第31話 彼女のベルト

 「おはようございます、龍海さん♪」

 日曜日の朝、アイリーンが龍海の部屋へと入って行く。

 アイリーンと龍海の仲は、彼女が眷属化したことから日々深まっていた。

 

 た、龍海さんの臭い♪ い、いけません! 体が勝手にウェイクアップ

 してしまいます!

 室内に入った瞬間、アイリーンは植え付けられた人狼の力が覚醒し

 半獣人化してしまう。

 

 音もなく跳躍し、アイリーンは龍海の上にのしかかった。

 顔を龍海の体に擦り付け臭いを嗅ぎまわるアイリーン。


 ああ、知りませんでした♪ 好きになった人の臭いがこんなにも愛しいなんて♪

 もう私の頭の中は、龍海さんで一杯です♪

 アイリーンの尻尾はブンブン揺れていた、理性と本能も揺れていた。

 本能が勝ったようで、アイリーンは龍海に抱きついてキスをした。


 驚いたのは龍海、目が覚めたら女性に抱きつかれてキスで口を封じられていた。

 アイリーンと龍海、瞳と瞳が見つめ合い信じあえる温もりが互いに伝わる。

 「……おはようございます♪ 龍海さん♪ マイ・ダーリン♪」

 目覚めた龍海に、アイリーンが挨拶をする。

 「おはよう、ハニー? 朝ご飯を食べに行かないか?」

 頑張って気取った返しを試すが、アイリーンはどかない。

 「私を抱いたまま食卓へ連れて行っていただけますか?」

 アイリーンが悩ましい視線で見つめる。

 「オッケー、お姫様抱っこで行こう」

 龍海の言葉に笑顔で一旦離れるアイリーン。

 Tシャツにストレッチパンツと軽く着替えた龍海が腕を構える。

 半獣化したアイリーンが跳躍し龍海の腕の中でお姫様抱っこをされる。

 アイリーンをお姫様抱っこして食卓にやって来た龍海。

 「息子よ、お前もか」

 父の進太郎は相変わらず、母達に囲まれていた。

 「父さん、他の皆は?」

 異母兄弟達がいないので聞いてみる。

 「ああ、新婚の邪魔はしたくないと早めに食って出かけたぞ」

 父の言葉に、異母兄弟達の妙な気遣いが歯がゆくなる龍海。

 「皆さん、私と龍海さんをとにかく一緒にいられるようにして下さってます」

 アイリーンが父親の言葉を補うように語る。

 「いや、何というかありがたいと言うか歯がゆいな」

 そう言いつつ、いる家族だけで朝食を取る。

 「お義母様達とお義父様、仲がよろしいですね♪」

 アイリーンは無邪気だ。

 「まあ、本当に家庭円満って大事だね」

 それに合わせる龍海

 「たっ君もアイリーンを大切にな、孫の顔は高校卒業してから見せてくれ」

 そう言った進太郎の顔にリーファの胸が当てられる。

 「パパはこう言っているけれど、早くても平気よ♪」

 リーファが息子夫婦に微笑む。

 「バックアップは任せるでちゅよ♪」

 「私達が支えます♪」

 「任せて♪」

 アニー、メイ、フランの異母達ふくむ母親組は孫の顔が楽しみだった。

 「いや、早いからね! 俺は父さんの言葉を支持したい」

 唯一父親の味方をする龍海。

 「そちらの件は、お義母様方にご教授お願いいたします♪」

 アイリーンが赤面しながら母親達に頼む。

 「息子よ、男は妻や母親には勝てんのだ」

 進太郎の言葉で朝食が終わる。

 「そうそう、アイリーンにプレゼントよ♪」

 リーファが、中心がピンクのハートの飾りで黄金の楕円形のベルトを取り出す。

 「こ、これはもしや私のドライバーでしょうか?」

 アイリーンがベルトを受け取ると、ベルトはアイリーンの体内に吸収される。

 「え、吸い込まれた!」

 龍海が驚く。

 「おめでとう、あなたは歴代皇妃の記憶と技と魂と力に選ばれたわ♪」

 リーファが祝う。

 「は、初めまして龍海さんの妻のアイリーンですご先祖様方!」

 アイリーンが手にし吸収したベルト。

 それは帝国歴代の皇妃の全てを受け継ぐ伴侶のベルト、エンプレスドライバー。

 ベルトを継承したアイリーンの精神は、歴代皇妃の魂と挨拶を交わしていた。

 「人狼、人魚、人造生命、三つの力と因子を持つアイリーンの為のベルトよ」

 リーファがベルトの装着条件などを語る、リーファは帝国の外から嫁いで来たので

装備できなかったガジェットだ。

 数分後、歴代の皇妃達との挨拶を終えたアイリーンが龍海に抱きついた。

 「龍海さん♪ ご先祖様達に私を認めていただけました♪」

 どういう会話がなされたのか知らないが、アイリーンは喜んでいた。

 「お、おう! 壮大過ぎるけど良かった」

 本人が喜んでるなら良いかな、アイリーンは可愛いし。

 龍海はアイリーンの頭を撫でていた、恋が龍海を変えた。

 「魔界パトロールの仕事もアイリーンと一緒に頑張ってもらおう」

 進太郎が告げる。

 「え、それはちょっと良いの?」

 龍海が驚く。

 「私、やり遂げて見せます!」

 アイリーンがガッツポーズをする。

 「俺としては、いざとなった時の後詰で待機して欲しいかな?」

 龍海としては帰りを待っていて欲しい本音を語る。

 「もしや他の女性を連れて帰るのに、私が邪魔なんですか!」

 アイリーンが自分の心配を吐露する。

 「何でそうなる! 俺が女に好かれるとかないから!」

 龍海が否定する。

 「龍海さんは無自覚です、ラミアランドで狙われたそうじゃないですか!」

 アイリーンが頬をぷ~と膨らませて怒る。

 「あれは、連中がおかしいんだって!」

 言い訳をする龍海。

 「私も付いて行きます、二人目の妻を迎える場合もきっちり見定めます!」

 アイリーン、ガシッと龍海を抱きしめて宣言する。

 「いや、二人目とか予定も影もないから~!」

 龍海の叫びが居間に響いた。

 

