第34話 ミイラの呼び声

 「ここが黒砂漠か、暑いしほんとに黒い山が多いな」

 龍海が周囲を見渡す。

 「この旅は、私達の新婚旅行と言って良いのでしょうか?」

 アイリーンは龍海の隣ですっとぼける。

 「一応、式はまだだから婚前かな? って、仕事だから」

 そんなアイリーンにツッコむ龍海、二人の間を風が吹き抜ける。

 「龍海さん、そこは私に乗って下さい~!」

 むくれ顔でポカポカと龍海の胸を打つアイリーン。

 「いや、そこはきちんとしないと駄目だから」

 アイリーンの好きにさせる龍海、謎の敵の勢力下に近い所にいるのにもかかわらずイチャイチャするバカップルぶりであった。

 

 彼らが何故エジプトの黒砂漠にやって来たのか?

 「調査隊の皆さんに何があったのでしょうか?」

 力華学園大学部の学術調査隊のキャンプに残された資料を調べるアイリーン。

 龍海達が通う力華学園は大学部もあり、ニュータント民俗学で知名度を得ている。

 「教授が向かった先で、何者かに襲われたとかかな?」

 『黒のピラミッド伝説について』と書かれた書きかけの論文を見やる龍海。

 

 力華学園大学、ニュータント民俗学研究室の水又亜美みずまた・あみ教授をリーダーとした学術調査隊がエジプトの黒砂漠で消息を絶った。

 エジプト政府から連絡を受けた日本政府は、力華学園を運営するヘルグリム帝国に事件を丸投げした事で龍海達がエジプトにやって来た。

 調査隊のキャンプを発見した龍海達は、水又教授の行方を探るべくキャンプを捜索していた。

 「面識はないが、学園関係者である以上は帝国の身内だから助ける」

 龍海のモチベーションはシンプルに、身内を助けるだった。

 「私は、龍海さんと旅ができると言うのが一番のモチベーションです」

 アイリーンは、自分の気持ちに忠実だった。

 「嬉しいけど、仕事モードで行こう二人の共同作業だから」

 自分を律しようとする龍海と、旅行気分のアイリーン。

 「わかりました、しっかりやり遂げます♪」

 胸の前でギュッと拳を握るアイリーン。

 そんな彼女に萌える龍海は、すっかりバカップルだった。

 「ウエイクアップ、フランケン!」

 アイリーンがフランケンアイリーンに変身すると、目から光を出してものすごい速度で資料を読み漁る。

 「スキャンカンリョウ、タツミサン、ゴアンナイタシマス」

 フランケンアイリーンの言葉に龍海が変身をすませ、バイコーンチャリオットを召喚する。

 フランケンアイリーンにナビゲートされながら、ドラゴンブリードは乗騎を走らせ砂漠を駆ける。

 「あれは、調査隊の車か?」

 チャリオットを止めるドラゴンブリード、その目の前には破壊されたジープと干からびてミイラ化した調査隊のメンバーとガイドの遺体。

 「水又教授の遺体はありません、これは連れ去られた可能性があります」

 元に戻ったアイリーンも車と遺体を検証するが、四人乗りの車で遺体は三つ。

 「ありえるな、となると連れ去られたのはあの向うか」

 ドラゴンブリードが前を見ると、ひときわ目立つ黒い山がそびえ立っていた。

 そして、山の方から白い人型の軍団がボコボコと砂漠からポップアップして来る。

 「わかりやすいですね、示威行為でしょうか?」

 アイリーンも変身する構えを取る。

 「だろうね、付き合ってやろうか」

 ドラゴンンブリードの言葉に、アイリーンが頷き変身する。

 

 ドラゴンブリード、そしてエンプレスブリードが三叉槍を虚空から取り出す。

 槍を振るいミイラを切れば砂が飛び散り、再びミイラが浮き上がる。

 「お約束ですね、キリがありません!」

 エンプレスブリードが弱音を吐く。

 「まったくだ、このままだと俺達が負ける」

 ドラゴンブリードも気弱な台詞を吐く。

 

 ヒーロー二人が苦戦する様子を、暗い神殿の中から褐色の美少女が眺めていた。

 「くっくっく、苦しむが良い異国の戦士達よ♪ 我が呪術の恐ろしさを悔め!」

 マミーラは虚空に浮かぶ映像を見て高笑いを上げる。

 彼女の後ろの祭壇には、白いワンピースを着せられた一人の妙齢な女性が横たわった状態で拘束されていた。

 ニュータント民俗学の新鋭、水又教授だ。

 マミーラは、自分の勝利を想像して悦に浸っていた。


 そして、ドラゴンブリード達にカメラが戻る。

 「よし、そろそろ片づけるか♪」

 「はい、砂遊びのお片づけをしましょう♪」

 ドラゴンとエンプレスのダブルブリードが、槍から水を放出し始める!

 砂の体を持つミイラ達は、水を浴びた事でドロドロと仮初の体を溶かして行く。

 悲壮な唸り声を上げてミイラ達は崩れ、ドロドロにされたので新たにポップアップしてもまた水を浴びて崩れ去る。

 「砂対水、どっちがへばるか根競べだ!」

 ドラゴンブリードは敵が砂で出来ている事を確認し、春に対戦したサンドマスターや石膏使いであるナポリ女学院のジェッソと同様の能力があると推測し水攻めを思いつき見事に予想をヒットさせた。

 「セメントやモルタル作りの応用ですね♪」

 エンプレスブリードも伴侶の閃きを察して策に乗った。

 「ミイラだから焼けばいいかなとも思ったが、砂なら水だ」

 答えに辿り着く方法は一つじゃない、セオリーが正解とは限らない。

 

 かくして、ダブルブリードはマミーラの第一の妨害を無効化した。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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