第48話 ドラゴン・ミーツ・アフター86その4

 「めでたいとは言い難いが新年明けましておめでとう、この戦いで散っていった彼らの尽力で我々は新年を迎えられた! 彼らの魂に敬礼!」

 宮殿前に揃った参加者全員が敬礼をする。

 魔界に戻ったヘルグリム帝国一行の新年は、戦没者の慰霊祭から始まった。

 帝国建国より二千年、遥かな昔の黒山羊の軍団と言う抵抗勢力としてではなくヘルグリム帝国軍としては初めてになる宿敵ヴァンパイア族との戦いは敵の攻撃を回避し損ねたダイマッコウ号十隻の乗組員三百名の犠牲者を出して勝利で終わった。

 人間の軍隊の戦争ならば、少ない数字であるが帝国民とインペリアルファミリー全員が失われた三百の命の重さを感じていた。

 「我がプリンス、そろそろ帰還の時間のようだ」

 「そうだね、未来に戻った時この記憶がどうなるかわからないけれど心には刻まれた気がする」

 未来が確定した結果か?

 ヴォイドと繋太郎の姿が、段々と透明になって消えていく。

 未来からの稀人達は、別れの挨拶をすることなく消えていった。

 

 

 慰霊祭の後、ヘルグリム帝国では国を挙げての盛大な祝宴が開催された。

 失った命に対する悲しみを振り払う為の祝い事だ、悲しみは相殺できるものではないが国全体として前に進むには祭りを執り行うことが良いという判断だ。

 戦勝と新年の祝い、そして進太郎の即位の祝いが元旦に執り行われた。

 宮殿の広間において譲位により国母と言う地位に就いた母から、帝冠と国の花である南瓜を模した装飾の付いた帝笏を授けられる進太郎。

 

 帝笏を掲げ、国民達の前で宣言する。

 「先の戦いで散っていった者達に報いる為にも、民の為に公務を務め上げる事を私は誓う! そして十五年後、我が子龍海に帝位を受け継がせる!」

 後に、十五年宣言と歴史に記される誓いを述べた進太郎であった。

 

 「十五年か、それまでに色々学んで父さんに見劣りしないようにならねえとな」

 「私も兄弟の皆さんもいます、これまで以上に一家で支えあって行きましょう」

 「ありがとう、アイリーン♪」

 龍海とアイリーンが抱き合う。

 父の言葉に自分も決意を固める龍海と、それに寄り添うアイリーン。

 進太郎がゴート六十八世を継ぎ、ヘルグリム帝国皇帝一家の新たな年が始まった。

 

 何とか格好良く即位できたと思った進太郎を突然アニー、メイ、フラン、リーファが彼の周りに集まって担ぎ上げる。

 「え! ちょっと! お前達、一体何を!」

 皇后となった妻達に担ぎ上げられ慌てる進太郎。

 「「皇帝の初仕事と言えば子作りです!」」

 妻達に声を揃えて言い切られる!

 「い~や~~~っ!」

 その様子に、国民達は大爆笑と共に盛大な拍手で応えた。

 新たな皇帝が皇后達に神輿のように担がれて連れて行かれるのを国民達は

 「産めよ増やせよ世を満たせ♪ 偉大な黒山羊子を残せ♪」

 と国家を高らかに歌い上げながら皇帝夫婦を見送るのだった。

 「……父さん、頑張って」

 「他人事じゃありませんよ、龍海さんもお義父様に続くんです!」

 「え? アイリーン? 皆見てるから! 止めて、担がないで~っ!」

 皇帝に続き、皇太子夫妻も妻が夫を担いで退場した事で式典は平和に終わり

参加した国民達だけでなく国を挙げての大宴会へと突入した。


 後の歴史書にはゴート六十八世、式典にて自ら率先して国民の悲しみを晴らすと

好意的にまとめられた式典が終わり正月三日に人間界に戻って来た龍海達。

 「そういえば、大晦日に誰か来ていなかったか?」

 「……何でしょうか? そう言われると誰かが来ていたような?」

 繋太郎が未来へと消えていったと同時に、龍海達から彼らの記憶が消えていた。

 「……駄目だ、どうにも思い出せない! 何か引っかかってるけど!」

 「いけません、無理に思い出そうとするのは脳に負担をかけてしまいます!」

 思い出そうとする龍海をアイリーンが止める。

 「帰ってきたことですし、二人で海を眺めに行きましょう!」

 「え? ああ、そうだな初詣とかもしに行こうか?」

 「それはそうと龍海さん、私の格好を見て何か感想は?」

 龍海はアイリーンを見る、彼女は晴れ着姿だった。

 赤地に金の龍が描かれた振袖は愛らしくも闘志が感じられた。

 「……き、気合いが入ってますね」

 着物の龍が自分を睨むように感じた龍海。

 「お義母様から譲っていただいた勝負用の晴れ着です♪」

 「やっぱり母さんか、何の勝負をするんだよ! 正月くらい平和に過ごそうよ!」

 「何の勝負って、決まってるじゃありませんかぁ♪」

 アイリーンが野獣の笑みを浮かべる、ヤル気だ!

 頭を抱える龍海、年が明けてもアイリーンからは逃れられなかった。

 「取り敢えず初詣に行こうか? それから、ちゃんとデートしようぜ」

 「ええ、喜んで♪」

 アイリーンが花が咲いたように微笑む、それは冬に似つかわしくない満開の桜のような笑顔だった。

 

 その笑顔に見惚れた龍海は赤面する、愛する少女の笑顔に弱いのも父から継いだ遺伝子のなせる業なのか?

 「もう! 自分から誘っておいて照れないで下さい!」

 赤面する龍海を見て自分も顔を赤くするアイリーン、何だかんだで相思相愛なのを感じ取りながら龍海の腕を取りロックして自分へと引き寄せる。

 メキシコで行ったルチャの特訓の成果を龍海へと使うアイリーン。

 「待って! 極まってる! 極まてるからそれ! ブレイク! ブレイク!」

 アームロックをかけられた状態でアイリーンに連れ出された龍海。

 「ほら、龍海さん♪ バイコーンさんも私達を待ってくれてますよ♪」

 アイリーンが指さす方向には、無人のチャリオットに繋がれたバイコーンが停まっており二人を見つけると笑顔で嘶き首を振って乗車を促す。

 「外堀が埋められてる! ああもう、腹は括ったよ!」

 「お勧めの初詣スポットの案内と、ご祝儀袋が用意されてますね」

 「お土産リストも用意されてる、回って買って来いと言う事か」

 龍海は呆れながらもバイコーンチャリオットを飛ばして、アイリーンと初詣巡りに

旅立った。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 


 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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