 新学期、アイリーンが龍海との婚姻を含めた交際が知れ渡り彼女は学園内において『ドラゴンマスター』の称号で卒業まで君臨する事となる。

 

 場所は変わって屋敷内の訓練施設、デーモン道場。

 アイリーンの初変身と、スパーリングを兼ねて龍海とアイリーンがリングイン。

 「よろしくお願いします、龍海さん♪」

 アイリーンが一礼、龍海も合わせる。

 「変身っ!」

 アイリーンが叫ぶとエンプレスドライバーが顕現、彼女から狼、魚、ロボットの形をしたエネルギーが放出されて渦を巻き竜巻となってアイリーンの全身を包む。


 竜巻が晴れると現れたのは、狼の頭を模した紫の複眼のマスク肩鎧は魚とロボットの頭部を模してこの三点で帝国三種族の長である皇帝の伴侶を示す。


 豊な胸が強調されたピンク色のハートを黄金の牙が左右から噛んで守るような形状の胴鎧、首を守る襟盾は山羊の角を連想させた。

 

 下腹部には変身ベルトのエンプレスドライバーを中心に、スカート状の腰鎧が付き草摺りは廻し状で急所をカバー。


 両足はもも当て、ひざ当て、脛裏にヒレが付いたすね当て、爪付きの鉄靴。

 

 混沌と神々しさの混ざった、黄金の女性鎧をアイリーンは纏っていた。

 「エンプレスブリード、参上です!」

 ここに、次代の魔界の未来を切り開く魔王の伴侶が誕生した。

 

 後に、ドラゴンブリードと夫婦ヒーローとして名を馳せる彼女の物語が始まった。

 「凄い、力が溢れてきます!」

 変身したエンプレスブリードから金色のエネルギーが噴き上がる。

 龍海も、危機を感じてドラゴンブリードデーモンアーマーに急いで変身する。

 「エンプレスシュートッ!」

 エンプレスブリードが身の丈ほどのハート型のエネルギーの紋章を作成する。

 背中かからエネルギーの噴出で光の翼を生やした彼女は跳躍し、エネルギーの紋章蹴りながら突っ込んで来た!

 ドラゴンブリードも同じくエネルギーの紋章を描き、伴侶の必殺キックを受ける。

 

 攻守双方、衝撃で弾き飛ばされるも互いに変身は解けず無傷。

 「父さんから、デーモンアーマー貰って良かった!」

 ドラゴンブリードのラスボスは目の前に存在した、勝ったら気まずくなる相手が。

 「流石、龍海さん♪ まだ行きますよ、ウェイクアップ、オールモンスター!」

 エンプレスブリードが唱えたキーワード、狼のマスクが勝手に遠吠えを上げ周囲を満月の夜の森に変える。

 月光を纏った手足の爪による斬撃のラッシュを、同じく燃える狼の爪で受けては捌き耐え凌げばザブンと音を立てて水中へ引きずり込まれるドラゴンブリード。

 水中戦では、互いに竜巻を纏ってぶつかり合い空中へと飛び出す。

 「エンプレスナックル!」

 肥大化した金色の拳を射出する、エンプレスブリード。

 「何となくわかる、避けるよりこいつは押し返す!」

 向かってきた拳を、斥力を発生させて押し返すドラゴンブリード。

 「身内とやり合うのは練習でも嫌なもんだ、相手が互角かそれ以上にヤバイ!」

 エンプレスブリードとドラゴンブリードの強さは今の所互角だった。

 

 「ならこれで終わりです、エンプレス、バーーーーストッ!」

 エンプレスブリードの胸のピンクのハートに金色の山羊の頭が浮かび上がる。

 肋骨を守る金色の牙が開かれ、ハートマークから先端が山羊の頭を象ったビームがドラゴンブリードに向けて放出されるっ!

 「喰らいたくねえよ! ゲーーーート、オーーープンッ!」

 本気で絶叫しながら、眼前の空間を横開きに異次元へのゲートを開けて自分へと放たれたエンプレスバーストのビームを異次元へと吸い込ませて相手が出し切った所でゲートを閉じる。

 

 必殺の技を出しまくった所でエンプレスブリードは披露し、変身が解ける。

 彼女の変身が解けた所で空間が元のリングへと戻った。

 倒れかけるアイリーンを、こちらも元に戻った龍海が受け止める。

 「龍海さん、こちらにほとんど反撃無しで逃げ勝ちなんてズルいです」

 龍海の腕の中で不満を言うアイリーン。

 「相手の攻撃を無効化するのも反撃だよ、しょっぱなから無茶するな」

 アイリーンを抱きしめ、彼女の頬にキスをする龍海。

 「……やっぱり、龍海さんはズルくて酷くて、でも愛しいです」

 赤面し、涙ぐむアイリーン。

 「出会った時に君に惚れて負けた分は意地でも取り返したかった、俺もだよ」

 アイリーンをお姫様抱っこしながらささやき、二人でリングを下りる龍海だった。


 

 

 

 

 



 

 



 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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