
ブリギッタが笑ってメイプル姫を抱きしめる。
「餅は餅屋、女子は女子で呼んだけど平気か?」
異母姉妹達を呼んだ龍海が不安になる。
「龍海さんはあちらよりも、私を見ましょう」
アイリーンが龍海の視線をふさぐ。
童話寄りなプリンセスなメイプル姫と、現代っ子寄りなヘルグリム帝国の皇女達が出会った。
自分とは別方向で型破りな異国の姫との交流は、メイプル姫の心をほぐした。
「国や戦況も心配ですが、ヘルグリム帝国の皆様が優しい方々で良かったです」
その日の女子会は盛り上がったらしい。
メイプル姫を保護したヘルグリム帝国、翌日は龍海以外の皇子達とも顔合わせを行い皇帝一家全員と朝食を楽しんだ。
姫は気さくな性格で、可憐な見た目とは裏腹によく食べる性質で朝食の大食い勝負を皇子達と行なったりと打ち解けてインペリアルファミリーも彼女を受け入れた。
「家にいるのも退屈だろうし、学園を案内しようか? 戦力も十分だし」
ヒーロー候補が数多くいる学園なら安全面もクリアできるはずと龍海が打診する。
「是非ご招待をお受けいたしますわ♪」
姫が承諾したので、彼女を護衛しての登校となった。
「ここが人間界の学校なんですのね♪」
そういって、メイプル姫は力華学園の見物を楽しんでいた。
おりしもバレンタインの祭り、模擬店などで学園は賑わっていた。
「今日はバレンタインのお祭りですから特別です」
アイリーンが軽く解説する。
「恋のお祭り、人間界は素晴らしい風習があるのですわね♪」
姫は人間界に興味をもったようだった。
姫は皇子達の中では最も背が高くガタイの良いギュンターが気に入ったらしく肩車をさせていた。
「ギュンター様はお体だけでなく、髪も頑丈なのですね♪」
ギュンターのリーゼントをハンドル代わりに掴まるメイプル姫。
「勘弁してくれ、たっちゃんや幸太や明人に変わって欲しい」
「嫌ですわ♪ ギュンター様、発進ですわ♪」
「俺はあんたのロボじゃねえ!」
何だかんだ言いつつも姫を邪険にせず律義に彼女の面倒を見るギュンター。
「微笑ましいですね、私も龍海さんに肩車をしていただきたいです♪」
龍海を見つめるアイリーン。
「お姫様抱っこの方が俺が君の顔を見れるんだが?」
「そ、その提案は不意打ちです!」
文句を言いつつも、ジャンプして倒れるアイリーンをキャッチする龍海。
「お~♪ たっつんが飼いならされてるよ」
「アイリーンもすっかり家の人間だな」
異母兄弟たちの様子を眺める幸太や明人、この時まではまだ平和だった。
昼時のグランド、周囲に屋台が並び中央にはピンクのマットのリングが設営されている。
「あの四角いスペースは何ですの?」
「リングです、格闘技の試合や訓練に使う舞台ですよ♪」
リングに興味を持ったメイプル姫にアイリーンが答える。
「いや、お姫様が気にするような物じゃないから!」
そんな二人にツッコむ龍海。
他愛のないやり取りが続くかと思いきや、空に暗雲が立ち込めて緑色の小鬼の集団が落下してきた。
「あ、あれはゴブリンですわ! 皆様お逃げ……なさいませんの?」
「大丈夫ですよ、兵力は揃ってますから♪」
慌てるメイプル姫と動じないアイリーン、空から舞い降りようとするゴブリンの尖兵達に襲いかかる者達がいた!
「くたばれ侵入者!」
「バレンタインの邪魔はさせない!」
「リア充なめんな!」
「地獄へ落ちろ!」
「ここで格好良い所を見せて、チョコゲットだ!」
ゴブリン達にビームや稲妻や毒液やらを容赦なく叩きつけるのはヒーロー科の学生達だった。
哀れなゴブリン達は、ヒーローの卵達によりその命を散らした。
だが、それで襲撃は終わりではなかった。
学生達が空の暗雲を消したかと思えば、地上にあるリングに魔法陣が浮かび上がり
灰色の巨大なゴーレムに乗った王子服を着たゴブリンが現れたのだ!
「プ、プリンスゴブリン! あれこそが此度の元凶ですわ!」
メイプル姫が黄金の斧を構える!
「メイプル姫、こっちに来るんだ!」
「お断りします!」
斧を大上段に構えて突進しようとするメイプル姫をアイリーンが止める。
「大丈夫です、あなたが出るまでもありません♪」
アイリーンが微笑む。
「うるせえタコ!」
ゴーレムの片足を粉砕した者がいた、モンスターの頭が付いた黒山羊の鎧を纏ったドラゴンブリードだ。
「あれが龍海様?」
「ギュンターさん達も一緒ですよ♪」
アイリーンがあそこがギュンターだとドラゴンブリードの右腕部分を指す
「な、なんだお前は! お、俺はゴブリンの王子ゴブリンプリンスだぞ!」
「そうかよ、俺だってヘルグリム帝国の皇子だ!」
倒れたゴーレムの胸に飛び乗り、容赦なく雷を纏った拳を振り下ろす
ドラゴンブリード。
岩でできたゴーレムはその一撃で砕けてバラバラになった。
「な? ヘルグリム帝国? あの魔界の辺境最強の蛮族国家! 何で!」
「お前らこそ蛮族だろうが!」
ゴブリンプリンスの太った腹を容赦なく踏み抜き、穴をあけるドラゴンブリード。
足から火を放ちゴブリンプリンスを止めとばかりに焼き殺した。
「たっく、リングがめちゃくちゃだぜ」
ゴーレムの残骸を重力を操りブラックホールを発生させて消し去るドラゴンブリード。
「しゅ、瞬殺ですわ! 驚きですわ!」
ドン引きしながら驚くメイプル姫。
「ほら、大丈夫でしょう♪ さあ、お祭りを楽しみましょう♪」
アイリーンが優しく微笑むも、メイプル姫はその微笑みに恐怖した。
「皆様、お強いんですのね」
「まあ、皆で鍛えてますからあの程度ならあっちが弱すぎたんでしょう♪」
アイリーンの言う通り、ゴブリン側が完全になめ切っていたのは間違いはないが
ドラゴンブリードやヒーロー科の生徒達がべらぼうだったのも事実である。
「世界の広さに驚くばかりですわ!」
ヘルグリム帝国と力華学園の戦闘力に呆気にとられたメイプル姫であった。
この後、メイプル姫の証言からヘルグリム帝国の魔界の辺境最強説が強化される事となるのは別のお話である。
変身を解いて龍海達が戻って来た。
「やれやれだぜ、あれでいいのか?」
「お疲れ様です龍海さん」
龍海を迎えるアイリーン。
「皆様、ありがとうございました」
メイプル姫が礼を言う。
「ま、良いって事よ次は敵の本国攻めるんだろ?」
龍海がメイプル姫に尋ねる、敵の後継者を始末したならば一気に本国も叩くべきだ
「まあまあ、まずはバレンタインを楽しみましょう♪ カカワトルですよ♪」
アイリーンがカカワトルを龍海に差し出す。
「ああ、それもそうだな」
カカワトルを飲み干す龍海。
「お味は如何です♪」
「ああ、美味かったよありがとう♪」
ひと悶着はあったが、龍海はアイリーンと平和なバレンタインを過ごす事が出来た。
だが、今回の出来事を機に魔界がらみのトラブルが増える事になるのを龍海達は知らなかった。
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