第43話 ドラゴンタッチとカカワトル

 「あの山を越えろって事か、やるしかねえな」

 山の周りを飛んで道を示すコアトルス。

 「たとえ高い山であろうと、二人の愛の力で砕いて見せます」

 拳を握るアイリーン。

 「砕くなよ! あの山は確か聖なる山だって!」

 脳筋思考になりつつある嫁にツッコむ龍海。

 龍海にとってはメキシコも自分のルーツ、郷土愛を重んじる家に生まれた

者として名所の破壊などもっての外だ。

 「それでは、どうやって上りましょうか? 私達は着の身着のままですが?」

 「自分達の素手の力で登るしかないよ、俺達ならできる」

 麓の町を住民から奇異の目で見られながら進む。

 地元の警察に発見され警察署に同行を求められたので応じる二人。

 「あ~、疲れた」

 「思ったより早く解放されましたね義祖母様、龍海さんとの写真をチームの公式ブログにアップするのは公私混同ではないでしょうか?」

 「そのおかげで出れたから良いよ、トレーニングなら自分達の敷地でやってくれってのもそうだよな」

 メキシコの英雄であるケツァルコアトルが飛んで来て、身元照会が済みお小言と

地元の警察署長へのサインで解放された。

 「父さんと母さんも同じ事して、あの警察署に写真飾られてた方が恥ずかしいよ」

 「私達の子供にも受け継がせないといけませんね」

 変な使命感に燃えるアイリーンを止める龍海、だが子々孫々この伝統は受け継がれて歴史は繰り返す事になるのをこの時の二人は知る由もなかった。

 ケツァルコアトルからも根回しを忘れた事を謝罪され、再び試練に挑む二人。

 鎖につながれたままで、ロッククライミングを始める。

 苦労しつつ頂上の近くまで登って来た時に仕掛けられた。

 「あ! コアトルスさんが岩を落としてきました!」

 「ちょ! 飛ぶしかねえ!」

 龍海が岩肌から跳躍し、鎖が伸びた瞬間に勢いよく鎖が縮み龍海とアイリーンが

空中でぶつかり合う!

 アイリーンを龍海がしっかりと抱きしめ、空中で回転しながら光に包まれた。

 

 光の中で龍海とアイリーンの意識と体が一つになり、空に金色に輝く一匹の巨大な龍が誕生した。

 その瞬間を見届けたコアトルスは歓喜の鳴き声を上げて飛び去った。

 こうして、最初は偶然の成功と言う形でドラゴンブリードの最終フォーム。

 後にインペリアルドラゴンと呼ばれる形態が誕生した。


 インペリアルドラゴンは、コアトルスを追って飛びスタート地点である神殿まで戻ると龍海とアイリーンに分離して二人は意識を失った。

 

 二人をつないでいた鎖は消えていた。

 「まずは、仮免合格と言う所ですね♪」

 ケツァルコアトルはドラゴンから分離した龍海とアイリーンを見て微笑み、二人を担ぎ上げて神殿の中へと連れて行った。


 試練を乗り越えた勇者への歓待だ、盛大にもてなそう。

 「……あれ? 俺達はどういう状況だ?」

 先に目覚めた龍海が起き上がり見回すと、石造りの見知った天井だった。

 そして、巨大なベッドの上で隣にはアイリーンがおり二人の鎖は消えていた。

 「アイリーン、起きて! 帰って来たぞ!」

 「……はっ! 私達は岩山にいたはずでは? 龍海さんがいてベッドの上とはここが冥府の楽園でしょうか?」

 「いや、俺達は生きているから! ここはメキシコの祖母ちゃんの家だから!」

 しっかりとアイリーンを抱きしめる龍海。

 「私はここが冥界でも現世でも構いません、龍海さんがいますから♪」

 アイリーンはまだ現実に戻っていなかった。

 「現実に帰ってきて欲しいな~♪」

 「そこは私と一緒に、夢の世界に沈んでも良いのではないでしょうか?」

 「いや、確かにそれも良いんだけれど!」

 目覚めたら目覚めたで、いちゃいちゃ言い合う二人だった。

 二人がいちゃいちゃしていると部屋のドアが大きな音を立てて開かれた。

 「お帰りなさ~~~い♪ そして、フェリシタデ~~ス♪」

 ケツァルコアトルが両手に二人分のメガジョッキを持って入ってきた。

 「た、ただいまってその湯気出てるでかいジョッキは何さ!」

 「何だか、あのジョッキから甘い香りがします♪」

 「ふっふっふ~♪ よくぞ私の試練を乗り越えました♪ これはそのご褒美の特製のホットカカワトルで~~す♪」

 龍海達に近づき、笑顔でジョッキを渡すケツァルコアトル。

 「進太郎とリーファにも飲ませた、私の一族伝統の味よ♪ アイリーンには後で作り方を伝授しま~す♪」

 「つまり、私を龍海さんの正妻であると認めていただけたのですね♪」

 義理の祖母の言葉に喜ぶアイリーン。

 「イエスよ♪ これを飲んで二人ともしっかり力をつけてね♪」

 「……えっと、マジで飲んで大丈夫なのこれ?」

 龍海だけは不安だった。

 「大丈夫で~っす♪ これを飲めば元気満タンで~す♪ 私もダーリンとこれを飲んでリーファを産んだわ♪」

 「その情報はいらないよね? 母親の誕生エピソードとか知りたくなかったよ!」

 祖母にツッコむ龍海、ボケ二人の中で唯一のツッコみ役だ。

 「それは違うわ、自分のルーツや命のつながりを知る事は大事よ♪」

 「そうですよ! これから産まれてくる私達の子供にも堂々と愛し合って産まれたことを教えないといけません!」

 アイリーンが叫び、ホットカカワトルを一気飲みした。

 「ちょ、アイリーン? 大丈夫かお前っ?」

 「龍海さんも飲みなさい!」

 異常なテンションになったアイリーンに逆らえず、龍海も熱さと量に耐えながらホットカカワトルを一気飲みして気を失った。

 意識を失う寸前、龍海が目にしたのは金色の龍の角を生やして鱗に覆われた肌をさらし全裸で自分にのしかかるアイリーンの姿であった。

 

 


 

 

 

 

 

 

 


 

 



 

 

 

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