第32話 三位一体の花嫁

 「え、何でアイリーンが三人いるんだ?」 

 アイリーンとのスパーリングから数日後の朝。

 龍海は目の前の出来事に混乱していた。

 

 「おはようございます、龍海さん♪」

 紫の毛の狼メイドのワーウルフアイリーン。

 「……お、おはようございます龍海さん!」

 耳が銀の鱗の魚の鰭になっている人魚メイドのマーメイドアイリーン。

 「オハヨウゴザイマス、マイダーリン♪」

 髪はピンクで肌がガンメタルホワイトなロボ娘メイドのフランケンアイリーン。

 「「私達、分裂できるようになりました♪」」

 三人のアイリーンが一斉に喋る。

 「うん、ニュートラルって何でもありだね♪ おやすみなさい」

 布団へ逃げようとする龍海を、アイリーンが三方向から取り押さえる。

 「「逃がしません!」」

 アイリーントリオが三方から龍海を逃がさない。

 「人造生命族の私、何故龍海さんの腰に抱きつくんですか!」

 狼メイドなアイリーンが赤面して叫ぶ。

 「そうです、その位置は私に譲って下さい!」

 人魚メイドのアイリーンも叫ぶ。

 「ネガティブ、コノイチデダイスキナタツミサンノニオイヲセッシュシマス」

 龍海の臭いをかぐフランケンアイリーン。

 「お願いだから、一つに戻ってくれ!」

 龍海の叫びに従い、アイリーンが一体化し元に戻る。

 「も、戻りました!」

 戻ったアイリーンは、フランケン状態の自分がいた龍海の腰に抱きついていた。

 「戻って来るの、そこなんだ」

 互いに赤面する龍海とアイリーン。

 

 嬉し恥ずかしいイチャラブな朝を過ごした二人。

 彼らには魔界でひと仕事が待っていた。


 龍海は上下黒のダブレッドにトランク・ホーズといわゆる童話の王子様服。

 アイリーンは白いお姫様ドレスにティアラと魔界の皇族らしい服装をしていた。

 二人とも、腰には変身ベルトを出している。

 ワインレッドの魔界の空の下、宮殿をバックに着飾った二人を十数名ほどの人狼や人魚に半魚人にロボットや器物と人間が合成されたような姿をした人造生命がカメラで写真を撮影したりテレビカメラを回していた。


 アイリーンの国民へのお披露目、帝国の報道機関が自分達の未来の皇后を見ようと

集まっていた。

 龍海との馴れ初めや、アイリーンの出自を聞いた報道陣は全員涙を流した。

 帝国の報道陣は、悪の組織に誘拐され殺害された自分達の同胞の命が彼女に受け継がれたと感じて流した涙だった。

 

 三つの命が繋いだ奇跡、プリンセス・アイリーン誕生!

