龍帝乗雲編
第42話 メキシコ修行開始
「俺とアイリーンを手鎖で繋ぐって、どういう修行なのさ~!」
石造りの神殿の上からメキシコのジャングルに、龍海の叫びが轟く。
「私は一向に構いませんよ、龍海さんと繋がっていられるなら♪」
アイリーンは微笑む、彼女には鎖が運命の赤い糸に見えていた。
ここはメキシコのジャングルにあるケツァルコアトルが率いているメキシコのヒーローチーム、イハ・デ・ドラゴンのアジト。
外観は古代遺跡風だが、中身はハイテクな科学の城だ。
かつては吸血夜会中米支部の跡地だった場所だ。
「龍海、あなたの使い切れていない眠っている力を引き落とし新たな力へと進化させる為の修行よ!」
ケツァルコアトルが真面目に答える。
「俺の使い切れていない力?」
龍海が首をかしげる、父親からもらった力はそれなりに使えているはずだった。
「進太郎から受け継いだ父方の力じゃなく、私やリーファの母型の力よ!」
ケツァルコアトルが睨む。
母方の力、それは父に憧れていた龍海自身が使いながらも疎んでいた龍の力。
「龍の力?」
口が苦くなる感じに襲われる龍海。
「自分の力やルーツに目を背けちゃ駄目です、生命とは男と女、父と母が揃ってペアになって子をなして子がまたペアとなってと繋がっていくのよ?」
孫を諭すケツァルコアトル。
「それは、わからないわけじゃないけどさ」
祖母の説教は知識ではわかる龍海。
「あなた達を鎖で繋いだのは、二人の繋がりのイメージを強める為よ」
「繋がりのイメージ?」
「確かに、龍海さんからはまだ弱い感じがしますどこかまだ受け入れられていないような?」
今度はアイリーンが龍海を睨む。
「いや、睨まないでくれよ!」
「これは愛する夫への熱い視線です、やはりまだラブ度が不足ですね」
「龍海は、この機会にアイリーンをきちんと完全に受け入れてドロドロのグルグルに身も心も解け合い一体化するくらいになりなさい♪」
さりげなくひ孫の顔が見たいわ~と言うケツァルコアトル。
「ええ! ちょっとそれは行き過ぎじゃあ?」
「お任せください♪」
引いている龍海にグイグイ行くアイリーン、対照的な二人のメキシコ修行が始まろうとしていた。
「風呂やトイレの時は流石に鎖わ?」
さりげなく外れるか聞いてみる龍海。
「勿論、例外なく二人一緒よ♪」
さらりと鎖は外されないと返された。
チェーンデスマッチならぬ、チェーンライフから修行は始まるようだ。
「流石にトイレは勘弁してくれ!」
「あっ!」
逃げようとダッシュしかけた龍海だが、鎖は縮まりアイリーンが飛び跳ねて急接近してきた。
「危ない!」
それには立ち止まり、アイリーンを抱き止めた龍海だがむくれ顔のアイリーンに
ヘッドロックされる。
「その鎖は、離れようとすれば縮むようにできているから♪」
さらりと笑顔で言うケツァルコアトル、ピーっと口笛を吹くとジャングルの木々が揺れ飛び立ってきたのは槍の如き嘴を持つ細長い首をした翼竜だった。
「……え? 現代にきょ、恐竜ですかっ!」
「ヤバイ、お祖母ちゃんのこれはマジな奴だ!」
「コアトルス~♪ 龍海達を近くの適当な荒野へ連れて行ってあげて~♪」
アイリーンは驚き、龍海はがっかり、ケツァルコアトルことがぶりエラはニッコリ
と三者三様の顔をする中で翼竜の足が龍海とアイリーンをつかみ持ち上げる。
「え? た、龍海さん! この状況は一体何が起こるんですか?」
「ああ、コアトルスは身内だから大人しく運ばれてくれ」
龍海を見るコアトルスの目はどこか嬉しそうだった。
「二人とも行ってらっしゃ~い♪ まずは荒野から二人の自力でここまで帰って来るのが修行の一歩で~す♪」
ケツァルコアトルが神殿の上から笑顔で手を振って見送る。
龍海とアイリーンを掴んだコアトルスが飛んで行く。
コアトルスは嬉しそうに鳴いていた。
「何だか、嬉しそうですねコアトルスさん?」
「まあ、コアトルスとは仲が良いからな」
「も、もしや愛人関係ですか?」
「絶対に違う!」
翼竜に持ち運ばれているという状況でも、平常運転なアイリーンだった。
やがて、砂漠じみた大地と岩山とサボテンしかない荒野に二人は降ろされた。
「ふう、帰りはあっちの方向だな」
「どういうことです?」
「コアトルスが、帰りはこっちだと方角だけは教えてくれたんだ」
「ニュータントでなかったら、死んでしまう話ですね」
龍海達が目で追えるように飛んで帰るコアトルス。
「まあな、だけど俺達なら乗り越えられるさ」
「はい、頑張ってクリアしましょう♪」
龍海とアイリーンの修行は、サバイバルな旅から始まった。
ゴールは遠く、行く手には巨大な岩山も待っている。
アイリーンの手を握る龍海。
「……こ、こういう時だけ攻めて来るのはズルいです」
「こういう時が男の攻め時なの、ここぞという時に決めに行くのが男って生き物なわけで」
どこか締まらない龍海。
「そんなポイントだけ抑えれば良いなんて考えは落第です!」
文句を言いつつも顔は真っ赤になっているアイリーン。
「良いよ、俺は俺の好き勝手に動くから♪」
「もうっ! 龍海さんの手綱は、私がしっかり握りますからね!」
出会って、結ばれて、あ~だこうだ言い合うようになった二人。
鎖で繋がられなくても、繋いだ手と手は離さない二人だった。
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