第40話 学園祭を抜けて
「文化祭だし、平和に過ごしたいな楽しい死者の日を過ごしたい」
龍海は何となく嫌な予感がしつつも、平和に過ごしたいと思っていた。
「そういえば、龍海さんは本場の死者の日をご存じなんですよね?」
アイリーンが尋ねる。
「ああ、来年は一緒にメキシコへ行こうか♪」
気軽に誘う龍海、それが新たなフラグを立てる事になるとは無自覚フラグビルダーな彼には気づけなかった。
「はい、喜んでお供いたします♪ 義理のおばあ様にもご挨拶したいですし♪」
アイリーンがほほ笑む、そんなアイリーンの笑顔に見とれる龍海。
「アイリーンの笑顔は素敵だね♪」
父親と同じく愛する女性の笑顔に龍海は弱かった。
「もう、龍海さんったら♪」
アイリーンの頬が赤く染まる、学校でも公認のカップルとなってから二人の
バカップルぶりは止まらなかった。
平和な文化祭が続く、龍海達はそう思っていた。
だが、そうは問屋が卸さなかった。
スピーカーから流れて来るのは、ノリの良いギターの旋律。
「な、何だかメキシコっぽい音楽が流れて来ましたね!」
「ごめん、俺はこの曲に聞き覚えがあるし今すぐリングから逃げたい!」
流れて来る楽曲に震える龍海、嫌な予感に襲われていた。
リングの鉄柱から花火が派手に上がる!
「ヘイ、ニーニョ! 逃げてはいけませ~ん!」
空からリングの中央に舞い降りたのは、アステカ風の羽飾りの付いた覆面を被り
赤と緑を基調としたアステカ風の衣装を身に纏った美しい金髪の女性レスラー。
「……マジかよ、もう一人のお祖母ちゃんが来やがったっ!」
「あ、あの方がケツァルコアトルさんなのですか?」
「ああ、本名はガブリエラって言うんだが何しに来たんだあの人は!」
突然の祖母の来訪に頭を抱える龍海。
「ヘイ、アイリーン! あなたが、龍海の妻に相応しいか見定めに来たわ!」
アイリーンを指さすケツァルコアトル、手ごわい相手が挑戦状を叩きつけて来た!
「おばあ様、その挑戦お受けしますっ!」
跳躍してリングに立つアイリーン。
「二人ともやめてくれ~~っ!」
龍海としては本当にやめてほしかったが当の二人からは「「ノーッ!!」」
と声を揃えて拒否された。
「俺の立場って一体っ!」
心が折れる龍海、かくして祖母と嫁の対決が始まった。
龍海はこういう時は女難の先輩に聞いてみようと父親と意識を繋げてみた。
「すまない、父さんこれからウイグルの人達を助ける為に吸血鬼部隊と戦う!」
父親の方の光景を見せられる龍海。
赤い地肌の丘陵、西遊記では炎が燃え上がる山とされた火焔山を戦場に
黒い悪魔の鎧を纏った騎士デーモンブリードが、青白い肌色の肌で牙を剥き出して襲い来る吸血鬼兵士達を相手に闇を纏った手足で格闘する様子が龍海の目に映る。
「ああっ! 父さん、本当に戦闘中か!」
父親の戦いの邪魔をしないよう意識のリンクを龍海は外した。
弱体化した吸血夜会の頭は龍海が潰した。
だが、吸血夜会が強大な勢力を誇ていた十五年前から世界中にばら撒かれた負の遺産の処理は未だ続いていた。
その中で厄介なのは吸血鬼化のノウハウだ、人間をこの技術で吸血鬼化すると弱点のない吸血鬼の兵士ができる。
現在、兵士の吸血鬼化は国連で禁止条約が締結されたがそれを素直に守る大国ではなく秘密裏に入手した技術で部隊を作り実験感覚で少数民族弾圧などに吸血鬼化部隊を投入していた。
ヘルグリム帝国は普通のヴィランや悪の組織だけでなく、こうした吸血鬼化部隊からも人々の平和を守る為にモグラ叩きの如く戦っていた。
「こっちはこっちで頑張るか」
誰かの平和は誰かが戦って守っていると再確認した龍海は自分もリングへと跳んだ。
「二人とも、今日はノーコンテストで火焔山まで俺に付き合えよ!」
祖母と嫁を抱きかかえた龍海は、空間のゲートを開き飛び込んだ。
出張中のデーモンブリードが、吸血鬼化した兵士達を殴り倒したり敵の戦車を重力でつぶしたりする中火焔山の空に闇が広がりドラゴンブリード、エンプレスブリード、ケツァルコアトルの三人がデーモンブリードの元へ舞い降りた。
「加勢に来たよ父さん!」
「何で、メキシコのお義母さんまで来てるんだ!」
「へ~イ、進太郎♪ 龍海に連れ去られちゃったわ♪」
「お義父様、加勢いたします!」
かくして、全員ではないが揃ったインペリアルファミリーは吸血鬼化部隊を相手に
全力で暴れだした。
勝負の結果は、ニュータント化した兵士とはいえども自分達よりも強大な力を持つ
ニュータントであるデーモンブリード達の手にかかれば一時間も持たなかった。
ヘルグリム帝国の勝利である。
「さて、次は収容された人達の奪還だがそれはこっちに任せて帰りなさい」
デーモンブリードが息子達に告げる。
「そうだね、思い切り不法入国とかになるしね」
「父さんが召喚魔法で呼んだ事にして丸め込むから、君達とお義母さんは早く帰りなさい」
帰りはデーモンブリードが、空間にゲートを開けてドラゴンブリード達を送り返した。
この後、デーモンブリードは救出や移民問題などの事後処理に奮闘することになるのは別のお話。
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