 と言う見出しで新聞の号外が出たり、帝国にアイリーンブームが巻き起こった。


 お披露目が終わった数日後、龍海達海を眺めていた。

 波の音を聞きながら浜辺で寄り添う二人。


 「何でしょう、こうして波の音を聞いているだけで心が落ち着きます♪」

 ジャージにスパッツとスニーカーと、スポーティーな普段着のアイリーン。

 パーカーにストレッチパンツと普段着の龍海に抱きついて海を眺めていた。

 「天気の良い日の波の音は脳の疲れを癒してくれる、だから俺は海が好き」

 アイリーンを守るように寄り添う龍海、自分がこんなに他人を受け入れる日が来るとは思わなかったと物思いにふける。

 「帝国の方々に、あんな風に受け入れていただけるとは思いませんでした」

 自分の出自から忌まわしい存在と思われてるかと思っていたアイリーン。

 「その辺は大丈夫だよ、うちの民は君を受け入れてるから」

 アイリーンに微笑む龍海、後の歴史家にアイリーンを妻に迎えて皇統を繋いだ事が功績として評価されるのは別の話。

 「ええ、あの後私の能力の素になった方達のご遺族とも久しぶりにお会いしましたが相も変わらず私を実の孫の様に扱っていただけたのが嬉しくもあり複雑です」

 そう言って、龍海の胸に顔をうずめるアイリーン。

 そんなアイリーンの頭を撫でて愛でる龍海。


 砂浜を砂糖で埋めつくさんばかりにイチャイチャする二人だった。

 翌日、補習の最後の試験をクリアした二人は一週間と短いが夏休みを手に入れた。

 メイドでもあるアイリーンが家事を手伝おうとしたら義母達に止められた。

 「夏休みなんだから、青春を満喫しないとダメでちゅよ?」

 「夏は恋の季節、ロマンス満喫♪」

 「お出かけのコーディネートはお任せあれ♪」

 アニー、メイ、フランのモンスター嫁から遊びに行くように勧められる。

 メイがアイリーンを衣裳部屋へと手を引き連れて行く。

 「アイリーンに似合う夏のファッションは、悩みますわね?」

 同人誌だけでなくコスプレもたしなむメイが、メジャー片手にクローゼットから服を取り出しては悩む。

 「メイママさん! あの、私は服はそんなに気にしないので」

 アイリーンが慌てる。

 「いけませんわアイリーン、あなたはもう少しオシャレを覚えないと!」

 メイが眼鏡を光らせる。

 「ジャージ女子と言うのも萌えですが、浴衣やドレスにワンピースとあなたにはまだ見ぬ服との出会いが待っているのです!」

 力説するメイ。

 「何やら、メイママさんのオーラが凄いです」

 メイに気圧されるアイリーン。

 「とはいえ、ここは無難にワンピースでしょうかね?」

 クローゼットの一つを開けてズラリとハンガーに掛けられたワンピースを見せる。

 

 同じころ、龍海もアニーにファッションチェックを受けていた。

 「夏なんだから、ソフトシェルベストとか着るでちゅよ!」

 龍海がソフトシェルジャケットなどアウトドアファッションを好むのを知った上で

 コーディネートをするアニー。

 「え~と、どう言う流れ?」

 ストレッチパンツとTシャツの状態で、色々なベストを着せられる龍海。

 「どうもこうも、夏休み何だから学生らしくオシャレしてアイリーンとデートして来るでちゅよ! リーファはたっちゃんの服装をもっと気にするべきでちゅ!」

 アニーは頬を膨らませつつインペリアルブール―のソフトシェルベスト。

 「この色がベストでちゅね、ヒーローも私服のセンスは大事でちゅよ!」

 アニーにベストを着せられ、部屋から出される龍海。

 同時にワンピース姿のアイリーンとご対面。


 「……うん、凄い可愛い♪」

 「は、はわわっ!」

 アイリーンを速攻で抱きしめる龍海、赤面するアイリーン。

 攻守が逆転していた、龍海の中に眠っていたリーファの積極性が動き出す。

 「アイリーンは何処へ行きたい♪」

 ささやくように語りかける龍海、彼女とならどこへでも行ける気がした。

 「え、映画とか行ってみたいです」

 アイリーンの言葉に頷く龍海。


 ゲートを通じて東京へ出た二人は、映画館へと向かう。

 「龍海さん、雨天の子を見ましょう♪」

 映画館に来てはしゃぐアイリーン、龍海がチケットを購入。

 「飲み物とかは何が欲しい?」

 龍海の言葉にアイリーンがメニューを見て

 「ずんだタピオカミルクティーをお願いします」

 と決めて二つ購入して席に着く。


 『雨天うてんの子』、自由自在に雨を降らせられる能力者の少女と

 出会った一般人の少年の恋と冒険と戦いの物語。


 カップルで見ると仲が深まると言うジンクスがあるアニメだ。

 龍海は、普通に見ていたがアイリーンが手を乗せて来たのでしっかりと握る。

 アイリーンは、映画に夢中だった。

 

 悪の宗教団体が、ヒロインの少女を誘拐するシーンではアイリーンの手から汗がにじむのを感じたり名シーンの一つのヒロインが雨を降らせるシーンでは笑顔になる。


 少年が居候先の探偵事務所の面々とパワードスーツを身に纏ってヒロインの救出に向かうシーンや戦闘シーンでは興奮し、ラストでヒロインと少年が抱き合い結ばれるシーンでは涙を流していた。

 龍海はその涙を指でサラリと拭うも、スタッフロールにヴィラン対策室の名前を見て対策室ってこんな事もしてるんだと唖然とした。

 「龍海さん♪ 映画、楽しかったです♪」

 龍海の腕に抱きつくアイリーン。

 「ああ、俺も楽しかったよ♪」

 映画の内容だけでなくアイリーンの様子を眺めているのが楽しかった。

 「私がもし攫われたら助けに来てくれますか?」

 アイリーンが尋ねてくる。

 「絶対に助けるし、その前に守る」

 龍海が答えると、アイリーンが笑顔になりポンっと音を立てて狼の耳と尻尾

を生やし手足も狼になる。

 「ちょっと、ここで変身したら駄目だって!」

 半獣化したアイリーンをお姫様抱っこして映画館を出ると、夜空には満月が上っていた。

 ドラゴンブリードに変身した龍海が、バイコーンの戦車を召喚し大急ぎで空を飛び

屋敷へとアイリーンを連れ帰る。

 「龍海さん、ここは?」

 意識が戻ったアイリーンは自室のベッドに寝かされていた。

 「家だよ、満月の影響で興奮しちゃったのかな♪」

 笑って空気を誤魔化そうとする龍海、だがアイリーンの半獣人化は解けておらず彼女の瞳は怪しく金色に光っていた。

 アイリーンの様子に身の危険を感じて逃げようとする龍海。

 だが、デンジャラスな獣と化したアイリーンからは逃げられなかった。

 

 

 

 

 


 



 

 

 

 

 

 



 

 

 

 


 

 

 



 

 

 

 

 

 


 


 

 

 

 

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