第41話 祭りの後は冬

 ウイグルで父の手伝いをして学園へ戻ってきた龍海達。

 「さて、ではリングに上がりましょうアイリーン♪」

 「はい、義祖母様♪」

 「え? 二人ともまだやる気なの、やめてくれよっ!」

 「「それはそれ、これはこれ!」」

 祖母と嫁の争いを止めたと思ったら、二人は再びリングへと上がった。

 「私が青コーナーね、良いわ♪」

 ポストに上がり跳んだケツァルコアトル、それを真正面から受けるアイリーン。

 ゴングが鳴る前からの奇襲、それを堂々と受けたアイリーン。

 「家の女子はどうしてこう、武闘派なんだよっ!」

 二人を止めに行こうとする龍海、だが背後からやわらかい胸の感触と共に

羽交い絞めを受けた。

 「駄目よたっちゃん、これは二人の触れ合いなんだから♪」

 「理事長としておかしくない?」

 龍海を止めたのはリーファだった。

 「妻を信じるのも夫の務めよ、私達が育てたあの娘を信じなさい♪」

 絵顔は笑顔、口調は慈母だが羽交い絞めは緩めないリーファ。

 「それよりも、あっちで見て来た事へのお話が後であります」

 「話があるなら二人を止めろよ~っ!」

 「だ~め♪ 試合は試合♪」

 「ああ! 締まる! 締まる!」

 「さ~、ママと一緒に観戦しましょうね~♪」

 何故か用意されていた実況机に連行された龍海だった。

 「さて、試合が始まったわね実況は理事長の私がするわ」

 「マジで俺がコメントするの?」

 そんなやり取りがされる中、リングの上ではアイリーンがケツァルコアトルを受け止めていた。

 「飛び技は受け止めれば良いんです、エンプレスハンマー!」

 自ら倒れつつマットにケツァルコアトルを打ち付ける!

 ケツァルコアトル、立ち上がって無事をアピール。

 「お祖母ちゃん、無茶すんなよ」

 アイリーンイヤーは地獄耳か、龍海をジト目で睨む。

 「余所見は駄目よ~♪」

 ケツァルコアトルのドロップキックを、豊満な胸で受けるアイリーン。

 そのまま落ちるはずのケツァルコアトルの足をつかみぶん回す!

 「エンプレススイングッ!」

 ジャイアントスイングで飛ばされたケツァルコアトル、そのまま場外に行くかと思いきやロープをつかんで回転して立ちあがる。

 「一進一退の攻防ね、ママもアイリーンもどちらも良いわ」

 「俺は愛する者同士がぶつかり合うのを見て心が痛いよ」

 二人を止めようとするたびに母親に抑え込まれる龍海。

 「身内同士がぶつかる事もある、皇帝になった時にそういう時を耐える必要も出てくるからそれをここで覚えましょうね」

 リーファなりに龍海に耐える事を教えている、龍海も進太郎に似て身内を大事にしすぎる傾向を変えようとしていた。

 「たっちゃんは、今の内から自分が出張る時を見極める目を養いなさい!」

 龍海にヘッドロックをかけるリーファ、母の息子への愛が緊箍児の如く締める。

 「ヒーローは出番を見誤っちゃいけないの、かと言って何もしなくて良いわけでもないわ実戦の場で大切な人を失って泣く事がないように鍛えていきます!」

 ヘッドロックからのチョークスリーパーで落とした後に龍海に活を入れる。

 一方、アイリーンともケツァルコアトルにパワーボムを決めてフォールしていた。


 試合の後の理事長室に集まる四人、リーファが切り出す。

 「ウイグルで見たでしょうけれど、あれも私達の敵よ」

 ニュータントの軍事利用、それはこの先世界が通る道。

 だが、力の悪用は許してはならない。

 「ヴィランじゃなく国家がやってるのが面倒だよな」

 ただ悪党を殴れば良いという話ではない。

 「下手に手出しはできないですけれど、無視もできませんよね」

 アイリーンも悩む。

 「国が弱き者を虐げるのは許されるべきことではありません、自由への闘争です」

 マスクオフしたガブリエラが拳を握る。

 「私達は私達ができる範囲で動くしかできません、これからは吸血兵士達のようにニュートラルの力を悪用して生み出されたN兵器えぬへいきもあなた達だけでなくヒーローの戦うべき相手と覚えておいてね」

 リーファの言葉に頷く龍海とアイリーン、そんな二人の背中をガブリエラが音を鳴らしてはたく。

 「暗い顔をしてはいけませ~ん! あなた達には私達が付いていま~す♪」

 ガブリエラが微笑む。

 「ありがとうございます、義祖母様♪」

 「イエ~ス♪ アイリーン、ニーニョをよろしく頼むわね♪」

 アイリーンを抱きしめるガブリエラ、ニーニョと呼ばれた龍海は倒れていた。

 「流石私のママね♪」

 リーファは笑う。

 「お祖母ちゃん、勘弁してくれよ」

 「ソーリー、でもニーニョはもっと鍛えないといけませんよ?」

 龍海も抱きしめるガブリエラ。

 「龍海さん、頑張りましょう♪」

 「いや、頑張るけどさあ?」

 「二人とも、今度はメキシコへいらっしゃい♪ ルチャとタコス漬けの素敵な日々で歓迎するわ♪」

 「良いわね、冬休みはメキシコ修行とかどう?」

 「冬は炬燵であったまっていたいよ!」

 「オ~ウ、いけませんよニーニョ? やはりメキシコで鍛えましょう♪」

 「ですね、では参りましょうか義祖母様♪」

 「え? ちょっと待って~~~っ!」

 こうして嫁と祖母に両脇を捕まえられて、龍海は一週間ほどメキシコでしごかれる事になった。

 秋が終わり冬が始まる、龍海の冬は熱い始まりとなりそうだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

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