第47話 ドラゴン・ミーツ・アフター86その3

 「あれはまるで巨大な棺桶だな、対象をダークコフィンと命名する」

 スペースネルソンのブリッジで艦長が敵の名を決める。

 クルー達はその言葉を了承し作業を始める。

 「核ミサイル発射準備完了!」

 「核なら邪神も殺せる、射て~~~~っ!」

 スペースネルソンから大量の核ミサイルがダークコフィンへと発射される。

 宇宙からの敵を核ミサイルで撃破する、そんなハリウッド映画の主人公気分に酔っていたスペースネルソンのクルー達の正気度が激減する事態が起こった。

 「全弾命中! ですがダークコフィン、無傷ですっ! ジーザス!」

 オペレーターは報告後に一時的な狂気に陥った。

 そんなスペースネルソンの内情などお構いなしに、ダークコフィンから

 巨大な触手が放たれたっ!

 「そうはさせん! 食らい尽くせっ!」

 スペースネルソンに迫る触手、その魔の手を阻む者がいた!

 虚空に黒き門を開いて現れたそれは、黒い巨鯨の牙だった。

 無数の黒い巨鯨、生きた万能戦艦であるダイマッコウ号の艦隊が牙を剥き怨敵であるダークコフィンの触手を口を開いて食い千切ったのだ!

 宇宙空間で繰り広げられる、鯨の群れと触手の戦い。

 核ミサイルの効かない敵や宇宙を泳ぐ鯨。

 そんな常識を超えた光景を見せられたスペースネルソンのクルー達は次々と

正気を失って行った。

 艦長だけは何とか正気を保って倒れたクルー達の分まで操船作業を行っていた。

 そんな中、突然艦内にデジタルスクリーンが浮かび進太郎が映る。

 「あ~、米国宇宙軍の司令官殿か? こちらはヘルグリム帝国海軍、米国との友好条約に基づき貴殿らの救援と引き継ぎに参上した」

 スペースネルソンの艦長に語り掛ける進太郎、語り掛けられた艦長は

 「貴殿らの救援に感謝する、当艦の地球までの牽引を頼みたい」

 「了解した、良き休息を」

 米国宇宙軍のありさまを見た進太郎はダイマッコウ号を数体、スペースネルソンの護衛と牽引に回した。

 

 「米軍の方達、相当ショックな目に合われたんですね」

 「俺達もそのショックの原因になってると思う」

 「まあ、彼らの事はアメリカに任せてヴァンパイア族退治と行こう」

 龍海とアイリーンに進太郎が告げる。


 一方、ダークコフィンにも変化が起きた。

 核ミサイルの爆発のエネルギーを吸い取った黒い棺は茨のような機械の触手を射出して退避の遅れたヘルグリム帝国海軍のダイマッコウ号が触手に貫かれ絡みつかれと蹂躙され乗組員の血肉やダイマッコウ号の機体全てが食われ敵の養分にされた。

 彼らの命を喰らい、黒い棺は悪趣味な黒い薔薇の花へと姿を変える。

 

 「忌々しい! 生き残った艦は強制帰還だ、仇は討つ!」

 自身の力でブラックホール状のゲートを開き無事な艦隊を強制的に帰還させながら進太郎はデーモンブリードへと姿を変えた。

 龍海達も、艦載機の発進口へと走る。

 「アイリーン、ドラゴンタッチだ!」

 「イエス、マイダーリン!」

 龍海とアイリーンは黄金の龍、インペリアルドラゴンへと変身しダイマッコウ号の口から飛び出した!

 

それを追いデーモンブリードハーレムフォームも、バイコーンチャリオットで宇宙空間へと飛び出し自分達に迫りくる鋼の茨を三叉槍の穂で切り払う。

 「我がプリンス、我々も続きましょう」

 「行くよ、ヴォイド!」

 ダイマッコウ号の中にいた繋太郎も金色の山羊の鎧を纏ったデーモンブリード三世へと変身し大鎌へと変じたヴォイドを握る。

 「ダイマッコウ号も変形して、ご先祖様達を追いかけるよ!」

 三世の声に従いダイマッコウ号も人型形態に変形して後を追う。

 過去、現在、未来、三つの世代のヘルグリム帝国皇帝一家の戦いの幕が開く!


 黑き薔薇となったダークコフィン内部、ブリッジに相当する広間の中心にポツンと一つだけ設置された棺桶から黒いドレス姿の少女が目を覚ます。

 金髪にゾンビの如く青白い肌の美少女は赤い瞳を輝かせて起き上がる。

 「何っ? まだ眠りから覚める時期じゃないはずなのに!」

 事態が呑み込めていない少女、スクリーンを出して外の様子を見てみると

自分の船が戦闘モードになり、金色のドラゴンや巨大なロボットなどを相手に

応戦している光景を目の当たりにする。

 「悪夢だわ! 住んでいた魔界を黒山羊の軍団に追い出された上にこの仕打ち!」

 少女はバイコーンチャリオットに乗ったデーモンブリードを見て、失禁した。

 「嘘! 黒山羊の軍団がここまで! お父様を殺したあいつが!」

 この少女、デーモンブリードの先祖である初代皇帝に追い払われたヴァンパイア族の王女でエマと言う。

 エマは、ヴァンパイア族の王女として勇気を振り絞り戦う決意を固めた。

 ヘルグリム帝国にとってヴァンパイア族は怨敵であると同時にヴァンパイア族の王女であるエマにとってもヘルグリム帝国の祖である黒山羊の軍団は国を滅ぼした怨敵だった。

 「黒山羊の悪魔! 私が倒して見せる!」

 エマは、再び自分が眠っていた棺桶に入り全身を太い針で刺され船と一体化した。

 黑い薔薇の花弁の中央が怒りの形相の女のになったことに驚くヘルグリム帝国一行。

 「ち、化け物が本領を発揮したか!」

 「でも、私達は負けません!」

 インペリアルドラゴンの意識の中でドラゴンブリードとエンプレスブリードが抱き合い闘志を燃やす。

 「ヴァンパイア族、滅すべし!」

 「皆で勝つんだ!」

 デーモンブリード、デーモンブリード三世も心を一つにする。

 「滅びろ、黒山羊の悪魔どもっ!」

 ダークコフィンと一体化したエマが叫び、茨の触手を網状に展開してビームを発射

して来た!

 「滅びるのは貴様らだ、パンプキンナックル!」

 デーモンブリードが敵の放ったビームを巨大なカボチャ型のエネルギーを纏った拳で打ち消す。

 「ひいお祖父ちゃん達はいる、なら他のご先祖様達も来て!」

 デーモンブリード三世の叫びに応じて虚空から現れたのは黒山羊の悪魔ども、すなわちヘルグリム帝国の歴代皇帝全員の魂だった。

 「皇帝軍、全員突撃!」

 三世の指揮に従い、歴代皇帝の魂達が異形の黒薔薇へと襲い掛かる!

 「黒山羊、来るなあっ!」

 恐怖におびえながらビームを乱射するエマ、だがその抵抗も皇帝軍の霊達には通じず武装である茨を切り裂かれて行く。

 「決めるぜ、アイリーン!」

 「はい、龍海さん♪」

 先祖達と未来から来た子孫が開いた道を突き進むインペリアルドラゴン。

 黄金の輝きを発する巨大な龍の突撃を避けることもできず、宇宙に咲いた異形の黒薔薇は霧散したのだった。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 


 

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